Solen Mainguené(ソレン マングネー)はフランスのソプラノ歌手。
本人の自己紹介をきくと「マグニー」と聴こえるんですが、
”é”はカタカナにすると「エ」としか書けないので、このようなカタカナ表記にしております。
マングネーは米国やオーストリアで声楽を学んだ後、2012年にハンブルク州立歌劇場のオペラスタジオで更なる研鑽を積み、以降はリリコレッジェーロ~リリックな声の役柄を、ドイツを中心に歌っています。
レパートリーは、フランス、ドイツ、イタリア、ロシアのロマン派作品が中心のようですが、
プッチーニのラ・ボエームでは、ムゼッタとミミを平行して歌っているのが面白いです。
マングネーが師事していた歌手は
Stanley Cornett
Phyllis Bryn-Julson
Cheryl Studer
このマスタークラスの映像は、言っていることが100%理解できなくても、
しっかり実践してスチューダーが見せてくれるので、何が言いたいかは比較的入ってくるのではないかと思います。
こういう映像は、私も記事を書く上で参考にしていたりします。
このように、マングネーが色々なタイプの歌手に習ってきたことがわかります。
こちらは2013年の音源のようで、YOUTUBE上にある音源で一番古そうです。
勢いで歌う歌手が多いアリアですが、全体的に一音一音丁寧に歌っていて、ピアノ伴奏も考えながら音楽作りをしているのが伝わってきます。
ハンブルク州立歌劇場のオペラスタジオに入った翌年ということなので、
年齢的には20代半ばだと思いますが、目立った癖がないのは良いですね。
ただ、よく聴くと、音の入り方がスパっとその音程に決まらず、後から膨らませるような感じになることがあったり、丁寧に歌ってるのは良いのですが、その分フレージングが感じられず、レガートにはまだまだ課題があります。
2016年の演奏と思われますが、
この演奏はイタリア語だからでしょうか、2013年のファウストのアリアより母音にブレが目立ちます。
特に”i”母音と”e”母音の響きが狭くなって、鼻声になり易いです。
こちらは2018年、アーヘンでのヴィオレッタ。
この演奏でも依然として母音によって響きの質にバラつきが聴かれますが、
とりあえずピアニッシモの響きの美しさは中々のものです。
その分、クレッシェンドする時に声を押してしまうのがよくわかります。
この演奏でよく分かるのは、高音のピアニッシモで抜けていく美しい響きを中低音で生かせず、
響きではなく、声でディナーミクをコントロールしていることでしょう。
この原因が、口の開け方などのフォームなのか、下半身の使い方のかは判断できませんが、
歌っている時の表情や姿勢を見る限り、変に力んでいる様子がないにも関わらず声や発音に癖があることから、
口の開け方や舌のポジション、過剰に息を吐き過ぎている・・・といったことが問題のように感じます。
こちらが2019年の演奏なのですが、
この演奏で急に化けました
まるで別人のような発声になっていることに驚きました。
「言葉を息に乗せて吹くように」と往年の名テノール、ティート・スキーパが発声について語っていたのを見たことがありますが、
まさにマングネーはその歌唱を体現しようとする方向に向かっているように見えます。
何と自由で柔軟な歌唱なのでしょうか。
今まで紹介してき演奏は何だったのか!?
と思うくらい声もフレージングも柔らかく、
当然、録音状況の違いだけでは説明できないほど、1年で演奏の質が上がっています。
同じく2019年の演奏です。
知名度的には現在世界で最も高いソプラノ、フレミングの歌唱と比較すると、
マングネーがリリックソプラノとして高い水準の演奏をしていることがわかります。
Renee Fleming
フレミングは籠っている感じがあって個人的にはそこまで好きになれないのですが、
世界的に最も活躍しているリリックソプラノであることは事実ですからね。
マングネーとフレミングの歌唱の違いは中音域の響きと、語尾の収め方ではないかと思います。
例えば同じ部分で比較すると
マングネー 9:35~
フレミング 4:55~
マングネーはピアノで歌っている時は、薄く透明感のある響きで中低音まで歌うことができますが、フレミングは中低音で響きが落ちてしまいます。
フォルテではマングネーもまだ声を押す癖がありますが、フレミングのように奥に引っ込むことはなく、明るい響きを保てていることも優れた部分ではないかと思います。
【歌詞】
Wie Melodien zieht es
Mir leise durch den Sinn,
Wie Frühlingsblumen blüht es,
Und schwebt wie Duft dahin.
Doch kommt das Wort und faßt es
Und führt es vor das Aug’,
Wie Nebelgrau erblaßt es
Und schwindet wie ein Hauch.
Und dennoch ruht im Reime
Verborgen wohl ein Duft,
Den mild aus stillem Keime
Ein feuchtes Auge ruft.
【日本語訳】
それは旋律のように
ひそやかにわたしの感性にしみわたり
春の花々のように咲き
その香りのように漂う
しかし言葉で書きとめようとすると
それは霧のように霞み
吐息のように消え去ってしまう
だがすべてがではない
詩句のなかにほのかな香りが残る
それをうるんだ瞳がやさしく
静かな芽生えを呼び起こす
ハンブルクを活動の中心にしていてスチューダーに習っただけあって、
流石にリートも上手く歌えているのですが、決定的に”i”母音が”e”寄り過ぎなのが気になって仕方ないです。
伴奏も、あまりロマン派的にアゴーギクと言えば良いのか、
歌い過ぎない方が新古典主義的な観点から見るとしっくりくるんですよね。
あまり感傷的にならずシンプルに歌って欲しいところ。
まぁ、これは私の好みではありますが・・・。
その辺を考えると、やっぱりロジャー・ヴィニョールズの伴奏は凄い。
フィンクの自然なフレージングと”i”母音の違いも含めて参考までお聴きください。
Bernarda Fink
このように、まだまだ課題も多いながら幅広いレパートリーを既に手中に収め、
特にここ1・2年で急激な成長を見せているマングネーの歌唱を聴けば、
確実に注目すべきソプラノ歌手であることは間違えないでしょう!
イタリアオペラを歌う機会が多いようですが、
この演奏を見る限り、フランスオペラやコンサート歌手としての方が良さが出るような気がしますが、これからどんな
コメントする