声楽教師の選び方についての考察

先日、国内で活躍していらっしゃるテノール歌手の方(以降Tさんとします)にお話を伺った際に、

やっぱり一番難しいのが最初の先生の選び方

ということで意見が一致しました。
そんな訳で今回は、気を付けた方が良い声楽教師の特徴について紹介します。

 

ある程度知識や技術が付いて、
勉強したいことが見えてくれば、その分野を専門にしている方を探して学ぶことができるのですが、
声楽を初めて習う方や学生さんなんかは正直運です。

そこで頼るのは
プロフィールを見て、凄いことが書いてあるから良い先生。
合唱指導などに来ている顔見知りの先生だから信用できる。
といった部分しかなくなってきます。
それに、家族や親戚に音大出身者でもいない限りは習う先生を選べるような状況ではないでしょうしね。

そこで今回は、こんな指導をする先生は注意しましょう!
というポイントを幾つかまとめたいと思います。

 

①発声練習を全然やらないで曲を歌わせる

コレ、私は音大受験のためにレッスンを受けていたからあり得ないと思っていたのですが、
アマチュアの方の指導現場では意外と多いみたいですね。
音楽教室のレッスンは短いと30分しかないこともあるのかもしれませんが、
地道なトレーニングに時間を使いたくないので、とにかく曲をやりたい。
という方はともかくとして、ボイストレーニングをやらずに、いきなり曲を歌わせる先生は、ちゃんと教える気がないと思った方が良いと思います。

初めて歌をされる方だったら、普通に発声練習や説明で30分は掛かる。ということでTさんも同じ意見でしたし、私の実体験でも、フォームを整えるのにボイトレだけに通ったものでした。

 

 

②発声練習の意図を説明しない(できない)

発声練習はただ喉を温めるものではありません。
どんな音形、どんな母音、子音を使うか。
どんな音域を使うかは声の状態に合わせて考えやるべきことで、ちゃんと意図を持ってやることです。
合唱団の指導であれば一人一人を見ていられないので中々そういうことはできませんが、
個人レッスンでは、生徒の方がどのレベルで歌えるようになることを求めているかにも寄りますが、発声でできないことは曲では中々できませんので、苦手な発音やパッセージを改善する手段として、発声練習で試行していきます。

発声練習の意図を説明できない声楽教師は、
医者で言えば、症状と治療法、薬について何も説明せずに検査や薬を処方するようなモノだと思って良いと思います。
なので、発声練習がルーチン化して同じことしかしない方も注意が必要です。
成長すれば、それに合わせて違うステップを提示できるのが良い先生です。

 

 

③抽象的な言葉を頻繁に使う

ココがとても厄介なところで、間違っていないことでも受け取り方が難しく
生徒に誤解を与えるものが沢山あります。
そんな声楽の教育現場で頻繁に使われる言葉を幾つか取り上げていきます。

 

◆もっと支えて
「支える」この言葉を使わない声楽教師はいない。と言って良いかもしれません。
しかし、この意味をちゃんと説明してくれる方は少ないように思います。
重いモノを持ち上げさせたり、壁などを押させたりした時に腹筋に力が入るところを意識させて、
「コレが支えです。」
と説明するのが一般的ではないかなと思います。
他には、所謂丹田に刺さっていくような感覚。
みたいな感じで、私も高校生~大学3年生までは指導されていました。
それに加えて、男声は特にだと思いますが、
「高音は背筋を使うんだ!」
と言われて、のけ反って声だしたりする癖が付いてしまう人もいます。

勿論それで上手くいく人もいるでしょうが、
私は残念ながらそれでは理解できず、力を入れることに意識がいってしまって、
余計に身体をガチガチにして歌っていたように思います。

よく言われる丹田の部分だけが独立しているのではなくて、
全ては連動して動いているという部分を理論的に説明できないと、ただ力むだけになってしまう。
ドイツに暫くいてあちらでも指導していた知人なんかは、人体模型とか、そういうのがわかる図なんかを常に指導の際は持ち歩いて説明してましたね。

感覚的な指導であっても、普段無意識に使っている歌に必要な筋肉を、どのように意識させるかということが伝えられる方であれば、解剖学的な説明でなくても十分だとは思いますが、ただ「支えて」しか言わない方は教師としてはあまり良くないと思います。

 

 

◆響きを集めて
声楽にとって重要なのは響きですが、これは作為的に作り出すものではありません。
発声の際に、ハミングやタンロール、リップロールをした時に、
響きの集まる感覚を意識させるなど、響いている感覚を意識させるような指導をされる方は気を付けた方が良いかもしれません。

唇の先や、鼻先に響いている感覚を意識して、そこを狙って息を流してください。
みたいな指導は100%間違えと断言できます。

その理由は、前に響かようとしたら絶対に喉が上がるからです。
「声が硬い」と注意しておきながら「響きを当てろ」
と言われたらどうすれば良いのでしょうか?
これは完全に矛盾しています。
柔らかい響きを出すには咽頭や口腔の共鳴で骨や歯が共振することが重要です。

冗談みたいな話ですが、あるテノール歌手は、本番歌って戻ってきたら入れ歯が消えることが何度かあったそうです(笑)
それ位、良い歌い方をしていると歯というのは振動するということなのでしょう。

 

◆鼻腔共鳴を使いましょう
これは合唱指導の現場でよく耳にします。
合唱指導の現場には、声楽ではなく作曲や指揮、その他楽器専攻の方も沢山いらっしゃいますので、
そういう方が聞きかじった知識で使う言葉の代表格と言えるかもしれません。

音が出るのは当然声帯です。
声帯から鼻腔はとても離れています。
その間の空間を無視して鼻腔を重視するというのはちょっと理屈を考えれば変だと分かるのですが、
鼻腔は骨で覆われていて空間がほぼ一定に保たれているので、均一な響きに揃えやすいという、とても合唱的な都合の良さがありますので、ここまで合唱界で神格化されているのではないかと私は考えています。

◆喉を開けて!
多くの場合、
「あくびをするように」
と指導されるアレですね。
私個人としては、この指導が一番有害でした。
あくびをしてる時に喉が下がるので、その状態を保って歌ってください。
みたいなことを言われて、それをやったら全然言葉が発音できない。
以後も喉を開ける=無理やり喉を下げる。と勘違いしたまま大学3年までの時間を無駄にしました。

現段階で私の見解としては、喉をどうこうするより、舌の力をどう抜くかの方が重要だと思います。
喉をちゃんと開けるには相応に筋力を鍛えないといけないので、
まずやるべきは舌先と唇の先だけで発音するためのトレーニングをすることでしょう。
コレは歌をやる限り追求し続けないといけない部分で、過去に動画をアップした通り、ナタリー・ドゥセイのような一流歌手でもそのような訓練をしています。

 

 

 

もっと息を流して!
レガートで歌えていない時に、
「息が止まっているからもっと流して!」
と指導する方は結構多いと思いますが、息を前に強く吐くとどうなるか?
それは喉を押すことに繋がったり、息漏れを引き起こしたりします。
息漏れは、声帯がちゃんとくっついてない状況で、その状況で歌い続けると悪影響が出ます。
勿論間違っている言葉ではないのですが、受け取り手が実際に何をすれば良いのかを指示する言葉としてはあまりに抽象的です。
息を流して!と言われて単純に吐く息の量を増やしても、良い結果には中々結びつかないのではないかと思います。

 

 

パっと思いつく限りではこんな感じです。
後は、できれば言葉だけでなく実演で模範を見せられる先生の方が分かり易いでしょう。
コレペティのレッスンなどであればまた別ですが、実際に教わることより、目の前で歌ってくれている先生から学ぶことも多いですからね。

また思い当たるものがあれば書き足していこうと思いますが、
もし、声楽のレッスンを受けている方で、
言われていることの意図がわからないことなどがあれば、
答えられる範囲でお応えできればと思います。

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