現代屈指のマクベス夫人歌い Liudmyla Monastyrska

マクベス夫人が最高の当たり役という、現代を代表するイタリアオペラのドラマティックソプラノです。
2012年以降からロンドン、ニューヨーク、ミラノなどで、アイーダやトスカ、ナブッコのアピガイッレで成功を収め、その中でもマクベス夫人が最高の当たり役として世界的に高い評価を得ています。
デビュー当初はウクライナやロシアで歌っていたようで、ロシアオペラも歌っていたようですが、現在は完全にイタリアオペラのドラマティックな役を得意している人です。
ここではドラマティックソプラノと書いていますが、WIKIではスピントソプラノと記載されていました。
トゥーランドット歌ってないだけで声は絶対ドラマティックだと思うのだけど、スピントソプラノって声種として分類するには微妙な言い方に気がして、私はあまり使いたくありません。
ヴェルディ アイーダ 3幕のアイーダとラダメスの二重唱  Pur ti riveggo, mia dolce Aida
テノール Andrey Romanenko

モナスティルスカの素晴らしいのはピアノの表現と、弱音の響きの質。
東欧、ロシア系の歌手には強い声でも詰まった感じだったり、一癖ある響きの歌手が多いのですが、モナスティルスカの弱音は強さと透明感があり、無駄なヴィブラートもない、強い声を持った歌手としては大変珍しいタイプだと思います。
逆に、フォルテの表現では少々力みが感じられ、演奏にもまだ雑さが感じられます。
ヴェルディ 仮面舞踏会 Ma dall’arido stelo divulsa

上で紹介したのが2012年頃で、こちらは2015年の演奏。
明らかに響きの質が洗練されています。
冒頭に紹介したアイーダでも十分素晴らしい声でしたが、全体的に横に開き気味で、歌唱には粗さがありました。
しかしこの演奏では、響きが横に散らなくなり、その結果歌唱全体の緊張感が格段に高まっています。
歌を勉強していると、必ずと言って良いほど「響きを集める。」
という言葉を耳にすると思いますが、物理的に強い声になるとかいうより、響きの密度が増して緊張感がより高まるというイメージの方が適切かもしれません。
とは言っても、小手先でどうにかやって集まるものではないので、
集めろ!
と言われると、大抵の場合声を鼻先めがけて当てにいくのが関の山なので、
「集める」という日本語の表現は大きな誤解を生みやすいのではないかと最近思わなくもありません。
それにしても、モナスティルスカの低音域の音質は見事です。
勿論高音も美しいのですが、声を太くせず、胸に落とさず、高い響きを維持したままで低音を出すことができる。

上手い人でも、日本人ソプラノが得に苦労しているのが、この太くならずに高い響きを維持して低音を鳴らすことなので、メゾ上がりのドラマティックソプラノではなく、モナスティルスカのような、完全にソプラノの声でしっかり低音を出せる歌手は参考になるのではないかと思います。

ヴェルディ ドン・カルロ Tu che le vanità

こちらは2017年の演奏。
少々声が太くなったような印象を受けます。
気になるのは、中音域で声がちょっと揺れていることなんですが、
高音はピアノもフォルテも本当に良い響きですね。
それにしても、なんでこの中音域の音から完璧に高音のピアニッシモへ抜けていくのか理解できません。
持ってる楽器がハイソプラノのものなんでしょうね。
としか言えない。
インタビューとかで地声が聴ければもう少し情報量が増えるのですが、
残念ながらこの人の喋り声を聴ける音源はなさそう・・・。
ヴェルディ マクベス Vieni! t’affretta! Or tutti sorgete, ministri infernali

こちらが一番の当たり役と言われる最新(2019年5月)のマクベス夫人の演奏。
因みにネトレプコは
Anna Netrebko

別にネトレプコをダシに使いたい訳ではなく、
モナスティルスカの持っている楽器がいかにハイソプラノのそれであるかを確認するために、もともコロラトゥーラを得意としたハイソプラノのネトレプコとマクベス夫人という超ドラマティックなアリアで比較してみた。
因みに2013年のネトレプコは決して悪くない。
この時は低音も変にドスの効いた胸声を出していませんし、そこまで無理な歌い方はしていないのですが、それでも部分的にキツそうです。
そう考えると、モナスティルスカの持っている楽器や技術が如何に突出しているかがわかると思います。
アジリタも軽くこなし、十分な声量がありながら決して叫んでいる訳ではなく技術的に制御できている。
この演奏を聴けば、現代最高のマクベス夫人として世界的に評価されている理由もわかるのではないでしょうか。
その一方で、トゥーランドットを歌っていないのはちょっと不思議です。
ドイツ物のレパートリーがあれば、間違えなく現代でもトップクラスのブリュンヒルデになるだろうに・・・・。
CD

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