気づけば昨年入院してから、もう一年以上オペラに行けていなかったので、
かなり久々になりますが、決してブログを辞めた訳ではありませんが、
何分単身での演奏会訪問が難しい身の上となってしまったので、中々更新できないことご了承ください。
さて、今回行ってきたのはタイトルにもある通り、
立川市民オペラのプッチーニ作曲「ラ・ボエーム」です。
<出演>
出演
ミミ 石上 朋美
ロドルフォ 澤原 行正
ムゼッタ 田中 絵里加
マルチェッロ 高橋 洋介
ショナール 香月 健
コッリーネ 小野寺 光
ベノア/アルチンドロ 志村 文彦
パルピニョール 東原 佑弥
まず、自分の席が1階の一番後ろの方だったのですが、
声がどうも遠く聴こえる席だったので、演奏会に行かれた方でも自分と全然違う感想を持った方がいらっしゃっても不思議ではないことを断っておきます。
会場のたましんRISURUホール(立川市市民会館)大ホール、
今までいった記憶がなくて、他の席との比較が自分の中でできないんですよね。
それでは主役から順に記載していきます。
ミミ役:石上 朋美
まず声そのものはとてもミミに合っていて、
直線的な硬い声ではなく、柔らかさと、低い音域でも細くならない適度な太さがあり、
ディナーミクも確実にこなせる技術がある。
音域によってムラがなく同じように声が出せるので、ミミのように、あまりテッシトゥーラの高くない役を歌うには適していると言えるかと思います。
母音については、多少のバラつきを感じたのですが、前述の通り、あまり良い音響状態の席ではなかったこともあって、発音的な部分は詳しく書くのが難しい。
ただ、ちょっと”a”母音なんかは鼻に入りそうになっている感はありました。
YOUTUBE上にあまり良い動画がなくて、声の参考として4年以上前のリモートでの演奏をアップしておきます。
ここからが課題に感じた部分なんですが、
フレージングが機械的で、呼吸の緩急が感じられない。
レガートの技術はあるはずなのに、音と音の繋がりが希薄で、
喜びでも悲しみでも怒りでも、全部同じような音質でこちらに伝わってきてしまい、
とても極端な言い方をすれば、精巧なボーカロイドのよう。
恐らく、台本だけで音程を付けずに喋ったら、あのようなフレーズ感、単語ごとの息のスピード感にはならないと思う。
そういう部分で、緊張が高まっていって欲しいところで抜けてしまう感じがしたて、
具体的には3幕のマルチェッロとの重唱からロドルフォとの重唱にかけての取り乱す感じが歌からは伝わってこなくて、キレイに歌ってるな~という印象に終始してしまったのが勿体なかった。
総合的に、演奏としては上手かったのですが、ヴェリズモ的な感情が直接こちらに伝わってきたかと言うと、そこはまだまだ音楽に助けられていて、音楽を引っ張っていくだけの推進力が欲しかった。といったところでしょうか。
ロドルフォ役:澤原 行正
まずこの方は高音がとても安定している。
外国人キャストでも、ロドルフォはちらほらしくじることがあるんですが、
澤原氏は全く危なげがない。
声帯を効率よく鳴らすためのブレスコントロールがしっかりできていて、
普通は、開口母音だと息を出し過ぎて重くなる(音程が低めになる)という歌手もいる中で、
そういった不安定さがなく、母音の違いによる音域の出し易さの違いを感じさせないところは立派でした。
澤原氏もYOUTUBE上にあまり音源がないので、参考までに張っておきますが、
この映像以上に高音が安定していました。
ここからは気になったところになるのですが、
発音のポイントが奥まっているところで、ホールで聴いた時は席のせいなのかな?
とも思ったのですが、こちらの動画で見てもやっぱりポイントが奥なんですよね。
本来もっとリリックな声な気がするのですが、ポイントを後ろに置くことで暗い音色にして1ランク重い声にしている印象を持ちました。
効率的に声帯は鳴っているのだけど、どうしても硬さがあって、
フレーズの切り方に余韻がないという表現が適切なのかはわかりませんが、
クレッシェンドしても声が解放されていく感じがなく、
弱音も音が小さくなっただけのように聴こえてしまう部分がありました。
なので、高音を使わない歌曲なんかでどういう演奏ができるのかな?という部分を聴いてみたいですね。
若い時のMarcello Giordaniの演奏を聴くとよく伝わると思うのですが、
やっぱりイタリア物を歌うテノールは、母音が明るく前に響きがないと聴衆の欲求は満たせない。
テノールはただ音出すだけでも大変なので、本当に難しいですね。
マルチェッロ役;高橋 洋介
この役は、とりあえず声量がないと格好がつかないという個人的偏見みたいなものがあって、そういう面で言えば、ダンディなマルチェッロでハマっていたように思います。
繊細な表現は必要ないものの、アンサンブルの絡みが多い、
にも拘わらずムゼッタとの愛の二重唱はなく、重唱があるのはミミの方という、
歌う部分はそれなりにあるのに、3幕位しか印象に残らない役なんですよね。
なぜマルチェッロではなく、コッリーネにプッチーニはアリアを書いたのだろう?
こういった疑問をAIに聴いてみたら、以下のような答えが返ってきました。
ドラマの焦点:
「ラ・ボエーム」は、ミミとロドルフォの愛の物語が中心に据えられています。そのため、他のキャラクターの役割や音楽は、主役たちの関係を際立たせるために調整されていると言えるでしょう。マルチェッロは重要なサブプロットを担いますが、彼の音楽的な活躍がミミとロドルフォの感情表現を阻害しないよう、意図的に抑えられている可能性があります。
ムゼッタとの関係:
マルチェッロとムゼッタの関係は情熱的でありながらもコミカルで、劇的な盛り上がりよりも状況描写や感情の機微に重点が置かれています。二人の関係性は合唱やアンサンブルの中で描かれるため、単独のアリアが必須ではないと判断されたのかもしれません。
やっぱマルチェッロはロドルフォとミミの引き立て役として、ドラマの歯車として機能するという解釈をするようです。
可愛そうなマルチェッロ。。。。
高橋氏の歌唱について全然詳しく書いてませんが、
役的に繊細な表現をする部分がないので、どうしても重要な部分は声量とバリトンにとっての高めの音域、五線の上のE・Fあたりの音域で強い声が出るかの印象が強く、
イタリア物であれば大抵用になるレガートの技術も、この役だとそこまでポイントにならないので、低音に重量感があって、高音でも薄くならない高橋氏のマルチェッロは立派だったと言えると思います。
彼の演奏もあまりYOUTUBE上に音源がないのですが、
こちらの2:30~演奏を聴くことができます。
この演奏は3年以上前みたいなので、今の声とは違っている部分もあると思いますが、
3幕でも感じたことで、レガートに関してはまだまだ改善の余地があるのかなと思います。
それでも、テノールに近いハイバリトンが多いなかで、太さがあって、高音も出せる歌手は貴重ですね。
ムゼッタ役:田中 絵里加
彼女については、本当は上に貼った2025/2/24の演奏会レビューを書こうと思っていたのですが、演奏会を主催した「【公式】声楽家団体アンフィニ Anfini」のYOUTUBEチャンネルで順次演奏動画を投稿するということだったので、その状況を待っていたら結局書けずにいます。
彼女については、今までも度々紹介してきたのですが、
かわったところとして、2024年の春に喉の手術をして、恐らく復帰して初めて聴いたのが先日だったんですよね。
ということで、2021年の同局の演奏と比較して頂くと手術前後での声の変化がわかるのではないかなと思いますので、参考までに張っておきます。
田中氏のムゼッタの役作りは、一言で言うと幼くない。
意識的に自分を制御して周りがどう反応するかを理解して計算された行動をしている。
無自覚に周りを振り回すというような稚拙な役作りではないと言えばよいのでしょうか。
この役をかわいらしく歌う歌手もいますが、終幕で急に悟ったようになるのって違和感あるので、個人的にはこういった役作りのほうが共感できる。
このムゼッタというキャラクター
「注目を集めることへの欲求」と「内面的な孤独」という二面性を抱えたSNS依存する若者に似た部分を感じてしまうのですが、彼女はリアルに生きていて、現代人はバーチャルの中に生きているという部分で実際の対人関係に大きな違いがあることからも、やっぱりムゼッタという役は精神的に成熟していていないと整合性がとれない気がします。
直接演奏とは関係ありませんが、解釈一つで演奏の方向性がかわってくる役は、
聴衆のキャラクターに対する認識でも印象がかわってきて面白いですね。
それに比べると、ロドルフォなんて場当たり的な行動ばかりで中身スッカスカ・・・。
それで結局演奏はどうだったのかと言うと、
間と行間の埋め方がとても上手い。
当然指揮者がいてテンポは決まっているし、音符の長さも決まっているんですが、
呼吸のスピード感と感情の連動、そして楽譜に書かれていない動きの表現に於いて圧倒的な存在感を聴かせてくれました。
彼女の歌唱にはドラマがあるんですよね~。
細かいことを言えば、癖だと思うのだけど、”e”母音で時々音質がブレるとかあるんですけど、このレベルの演奏になると、そういったところをつついても仕方ないかなと思えてしまう説得力が彼女の演奏にはありました。
その他の役では、
子供達、よく練習したなぁと思います。
イタリア語の発音もよく聴こえたし、自分の甥っ子、姪っ子が小中学生ということもあってか、親の目線で子供達を見てしまうようになりましたね(笑)
後はパルピニョール役の東原 佑弥氏、
一声だけど、あまり声が飛ばないホールでよく聴こえたので、
機会があればちゃんと演奏を聴いてみたい。
といったところで今回の感想は以上になります。
ご出演された皆様、本当にお疲れ様でした。
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