Fabian Lará(ファビアン ララ)はメキシコのテノール歌手。
Plácido Domingo, Gregory Kunde, Ramón Vargas,Javier Camarenaといった古今の錚々たるテノール歌手のマスタークラスを受けたサラブレッドと言えるのがララです。
軽さと強さを持ったリリコスピントの声質と、いかにもラテン人らしい熱っぽい歌唱はイタリアオペラの主役を歌うのにうってつけの声を持ったテノールと言えるでしょう。
現在はルチアのエドガルド、リゴレットのマントヴァ公爵が主役としては当たっているようで、今後はもう少し重い役も歌っていくことが予想されます。
まだYOUTUBE上に音源は少ないですが、中々魅力的なテノールなので紹介することにしました。
所々音程の不安定なところがあるのは気になるところではありますが、
何と言ってもパッサージョ~上の響きが素晴らしいです。
五線の上のF・Fis・G辺りを強さがありながらも柔らかさも兼ねた響きで出せるテノール歌手は中々いません。
特にフィナーレのTu che addioはTombe degl’avi mieiよりも良さが出ていると思います。
粗さと輝きが交錯した歌唱がいかにも若手テノールらしくて、録音状況が悪いながらも個人的には結構聴いていてわくわくさせられます。
これは見事ですね。
今のテノールで言えば、まるでフィリアノーティのようですね!
Giuseppe Filianoti
2人とも甲乙つけがたい完成度の演奏をしいますね。
この2人の歌唱の共通点は”i”母音が鋭く明るく、そして開いた声であって、
その響きを軸に他の母音が形成されていることにあると言えると思います。
ララ(2:15~2:37)
フィリアノーティ(2:04~2:23)
「Non promette un di felice di mia vita il triste albor m’hai rubato incantatrice」
という歌詞の部分ですが、
フィリアノーティは「promette」の”e”母音で響きが落ちるのですが、ララは落ちません。
ララは最高音に上がる「albor m’hai」で少し喉が上がってしまうのですが、そこを除けば本当に響きの質はそっくりです。
繰り返しになりますが、「felice」の”li”、「vita」の”vi”、「riste」の”ri”、「incantatrice」の”ri”これらの”i”母音の質がとても重要なことが、2人の演奏を聴くとよくお分かり頂けるかと思います。
この2人と比較すると、一時期世界中の主要歌劇場を席巻していたヴィリャゾンの響きは一段低く、本当に良い響きには至っていないことがわかります。
Rolando Villazón(2:16~)
この通りララは感情に任せて勢いで歌っているように聴こえて、実はかなり繊細にブレスコントロールが出来ているので、ディナーミクも至って自然で、どんな音域でも響きのポイントが落ちません。
これだけ良いポジションで歌えるテノールが現在どれだけいるでしょうか?
この演奏では口のフォームが良く見えますが、
やっぱり常に縦に開いていて、下唇や顎に全然力みがないんですよね。
そしてこの人の凄さは、ドン・カルロのアリアでは”i”母音を基準に明るく鋭めの声で歌っていましたが、この蝶々さんのアリアでは、”u”母音を基準に響きを作って、重い声にせずに深く暗めの音色を作っていることです。
響きの高さは保ったままで深く暗めの、よりスピントに近い声を母音の音色を上手く利用して作り出している。
ドミンゴの2つのアリアの歌い方を聴いてみれば、ララの凄さがよりわかります。
Plácido Domingo
蝶々さん
ドン・カルロ
ララ(0:55~)
ドミンゴ(0:56~)
蝶々さんのアリアの
「non reggo al tuo squallor」
という歌詞の部分が顕著に分りますが、
ララは”u”母音でも高音が理想的な響きで安定しているのに対して
ドミンゴは”u”が痩せた響きになり、”o”で開くので、「tuo」という単語とはアクセントが変わってしまっているのように聴こえます。
このようにララはただ声が素晴らしいだけでなく、発声技術的にも大変レベルが高く、それでいてラテン人テノールらしい熱さがある。
これほどイタリアオペラのテノールが好きな方にとって魅力的な歌手はそうそういないのではないかと思います。
私はこういう歌手を見つけるとそれだけでワクワクしてしまいます。
綿密に計算されたドイツリートも良いですが、ただ良い声で歌っているだけのように聴こえて、実は凄い技術が凝縮された歌唱を目の当たりにした時の衝撃は格別です。
まだYOUTUBEにはこの3つしか音源がアップされていませんが、今後の活躍がとても楽しみなテノールです!
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