新国立劇場2023-24シーズン 演目とキャスト その②

2023-24シーズンの新国立劇場キャストについて、前回の続きになります。
前回の記事をまだご覧になっていない方はまずコチラをご覧ください。

 

<エフゲニー・オネーギン>

 

タチヤーナ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ エカテリーナ・シウリーナ
Ekaterina SIURINA
オネーギン ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ユーリ・ユルチュク
Yuriy YURCHUK
レンスキー ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ヴィクトル・アンティペンコ
Viktor ANTIPENKO
オリガ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ アンナ・ゴリャチョーワ
Anna GORYACHOVA
グレーミン公爵 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ アレクサンドル・ツィムバリュク
Alexander TSYMBALYUK

 

 

Ekatarina Siurina

ロシアの歌手なのですが、スラヴ系の歌手によく聞かれる発音が奥に籠ってしまうことがなく、素直なリリックな声なのが良いですね。

硬口蓋付近で響きが安定しているので、明るく軽く、発音も明確に聴こえるのでしょうが、
個人的には、ちょっと奥行が欲しいところで、上半身で歌っている感じに聴こえなくもないのが気になるところです。

演奏としては、常に気品があって丁寧なフレージングで、この人の歌はとても好きなんですけどね。

 

 

Yuriy Yurchuk

これは典型的な圧力で歌うタイプですね。
ピアノの表現をしようとする時は息交じりになり、
ただ強い声で押すだけなので柔軟なフレージングもない。

 

 

viktor antipenko

この演奏は7年以上前のものなので、現在どうなっているかはわかりませんが、
この声や演奏スタイルだと正直レンスキーには声が合わない上に、
持っている声も美声ではないし、伸ばす音での不要なヴィブラート、言葉の頭に段差が出来てしまってレガートも甘いと、正直良い部分が見当たらに・・・・。

 

 

Anna GORYACHOVA

深みのある声質で、高い音域も硬くならないのですが、
個人的にはどこか喉が上がった声に聴こえてしまって、歌っている時の喉の動きを注視していると、上下の動きが大きいので、そのようなところを見ても喉が開いた状態で歌っている訳ではないことは確かです。

 

 

Alexander Tsymbalyuk

他の男声陣と違って押した声ではないのが良いですね。
この音源だと声が飛んでいるのかどうかがちょっと気になるところではありますが、
籠っている感じでもないですし、高音は多少キツそうではありますが、発音のポイントも前でさばけていて、特定の母音で崩れることもなく、奥行きのある良い声質のバス歌手だと思います。

声がそこまで重くはないにも関わらず、太く歌い過ぎている感じはあるので、響きの芯が欲しいところではありますが、発声技術としてはかなり高いのではないかと思います。

 

 

 

 

<ドン・パスクワーレ>

ドン・パスクワーレ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ミケーレ・ペルトゥージ
Michele PERTUSI
マラテスタ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 上江隼人
エルネスト ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ フアン・フランシスコ・ガテル
Juan Francisco GATELL
ノリーナ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ラヴィニア・ビーニ
Lavinia BINI

 

 

Michele Pertusi

こんな大御所を呼んでこれるとは!
新国は、喜劇作品のイタリア人バス歌手のキャスティングはかなり拘ってるのを感じます。

前回のドンパスを上演した時もスカンディウッツィを連れてきたし、今年のファルスタッフでもニコラ・アライモを起用したのを見ても、若手、ベテラン問わず実力のある歌手をしっかり起用していますからね。

そしてこのペルトゥージも然り。
ヴェルディの悲劇作品も勿論素晴らしいですが、深く太い声ながら発音が明確で母音の響きが明るい。

この系譜をたどれば、録音が残っている歌手ではシエピが最も有名で偉大な歌手になるのだと思いますが、彼等はフォームを崩さずに喜劇を歌える能力があって、演劇的な大げさな表現でフォームは無茶苦茶みたいな歌手とは一線を画した演奏をしています、

声楽的な声を崩すことなく喜劇を歌うためには悲劇を歌う以上の技術とセンスが必要で、そういった演奏はやっぱりイタリア語が母国語の歌手が最も有利な部分でもありますから、必然的にイタリア人の優れたバス歌手を起用することになるのは至って必然的なことだと思います。

 

 

 

juan francisco gatell

エルネストは、とりあえず柔らかく高音が出せることが重要な役で、
立派な声よりは、柔軟でアンサンブルを壊さない声質であれば個人的には満足なので、
彼の歌唱はそういった観点からであればキャストとして相応しいかもしれません。

声的な部分では、一般的なパッサッジョ付近(五線の上のファ辺り)の”a”母音や”o”母音が特に鼻に入る傾向があるので、持っている声以上に線が細く感じてしまう。
それより高い音域に抜ければまだ良いのですが、母音の音質のバラツキは気になるところではあります。

 

 

上江隼人

このアリア好きなんですよね~。
というのは置いておいて、体格は立派なんですが上半身だけで歌っているように聴こえてしまうので、どうしてもバリトンと言うより、高音の出ないテノールの声と表現したくなってしまう。

確かに響きのポジションは良い所にあるので、発音が前でさばけていて明瞭に聴こえるのですが、低い音域になると響きが薄くなり、高音になると圧力で押したようになって余裕がなくなってしまう。
ヴェルディを得意とするのであれば、最後のG(五線の上のソの音)程度の音域は余裕で出して貰いたいのだが、直前にブレスをして3秒程度しか伸ばせず、やたらとブレスの時に肩が動くのをみても、余計な力みがあるのは明らかです。

 

 

Lavinia Bini

この人の公演スケジュールを見ると、
ボエームのミミとムゼッタを両方歌っていたり、
ドン・ジョヴァンニでもツェルリーナとドンナ・アンナを両方歌っていたりと、
レッジェーロとリリコの役両方を同時進行でこなしているようです。

細い声ではありますが、ちょっと硬質な印象の声なので、喜劇を歌うのに適しているのかは正直ちょっと実際に聴いてみないと判断が難しいところではありますが、低い音域でも籠ることなく真っすぐ声が飛んでいるようなので悪い演奏にはならないと思います。

一応ノリーナも初めて歌う役ではないようですし、声の面よりはどう役を作っていくのかに注目したいところですね。

 

 

 

 

<ドン・パスクワーレ>

トリスタン ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ トルステン・ケール
Torsten KERL
マルケ王 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ヴィルヘルム・シュヴィングハマー
Wilhelm SCHWINGHAMMER
イゾルデ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ エヴァ=マリア・ヴェストブルック
Eva-Maria WESTBROEK
クルヴェナール ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ エギルス・シリンス
Egils SILINS
メロート ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 秋谷直之
ブランゲーネ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 藤村実穂子

 

Torsten Kerl

 

最近あまり名前を聞かなかったので、もう一線を退いてしまったかなと思っていたのですが、久々に名前を見てちょっと嬉しくなりました。
ケールと言えば、コルンゴルトのオペラ「死の都」のパウール役のスペシャリストで新国で100回目の公演を迎えたということがあって、この作品が大好きな私は2日間聴きに行ったものでした。

それが、最近の新国はグールドばっかり呼びおってからに・・・・。

それはさて置き、現在ケールがどんな声になっているかが分からないので、全盛期のような声であれば100%私は聴きに行くのですが、中低音に癖があって、バイロイトでのタンホイザーなんかはそんな良くない部分が目立ってしまっている印象だったので、良い状態で来日してくれることを願うばかりです。

参考音源の通り、彼はドイツ系のテノールとしては珍しく、イタリア物の高音に必要なアクートが綺麗に出せる歌手なので、中低音で籠る悪い部分が解消されていたら素晴らしい演奏が期待できると思います。

 

 

wilhelm schwinghammer

音源が全然ない歌手なので、ヴェルレクの音源より、13:35~を参照ください。

低音は充実しているように聴こえるのですが、響きではなく声で押して歌っているように聴こえてしまうのは私だけでしょうか?
音を切る時に余韻がなくブツ切りになってしまうのも気になるところで、高い音域も苦しそうな感じがするので、正直あまり良い歌手という印象は受けませんでした。

 

 

 

Eva-Maria Westbroek

優れたワーグナーソプラノだったのですが、最近はあまり大きな舞台で歌っておらず、
ケール同様もう流石に衰えてしまったのかな?
と思ったら、最近の演奏でも十分声は10年前に劣らない状況であることを知りまして、
ひと昔前であれば超有名劇場が呼んでいた歌手なので、まだ衰えていないのだとしたらこのキャストは凄いです。

最近バイロイトでブリュンヒルデやイゾルデ歌ってる歌手連れてくるより遥かにワグネリアンも喜ぶキャスティングだと思います。

 

 

Egils Silins

そしてここにシリンスである。
新国や東京の春音楽祭ではお馴染み、ワーグナー作品は勿論リートもイタリア物も高いレベルで歌える超優秀歌手。
何も言うことはない。

 

 

秋谷直之

今までオテッロや道化師のカニオなどのドラマティックな作品を歌っているようですが、
なぜイタリア物を歌っている人がメロート?
見た感じ、口を無駄に開け過ぎて息が太くなって響きが落ちてる印象を受けるので、逆にドイツもの歌ったら響きのポイントが整って良い方向にいったりする・・・かも。

 

 

藤村実穂子

実はワグネリアンの中にはアンチ藤村がいて、確かにパルシファルのクンドリーならばその意見にも同意する部分も無きにしも非ずですが、ブランゲーネなら全然私は良い。
むしろ、そこらの外国人キャストよりよっぽど適役だと思っていますので、全体を通してトリスタンはかなり気合の入ったキャスティングだなと期待せずにはいられません。

一応藤村の歌唱についてですが、ピアノの繊細な表現は言うことないと思うのですが、
フォルテや劇的な表現をする時に、時々喉に圧力が掛かっている感じで男声で言えば、一瞬裏返るような感じになる(参考音源だと7:48~7:52辺りなど)ところがあるので、その辺りでディナーミクのレンジはあまり広くないというのが欠点と言えば欠点かもしれません。

といったところで、次回に続きます。

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