【評論】 立川市民オペラ公演2020-2021 歌劇「トゥーランドット」ハイライト&ガラコンサート

昨年中止になった立川市民オペラのトゥーランドットですが、
ハイライトにして、その他の作品アリアや重唱を含めてコンサートを行っていました。
今回はそちらの演奏会について書かせて頂きます。

 

 

 

<キャスト>

20日
トゥーランドット 鈴木麻里子
カラフ 青柳素晴
リュー 中川郁文
ティムール 清水宏樹
ピン 岡野守
パン 浅野和馬
ポン 鈴木俊介
役人 水島正樹
皇帝 佐藤洋

合唱:立川市民オペラ合唱団
管弦楽:立川管弦楽団
バレエ:ジャパン・インターナショナル・ユースバレエ

 

<演目・曲目>
第一部 ガラコンサート
ヴェルディ/「椿姫」より「乾杯の歌」
プッチーニ/「ラ・ボエーム」より「古い外套よ、聞いておくれ」 ほか

第二部 歌劇「トゥーランドット」ハイライト

 

 

まず、出演者、裏方含めて大変な努力の末に開演にこぎつけられたことと存じますし、
会場も客席は半分以下しか集客できないので、そもそも利益度外視だったのではないかと思います。
そんなことを考えると、プロの演奏家の方々、そして合唱で乗られた全ての方に敬意を表した上で、それでもプロとしての演奏ですから、その質については厳しい耳で書かせて頂きます。

 

 

<評論>

前半のガラ・コンサートは、「椿姫」、「愛の妙薬」、「ラ・ボエーム」からのアリアや重唱と、「こうもり」からバレエでした。
では出演者お一人づつ書いていきます。

 

 

 

佐藤洋(テノール)
前半では、愛の妙薬の重唱でネモリーノを歌っていました。

 

表現という面では、柔軟にピアノの表現をこなしていたのは好印象ではあるものの、
本当に申し訳ないのですが、声そのものに鍛錬を感じられませんでした。

具体的に言うと、持っている声は軽いのですが喉も上がってしまっていて上半身だけで歌っているような声なため、響きが乗らなずに散ってしまってレガートにつながらない。
そして高音にも芯がない。
ひと昔前の古楽を専門に勉強していた歌手を聴いているようでした。

 

 

水島正樹(バリトン)
前半では、ラ・ボエームの3幕の四重唱でマルチェッロを歌っていました。

声量はあるのですが、何分声が硬い。
そんなに圧を掛けて声を押し出さなくてももっと楽に歌えば良いのに・・・。
あまり多彩な音色や表現、ディナーミクを求められるような歌がなかったので、もしかしたらもっと違う歌い方もできるのかもしれませんが、本日聴いた限りでは、音圧がちょっと強すぎて聴いてるのが個人的にはキツかったです。

 

 

 

鈴木俊介(テノール)
前半では、愛の妙薬のネモリーノの有名なアリアを歌っていました。

歌った曲が全てのキャストの中で最も粗が目立つ曲だったというのはあるのですが、
[una furtiva lagrima]という出だしの歌詞だけで声の質がバラバラなのはいただけない。
五線の上のFが全部鼻声になってしまうので、この曲にとっての属音であり、頻繁に出てくる音であるために余計に全体のバランスに影響する。
そんな訳でアリアを聴いた限りはフォームの見直しが必要だなと感じたのですが、

ポンではキャラクターとしてそういう歌い方でも味が出て良かったと言えるかもしれません。
トゥーランドットで一番複雑な音楽は恐らくピン・ポン・パンのやり取りだと思うので、そっちではオケが後ろで合わせ難いだろうし、こういう状況なので合わせもそんなに出来ていないだろうに柔軟に対応できていたところは見事でした。
指揮者が後ろであの三重唱は酷だ!

 

 

 

浅野和馬(テノール)
半では、ラ・ボエームの3幕の四重唱でロドルフォを歌っていました。

響きの質は今回歌っていた4人のテノールの中で一番整っていました。
日本人テノールの鼻声率ってここまで高かったかなぁと今日聴いて思ってしまったのですが、彼だけは違いました。
薄い響きで声量があるタイプではありませんが、とても繊細な響きで歌えるので、歳を重ねれば良い意味で太く成熟していくのではないかなと思います。

ただ、ちょっと発音が奥気味でまだまだ詰り気味のため、どうしても音色が暗く聴こえて響きが乗りきっていないように聴こえてしまうので、もっと前で言葉をさばいて、声によるレガートではなく、言葉によるレガート歌えるようになるとさらに良くなるのではないかと思いました。

 

 

 

岡野守(バス)
前半は、愛の妙薬の重唱でドゥルカマーラを歌っていました。

バスなのかバスバリトンなのかはちょっとわかりませんが、
重く太い声ではなく、芯のあるリリックなバスの声で、あまり日本では聴かないタイプの声だなぁ。と思っていたらイタリア在住の方でした。

ちょっと響きを集め過ぎて柔軟さに欠ける感じはしなくもなかったのですが、ブッファをこなすバスは明るく前で響かないことには話になりませんので、そういう意味では今回歌った役はピンもドゥルカマーラも合っていたと思います。

 

 

清水宏樹(バス)
前半は、ラ・ボエームのコッリーネを歌っていました。

今回歌っていた歌手の中で一番フォームが整っていました。
押した声を出さず、ゆったりした息の流れで自然に暖かく響かせた声は、
必要以上に強い圧力で響きを集めた声のように直線的にならず、会場全体に広がっていく。

バスはどうしても低音を響かせるイメージが強いですし、バリバリ低音がなる歌手が良い声だと勘違いされてる方もいらっしゃるのですが、
バリバリ喉が鳴る声は、近くでは良い声に聴こえても遠くには飛ばず、何より言葉に色を付けることがでないので柔軟な表現ができません。

コッリーネのアリアはこの上なく地味なのですが、こういうアリアをフォームを崩さず端正に歌うことができるのは大変素晴らしいことだと思いました。

 

 

 

中川 郁文(ソプラノ)
前半では、ラ・ボエームの3幕の四重唱でミミを歌っていました。

 

高音のピアニッシモを操る技術が見事で、
ミミよりリューのアリアでその長所は生かされていました。
劇的な表現でも声が太くならないよう慎重に歌っている様子が伺えました。

課題としては高音の響きが中低音ではポジションがブレてしまうこと。
丁寧にレガートに歌っているのは伝わってくるのですが、響きの質が音域や母音によってまだまだ統一できていない部分があるので、そこが改善されるとリューのアリアなんかはもっと良くなると思います。
後、ピアニッシモは細く繊細に息を通しているのですが、そこからクレッシェンドするのに喉を押してしまうこと。
難しい部分ですがこの辺りが出来ると良いなと思いました。

それにしてもリューという役は、プッチーニ自身溺愛した人物を投影していると言われているだけあって、トゥーランドット姫に比べて明らかにリューの歌う音楽に愛情が籠ってるんですよね。

 

 

 

青柳素晴(テノール)
前半は椿姫から乾杯の歌を歌っていました。

 

G辺りの、一般的にテノールにとって出し難いパッサッジョの音域で強い音が出せるテノールで、正にスピントという言葉が似合う声です。

五線の上の方は、鼻に入ってしまったり、横に広がってしまったりして、中々芯の有る声を出せないものなのですが、そこは非常に強い声が出ていて、カラフを歌うだけあって、今回出演していたテノールの中で一番声量がありました。

ですが、自然に上に抜けていく響きではなく、圧力で出している感があって、Aより上の音はサイレンのようになってしまっていて、正直声というよりは音、
一番の聴かせ所のNessun dormaはなんとかは楽譜に書いてある音が出せたという以上のものではありませんでした。
中音域~高音まで繋がった同じ質の声で歌えないと、どうしても声量頼みの表現になってしまう。

 

 

 

鈴木麻里子(ソプラノ)
前半は、椿姫の乾杯の歌を歌っていました。

 

得意な音域とそうでない音域での鳴り方にギャップがあり過ぎて何と書いて良いか表現が難しいのですが、
ハマった時の高音は日本人歌手には中々いない、強くて真っすぐで硬質でありながら、決して太く重くならず、柔らかさもある素晴らしい声が出ていました。

改めてトゥーランドットという役を聴いてみると、中低音を歌っている時はオケがかなり薄くなっていて、あまり中音域が鳴ならなくてもどうにかなるようになっているんですね。
一般的にはワーグナーソプラノがトゥーランドットも歌うことが多いのですが、メゾ上がりの太い声のソプラノが歌うような役とは全然求められているものが違うんだなということがわかりました。

そんな感じで、トゥーランドットは安定して強く出せる高音があれば形になるのでとても良かったと思うのですが、
ヴィオレッタは苦手な部分が目立ち、五線の真ん中のD辺りがどうしても鼻に入り気味になってクリアな響きにならず・・・
聴いているこちらとしては、もっと高い音域で歌いたいんだろうな。というのが伝わってくる気がしました。

凄く注意して慎重に歌っているのは伝わってくるのですが、どうしても高音の響きが中低音では落ちてしまう。ここがどうにかできると一気に表現の幅が広がると思います。

 

 

 

<全体を通して>

男女問わず、ソプラノやテノールの高声は、楽に出る音域の質を上げるということをもっと取り組んで頂きたいです。
高い響きを意識して逆に硬くなったり、鼻に入ったりしてる印象を受けましたので、
もっと真っすぐ喋るイメージで歌うと良いと思うんですよね。
もしかしてマスク生活でその辺りの必要な表情筋群が弱ってたりしません!?

 

まっすぐ歌うイメージとして理想的だと思うのは
Laura Giordanoの歌唱
こういう歌唱を多くの日本人ソプラノがお手本とすべきなのだけど・・・

 

そんな訳で、コレは冗談ではなく、
今回一番自然で魅力的な声を出されていたのは、ナレーションをされていた柳田奈津子さんでした。
ちょっと強めの地震が途中であったって会場がざわついたのですが、彼女は動揺の色が声に出ることもなく、
淡々と、それでいてぬくもりの感じられる表情豊かなナレーションを見事な語り口でこなしておりました。
実に素晴らし!。

そして合唱。
アマチュアとは思えない統制がとれた演奏で、オペラ合唱に有り勝ちな、デカイ声の数名の声が飛び出して聴こえてくるということもなく、バランスもよかった。
本当にこの本番のために頑張ってこられたのが伝わってきました。

何がともあれ、延期を挟んで二年越しの演奏会、出演者の皆様ご苦労様でした!

 

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