日本演奏家コンクールの一位から見えてしまう発声的な限界

日本演奏家コンクールのYOUTUBEページで、
2020年の大学、一般の部の1位入賞者の演奏を公開したのですが、

その演奏を見て、お二人とも上手いのですがこの発声での限界が見えてしまう演奏と言えば良いのでしょうか?
所謂、日本人とわかる声で上手く歌っているに過ぎないということを、
ここ最近世界中の歌手を聴き漁っていることもあってか改めて感じてしまいました。

 

 

 

声楽部門 ~[大学生の部]第1位・毎日新聞社賞 樋口 有咲

かなり大きなコンクールなので、出場者の中でトップということは、日本の学生の中でもかなり高い実力があると認められたことになります。

しかしながら、どうしても真っ先に気になってしまうのはレパートリー選びで、アドリアーナとか運命の力とかを歌う声にしては軽いこと。

軽いというのは、太い声で歌えという意味ではなく、首より上にしか響きがないということ。
これでは中低音は絶対に鳴らない。

私はつい数年前までは日本人の骨格的な問題で、上半身だけで歌っているような声になるのだと思っていたのですが、実際は違いました。
日本人のソプラノに多いタイプの声質で、今活躍している中で最も好きなジョルダーノの歌唱との違いは何かを考えると、それが結局楽器の良し悪しではなくて発声そのものの違いだと分かります。

 

 

 

ビゼー カルメン Je dis que rien ne m’épouvante – Micaela – Laura Giordano

樋口さんはまだ学生でプロではないと思うので、一流歌手の演奏と比較するのは変かもしれませんが、
声質には殆ど違いはないと思います。
逆を言えば、ジョルダーノの発声技術を適用すれば、全然違う演奏ができるはずだと思うのです。

と言うより、今の歌い方だとこれ以上の伸びしろは、年を重ねて声が重くなるのに任せることくらいしかないような気がします。

コレを一言で言うと、「もっと喉を開けろ」になるのですが、
そのためにはどうしたら良いのかを教えられる指導者が、どれくらい日本にいるのかというのが結局一番の問題です。

確実に言えることは、響きを当てに行く感覚で歌っている限り喉は開かない。ということ!
響きの高さはあるのですが、言葉が飛ばずにレガートが甘くなるのも同じ原因。

そこ以外、樋口さんの歌唱で喫緊の課題は、”e”母音の音質の調整でしょう。
これが如実に表れるのが、運命の力のアリアの一番最後の歌詞「Maledizione(呪われよ)」という言葉の、語尾の”ne”で、ここだけ横に平べったくなってしまうので、全然言葉と音色乖離してしまって、最後の最後で肩透かしを食らってしまう。
これは絶対に直さないといけない。
そうは言っても、”e”母音の音色が平べったくなってしまう歌手は本当に多く、
どうしても口の前が横に広がり易いのと、口の中が狭くなり易いという特徴がある故で、彼女の場合は、”o”母音が深いポジションにあるだけに余計それが目立ってしまうというのもあると思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

声楽部門 ~[一般Aの部]第1位 田浦 彩夏

 

一般部門で一位だった、田浦 彩夏氏は大村博美氏や、故マルチェッラ・レアーレ氏に習っていたようです。

結局この歌い方だと、ちょっとオケの音が大きくなると中低音が全く飛ばないので、限界が見えてしまう。
ゲームに例えれば、どんなに鍛えてもレベルの限界が99までではなく、70位までしか上がらない状態とでも言えば良いのでしょうか。

そしてなぜ、無茶苦茶声が軽いドゥセイの中低音は飛ぶのか?

 

 

Natalie Dessay – La Fille du Regiment – Salut a la France

それは、美しい声を出すことが目的となっている発声と、
言葉でドラマを表現する、つまりは言葉を飛ばす結果として声が付いてくる発声の違いとも言えるでしょうか。
曲を歌うことも声を出すことが目的なのであれば、発声練習と大して変わりません。

 

以前対談をさせて頂いたソプラノ歌手の田中絵里加さんも、とにかく言葉を喋る練習をしてから旋律を付けると言っていましたし、彼女の歌はそういうアプローチです。
これは声の違いではなく、歌に対するアプローチの決定的な差だと思います。
綺麗な声を求めれば、それは響きを高いポジションに当てる。とかそういう発想にしかなりません。

 

 

 

Erika Tanaka – “C’en est donc fait…Salut à la France

 

冷静に考えれば、
舌や顎に無駄な力を入れず、喉が上がらないようにして息を回して頭に響かせる。
息を前に持っていく段階で押してしまう、詰りは喉が上がって喉が開かない状態になるので、こんなことができる訳がありません。
でも、そういう歌い方をしてる歌手が沢山いるのが現状です。

早くこの「日本人声」を作り出す発声から脱却する若い歌手が増えてくれることを願うばかりです。

 

 

そういえば、次にメディアがブレイクさせたがっている歌手は冨永春菜氏というソプラノ歌手のようです。

 

<経歴>

ソプラノ冨永春菜
第71回 全日本学生音楽コンクール東京大会1位及び、
全国大会1位で優勝し、春の甲子園:選抜高校野球大会にて17歳で「君が代」独唱。
第75回 全日本学生音楽コンクール全国大会大学部門2位及び、「横浜市民賞」受賞。
メディアでは TV東京「THE カラオケバトル」に抜擢出演の他、
NHK水戸TV、 新聞各社でも紹介され話題となった。
東京藝術大学音楽学部声楽科在学時、「安宅賞」受賞。
第25期 新国立劇場オペラ研修生に合格し、2022年の春より更に研鑽を積む。

 

まだあまり音源がネット上にないので、この演奏やテレビの映像を見て何か言うのは控えますが、小林沙羅氏のように知名度だけで実力がない歌手にならないように頑張って欲しいものです。

 

4件のコメント

  • Owl より:

    面白い考察ですね!日本語の言語的な特性かもしれませんが…潜在的に楽器を持ってる人もいるにも関わらず、良い発声を教えられる人材が少ないためにLv.に上限がついてるというのがとても分かりやすい例えでした。昨今演奏会マニアな方が最近は若い人の声が良くなって来た…とも言っているのでそういう旧来の発声から脱却して来ている部分もあるのかもしれません。Yuyaさんは恐らく
    海外の方に視野を向けてるかもしれないのですが逆に日本の若手で楽器を持ってる、もしくは潜在的に伸びるかもしれない若手の歌手を各声部ごとにブログに載せたりはしないのでしょうか…?

    • Yuya より:

      Owl様

      コメント下さいましてありがとうございます。
      確かに最近の若い世代は確実に良い声になっていると思います。
      「芸大受験します」みたいな子が何人かYOUTUBERやってったりするんですけど、
      20歳前でこれだけ声出せるのかと驚くような方もいたりします。

      最近の若い歌手はあまりわからないですね。
      今では売れっ子ですが、宮里 直樹氏は芸大に在籍していた時から抜けていた印象はありました。

      若手と言えるかどうかは分かりませんけど、ハープを弾き語りするソプラノ歌手でハーピストの弟橘レイアさんなんかは、
      ハープに合わせて歌うための発声を追求されたというだけあって、日本語の響きをポジティブに生かせる興味深い歌唱をされていると思います。
      私にとっては、二期会の本公演出てる大半のソプラノよりよっぽど魅力的なので、興味がありましたら聴いてみてくださいませ。

      弟橘レイアさんの歌う「荒城の月」
      https://www.youtube.com/watch?v=HzNdEtn9lS4

  • 池上寿美 より:

    たくさんいっぺんに素晴らしい声が聴けて、ありがたかったです、
    オペラは芝居です。その辺も日本人は苦手なのだと思います。
    発声の話でなくてごめんなさい。
    こういうはっきり言いきる考察は、気持ちが良いですね

    • Yuya より:

      池上寿美様

      コメントありがとうございます。

      オペラは芝居。仰る通りです。
      だからこそ、声ではなく言葉で表現しなければならないので、
      そういう部分でも日本人には言語的なハンデがあるのですが、
      声にどうしても意識がいってしまうために、余計西洋の優れた歌手とは違ったフォームになってしまう。

      私自身の記事は見る人によっては独善的なので、不快に思われる方もいらっしゃるのですが、
      そのように肯定的に受け止めて頂けると、このような活動を続ける原動力になります。
      今後ともご覧頂ければ幸いです。

コメントする