飛ぶ鳥を落とす勢いのソプラノEmöke Baráthの実力は本物か!?

 

Emöke Baráth(エメーケ バラート)は1983年、ハンガリー生まれのソプラノ歌手。

 

古楽の演奏の鬼才として現在大きな注目を集めている若手ソプラノのバラート。
2011年インスブルックのバロックオペラコンクールで1位。
バーバラ・ボニー、キリ・テ・カナワ、エヴァ・マルトン、アルフレッド・ブレンデル、鈴木正明といった錚々たる歌手、ピアニスト、指揮者のマスタークラスも受けており、昨年発売されたCD(Voglio Cantar)の評価も非常に高い。

 

 

 

 

 

 

 

ここまで圧倒的に評判が高いとちょっと斜めに見たくなるのが私の悪い癖でして、
もしファンの方がいたら申し訳ないのですが、私の感覚としてはちょっと人気が先行し過ぎている印象を受けてしまう。

ということで、今回はバラートの歌唱を診ていこうと思います。

 

 

 

ヴィヴァルディ ジュスティーノ Quell’amoroso ardor

まずは得意なイタリアバロックから。
細かい音を歌う技術は素晴らしいく、
ただ技巧的に歌うだけでなく、動きの中に繊細な表現を織り込んでいるところに歌唱の見事さがあります。

また、軽い声でありながらも暗めの音色が悲劇的な雰囲気をより引き立たせるようでもあり、
確かに特別な才能を持った歌手であることは間違えないでしょう。

とは言え、この類の曲を得意としている歌手はロマン派のオペラやリートと比べると格段に少ないので比較の対象も限られてきます。
同じくバロックを得意としてるラベッレの演奏がこの曲を歌っている音源がありました。

 

 

 

Dominique Labelle

どちらの演奏が好きかと言われれば、バラートの表現の方が聴いていて表現的には面白いのですが、
純粋に声だけをとればラベッレの方が断然好きです。

バラートの声には倍音が全然ないように聴こえてしまって、
一言で言えば硬くて不健康な響きと言える。
この特徴は有名な曲を歌うとより分かり易くなります。

 

 

 

 

モーツァルト  Exsultate, jubilate

では個人的にお気に入りのバカノワと比較して頂きましょう。

 

 

 

 

Ekaterina Bakanova

文章で一々説明するまでもなく聴けばお分かりになると思いますが、
バラートは鋭く軽い声ではありますが、発音を全部奥で処理してしまって詰まってしまって、言葉が全く前に出てきません。
母音にもかなり音質のブレがあり、”a”と”e”母音が不安定になり易いです。
バラートの歌唱を聴いた後にバカノワの声を聴くと、実に開放的に聴こえることでしょう。

古楽を歌うとそこまで気にならない声の癖も、古典派以降の曲を歌うとこの通りです。
因みに一番有名で華やかな、Alleluiaだけを聴き比べると、バラートの技巧は申し分ないだけにそこまで遜色なく聴こえます。

なお、バカノワについては以前に称賛する記事を書いたので併せてご覧頂ければと思います。

 

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個人的に注目しているロシア人ソプラノ Ekaterina Bakanova

 

 

 

 

シューベルト 冬の旅 Gute Nacht

なぜ、よりにもよって冬の旅を歌ったのか私には理解できませんが、
女性版ボストリッジでも目指しているのか、演劇的な表現に走っている感じがもう個人的にはダメです。
その上、たかだか五線の上のFやEあたりで既に発音が不明瞭になっていて、
低音は低音で、五線より下のDですでにスカスカな声、全くレガートで歌えていないときたもので、この演奏で高評価が49、低評価0というのはちょっと信じられない。

そもそも、女性で冬の旅を歌っている歌手があまりおらず、有名所ではシュトゥッツマンやファスベンダーですが、
ソプラノとなると、シェーファーくらい。
白井光子も歌っていますが、完全にリート歌手なのでここでは比較に出しません。

 

 

 

Christine Schäfer

因みにシェーファーの演奏は結構良いです。
テンポを揺らし過ぎているので、シューベルトと言うより、マーラーかよ!、と個人的にはツッコミたくなる演奏ではありますが、全然詩に対する感覚がシェーファーとバラートで違うことが分かると思います。

 

 

 

 

モーツァルト  ポンテの王ミトリダーテ Soffre il mio cor

このアリアは無茶苦茶難しいので、歌えるだけで凄いとは思います。
フリットーリも歌っている演奏があるのですが、彼女ほど高い発声技術を持った歌手の演奏でも低音が詰まった声になってしまっている程で、楽譜を見るとこの曲の難しさがよくわかります、
以下で歌っているのはパーション

 

 

 

Miah Persson

こういうのを見ていると、バルトリのソプラノ版的な歌手がバラートなのかなというイメージですが、
バルトリほど衝撃的な超絶技巧の使い手ではないので、凄いには凄いのですが、非常に独特な発声をしていることは確かで、一般的に言うスター歌手とはちょっと違う部類な気がします。

なお、当然と言えば当然ですがバルトリとバラートの発声は全然違います。

 

 

 

Cecilia Bartoli

癖が強くても、バルトリとかマリリン・ホーンくらいになると、
好き嫌いは別としても常識では計れない器の歌手だなということは誰もが認めるところだと思いますが、バラートはそこまではいってない。
そういう意味でも今の評判の良さには疑問を持ってしまいます。

 

今後もバロック作品を中心に歌っていくのか?
それとも冬の旅を歌ったように、リートや更に踏み込んでモーツァルト以降のオペラも歌うようになるのか?
レパートリー次第で歌唱スタイルの変革が求められることになりそうですので、これから数年でどういう曲を歌って、声がどうなっていくのかは注目したいと思います。

 

 

CD

 

 

 

 

2件のコメント

  • めぐ より:

    ビバルディはすばらしいと思いました。

    生地で例えると、柄がはっきりした平織りの生地でなく、ハッキリはしないけど、ビロードの肌触りのよい生地のような…

    心地よい声でした。

    • Yuya より:

      めぐさん

      ヴィヴァルディは自分の表現を持ってますよね!
      レパートリーぶれずにやっていって欲しいですけど、
      もっと人気が出ると、高額なオファーで大劇場から声掛かったたりしたらどうなるか・・・
      自分の道を行って欲しいですね!

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