Hrólfur Sæmundsson(フロルフル セムンドソン)は1978年アイスランド生まれのバリトン歌手。
名前の正しい読み方がわからないので、間違っていたらすいません。
セムンドソンはドイツを中心としたヨーロッパ各国、米国、母国のアイスランドで歌っているとプロフィールにありましたが、オペラではアーヘンとアイスランドの劇場以外で活躍している様子は見られません。
劇場の規模で言えばそこまで大きいところでは歌っている訳でもなく、若手と呼ぶにはそれなりに歳もいったバリトンですから、本来なら今更注目するような歌手ではないのかもしれませんが、声を聴けばきっと、なぜこれほどの声がそこまで有名になっていないのか疑問に思うはずです。
まず昨年の演奏から。
運命の力のカルロ役は実際に歌っているようで、バスバリトンのような重厚感のある響きでありながら、決して声が太くならずに常にコントロールの効いた歌唱を聴かせています。
私はことあるごとに吠え散らかす歌手を批判していますが、
結局、日本人の中で良い声があるといっても、セムンドソンのような声を持っている人はまずいない訳で、更にこんな恵まれた深くて強い声を持っていても、声ではなく響きで歌っている訳ですから、日本人バリトンがパワーでゴリ押ししたって太刀打ちできる訳がないのです。
とは言っても、セムンドソンは逆にヴェルディをリートのように歌うので、も少し解放してくれても良いのになぁ。とは思いますけど、この後のカバレッタが聴いてみたいものですね。
Violetta – Cristiana Oliveira
Alfredo – Stephen Mullan
Germont – Hrolfur Saemundsson
こちらは2015年のアーヘンでの演奏のようです。
本当にリートのようにジェルモンを歌いますね。
これはこれで説得力のある歌唱ではありますが、2019年の演奏よりも声が詰まり気味に感じるのは気のせいでしょうか。
録音状況が違うのは大きいかもしれませんが、2019年の方が高音の質は間違えなく良いと思います。
中音域で手を抜く、というと大げさですが、
緊張感が緩み、高音でスイッチが切り替わる感じの歌唱なのは、やっぱり下半身が楽し過ぎなんじゃないか?という印象を持つ訳です。
一番最後の高音をピアニッシモで出すのは良いですが、あまりファルセットにするのも頂けない。
ここまで歌えればこそ、ファルセットにせずにフォルテで入ってdimして欲しいところ。
上手いのは分かるが技術が耳につく感じがして、もっとヴェルディは素直に歌って欲しい!
という方がいても不思議ではないかもしれない。
昨年リングのアルベリヒを遂に歌ったということと、このローエングリンのテルラムントの歌唱を聴いて、私はセムンドソンをヘルデンバリトンとしてこそ輝く歌手であると確信しました。
ヴェルディの演奏を聴いて、どうもスッキリしなかった方もこの演奏を聴いたらスッキリして頂けるのではないかと思います。
高音の声は凄いのですが、口のフォームが実に安定しています。
喉が上下がなく、上唇から頬筋に掛けてに無駄な力みがなく、下顎から顎関節に掛けての筋肉をしっかり引っ張って喉を開けることが出来ています。
ズリ上げることなく、オンタイムで歌い出しの音がズバズバ決まる。
今40歳を過ぎた辺りということを考えると、グリムスレイ以上の歌手になる可能性があるのではないかとさへ感じる訳です。
Greer Grimsley
響いてるポジションは二人とも硬口蓋から鼻の後ろ(断じて鼻腔共鳴ではありません)からブレずによく似ていると思います。
グリムスレイの方が声に癖があって、米語を母国語とする歌手に多いお団子声、(ドイツ語でKnödel、イタリア語でVoce ingolata)とまではいかないまでも、ちょっと喉の奥でこねる感じがあるんですよね。
それがない分セムンドソンはもっと凄い歌手になるのではないかと勝手に妄想してしまう訳です。
まだまだYOUTUBEに音源が少なく、実際にはかなりモーツァルトオペラも歌っているようですし、ロシアものも歌っているようなので、今後そういった演奏音源も聴きたいものですが、それこそブッファ作品をどう歌っているのかは興味深いところです。
改めて冒頭に紹介した運命の力のアリアとローエングリンの歌唱を聴き比べてみると、セムンドソンはバスバリトンのような声に聴こえて、実はテッシトゥーラが高いことがわかります。
低音域でも良い響きではあるものの、開放された高音と比較すると、低音は響きが乗ってはいても太い声になってしまって、音色も暗くなってしまう。
ここが歳を重ねて今後どうなっていくのかが注目のポイントではないかと思います。
勿論レパートリーとしても今後イタリア物を中心として歌っていくのか、ワーグナー作品を中心レパートリーにしていくように舵を切るのか、あるいは何でも屋として様々な作品に手を出すのか?大きな注目ポイントですね。
コメントする