Timon Führ(ティモン フィール)は1989年、ドイツ生まれのバリトン歌手
マインツ生まれ、Die HfMDK Frankfurt(直訳するとフランクフルト音楽美術大学みたいな感じだと思います)にて、Thomas Heyerというテノール歌手に習っています。
Thomas Heyer
2010年にオペラデビューしていますが、その後もJ
ohannes Martin Kränzle
Andreas Scholl
といった歌手の元で研鑽を積んで,
その後はフランクフルトの劇場や、ラインガウでのコンサート活動に参加しているようです。
歌っている作品はモーツァルトのオペラやリートの他にも、古典~ヴェリズモまでのイタリアオペラ、その他にもミュージカルにも出ているようで、レパートリーはかなり広そうです。
そんな、フィールの歌唱ですが、以下のような感じです。
ロッシーニ アルジェのイタリア女 Le Femmine d’Italia
まず、癖がない明るく温かみがあって真っすぐな声が好印象を与えます。
師匠のクレンツレにも似ている感じはしますが、彼よりくすんだ感じがなくてイタリアオペラにも向いた声だと思います。
まず、前に響きがしっかり乗っているのは勿論、ドイツ系のバリトン歌手としては珍しいほどに母音の響きが明るいのが彼の長所なのではないかと思います。
まるで若いころのルネ・パーペのよう!
René Pape
※エラーのようになっていますが、YOUTUBEに飛んで動画を再生することは可能です。
シューマン 詩人の恋(全曲)
いつの映像かはわからないのですが、1年以上は前の演奏なのではないかと思います。
声は良いんですが、どうも棒歌い感が否めない。
具体的に言えば、全部の言葉が同じような間で歌われると言えば良いのか、
曲の中には当然山があって、もう少し細かく分ければ、複数の文章があって、単語があって、音節がある・・・といった具合になるのですが、彼の歌唱は、1音節ずつが同じ重さで歌われているように感じてならない。
分かり易く言えば、どんな言葉でも子音の出し方が変わらないとも言えるのですが、
この人、ドイツ人なのにイタリア人のような歌い方で面白い。
子音の表現に難がある一方で母音のレガートはとても美しくて、リートを得意とする歌手に有り勝ちな抜いたピアノの表現もしないので、どこを切っても言葉が明瞭で母音の密度は本当に素晴らしい。
例えばウェルバと比較してみると、彼の良さも課題もより明確に見えるでしょうか?
Markus Werba
歌唱としてはウェルバの方が全然上手いと思うのですが、声だけの心地よさなら私は断然フィールです。
ウェルバは母音の発音が奥めなので、どうしてもディナーミクや音域によって抜いたり押し気味に聴こえたりと響きの質に統一感がなく、母音の明るさからも開放感のある声とはとても言えません。
フィールの方はと言うと、13:06~(Hör’ ich das Liedchen klingen)の歌唱なんかは、ピアノの表現にも関わらず、常に響きが前にあって、明るく開放された声を失っていないのですから、抜いた表現のピアノとは全く別物、ウェルバの演奏(13:50~)とは発声技術的には一線を画している。とさへ言えるくらいフィールの演奏はこの曲に限って言えば優れていると思います。
こういう歌い方ができる歌手は正直殆ど聴いたことがないです。
シューベルト Schwanengesang(全曲)
この演奏が今年に入ってからの演奏。
つまりは、今まで紹介した演奏より歳を重ねた演奏ということになる訳ですが、
かなりレベルが上がっているなという印象です。
言葉の扱い方と言えば良いのか、間の取り方が詩人の恋の演奏から比べると随分と上達して、良い声だけど一本調子のような感じはなくなりました。
大雑把な言い方ではありますが、課題は全般的に高音でしょうか。
まだまだ音色のコントロールができるほどではなく、抜いた感じや、猫なで声にならない芯のあるピアノの表現や、柔らかく広がりのある高音が出せるようになれば、本当に現代屈指のリリックバスバリトンになれる可能性を感じます。
中低音の声が本当に素晴らしいだけに、高音で硬くなって揺れてしまうのが目立ってしまうのは仕方ないのかもしれませんが、アンドレアス・シュミット以来、久々に大げさな表現をせずに、ただただ良い声を最大限に生かしたシンプルな歌唱で存在感を示せる歌手になるのではないかと期待しています。
Andreas Schmidt
アンドレアス シュミットは、何故かゲルネやトレーケルより知名度が低い気がするのですが、個人的には、実力では全然上だと思います。
この人のRシュトラウスのCDは激安な上に最高レベルの演奏なので、リート好きは絶対買った方が良いです。
私は2千円位で買った記憶がありますが、
更に安値段が付いている・・・かと思ったらMP3番は8千円する。
買うなら絶対CD版です。
と、最後はフィールではなくシュミットを称えてしまいましたが、
何と言ってもフィールはまだ30歳を過ぎたばかりという年齢を考えれば、バリトンという声種であることも考慮すれば伸びしろしか感じませんので、これから10年、20年と歳を重ねてどんな演奏をしてくれるのでしょうか?
それこそ、レパートリーを考えてもワーグナー歌手にも、コンサート歌手にも、あるいはブレンデルのようなヴェルディバリトンとしても存在感を示す歌手にもなれるポテンシャルを感じますので、これからの活躍に注目です。
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