東京・春・音楽祭2020 の詳細が発表されましたので、主要な演目のキャストを分析していこうと思うのですが、この音楽祭はワーグナー作品の上演が目玉になることが常だったのですが、
今回は、ヤノフスキ指揮のトリスタンとイゾルデ(演奏会形式)より、
プッチーニ三部作や、ムーティが指揮をする予定のマクベスといったイタリアオペラの方が注目度が高いように思えます。
その割にはこの音楽祭でのリサイタル内容を見ると、声楽関係の演奏会は全部ドイツ系歌手というちょっとバランスの悪い状況になっているようにも見えるのですが、そこも含めて、来年のマクベスと三部作は例年では考えられない演目に見える訳ですね。
東京・春・音楽祭2020 の詳しいスケジュールはコチラを参照ください。
三部作のキャスト主要分析
以下は2020/4/18 [土] 15:00開演(14:00開場)に予定されている
プッチーニ作曲の三部作「外套」・「修道女アンジェリカ」・「ジャンニ・スキッキ」
のメイン外国人キャストについてです。
ミケーレ(バリトン): Roberto Frontali(ロベルト・フロンターリ)
1958年イタリア生まれのベテラン歌手を起用
こちらは手堅いキャストと言えるでしょう。
上で紹介しているトスカ(全曲)でもまだまだ健在ぶりを見せているので、
年齢的に60を過ぎてはいますが、心配はいらないと思います。
ジャンニ・スキッキのタイトルロールとの双方を歌うようですが、そこまで高音を必要とする役ではなく、スキッキではむしろ歌い回しの上手さが喜劇を生かすか殺すかを左右しますので、声が良いだけの若手では務まらない役とも言えますから、フロンターリが三部作の要と言っても過言ではないでしょう。
ジョルジェッタ(ソプラノ):Alex Penda(アレックス・ペンダ)
Alexandrina Pendatchanska(アレクサンドリーナ ペンダチャンスカ)というのが本来の名前のようですが、この人、とんでもないキャリアの歌手です。
ブルガリア生まれのソプラノ歌手なのですが歌っている役がマリア・カラスもびっくりといった感じです。
ヴェルディ 椿姫 E strano… Sempre libera(17歳の演奏)
17歳でこの演奏、もはや持って生まれた楽器が常人とは違う。
発声技術が云々と常人が言って通用する声ではないのかなと・・・。
19歳でランメルモールのルチアのタイトルロールでオペラデビューし、
その後は世界各国で歌っているようなのですが、歌っている役が異常です。
ルチア以外でその一部を紹介すると
モンテヴェルディ(ペッポアの戴冠)ポッペア
ヴェルディ(ドン・カルロ)エボリ、エリザベッタ
グノー(ファウスト)マルグリート
ビゼー(カルメン)カルメン
ワーグナー(パルシファル)クンドリー
※こちらは都響の定公演で2015年に来日して歌っています。
Rシュトラウス(サロメ)サロメ
マスカーニ(カヴァレリア・ルスティカーナ)サントゥッツァ
これでも一部。はっきり言って狂っています。理解不能です。
他にモーツァルト作品も結構歌っているようですし、トスカも当然歌っています。
声の話をすればブルガリアの歌手は独特なヴィブラートがある人が多くて、ペンダも例外ではありませんし、とりあえず喉が強いな~という印象の声ですが、それで低音~高音まで出てしまう上に、ディナーミクのコントロールもそれなりにできるのですから、特殊な楽器は特殊な演奏法があるのかもしれない。と思うしかありません。
なので、実際に生で聴くとどんな感じなのかは気になります。
なお4月には別の演奏会でもアリアを歌う予定があるようなので、
ペンダ目当てであればこちらの演奏会の方が面白いかもしれません。
ルイージ(テノール): Yusif Eyvazov(ユシフ・エイヴァゾフ)
この人、ネトレプコのセットとして付いてくるテノールじゃなかったのか?
単体でこの人に仕事回すなんてどうかしているとしか言いようがありません。
はっきり言ってこの人呼んだ人は聴く耳がなさ過ぎです。大チョンボです。キャンセルして代役になることを願いましょう!
知人からの情報では、海外でカラフ役を歌った時の評論で、
「今晩彼が出した一番良い音は、靴のこすれる音だ」
というようなことを書かれたのだとか・・・。
こういう話を聞くと、私の記事なんて全然毒舌でもなんでもないなと安心します(笑)
三部作の一つの短いオペラとは言え重要な役なので、この人が演奏を台無しにする可能性は十分考えられます。
フルーゴラ(メゾ・ソプラノ):Anna Maria Chiuri (アンナ・マリア・キウリ)
かなりドスの効いた癖の強いメゾなんですが、これでソプラノ役も歌えるという不思議。
完全に中音域は喉声で、低音域は響きが落ちているんですが、なぜか高音は楽に出る。
とりあえず音域によってここまで音質が統一されてない歌手も珍しいくらい。
胸声・中声・頭声に大変分かり易く分割された声を出すので、レガートで歌えないのは当然のことで、
プッチーニ作品にこういう歌手を起用するというのは呼んできた人の聴く耳が・・・(以下略)
アンジェリカ(ソプラノ):Aurelia Florian (アウレリア・フローリアン)
ルーマニアのソプラノ歌手で2010年に大学を出て、ルーマニア国立オペラのメンバーとなっているようなので、年齢は30代半ばといったところでしょうか?
声は直線的で硬質ですが、その割には無駄なヴィブラートがあり、低音があまり鳴らない印象です。
声自体は典型的なリリックソプラノといった感じですが、高音で全くピアノの表現ができていないのは気がかりです。
2016年に歌ったラ・ボエームのミミですが、
う~ん、言葉の出し方が平面的な上に、やっぱり低音で喋れてないし、
そもそも最初自分の名前「Mimi」が聞き取れない、メメだかミメにしか聴こえないんですが・・・
この歌手でアンジェリカはかなり厳しいと言わざるを得ない。
公爵夫人(メゾ・ソプラノ):Anna Maria Chiuri (アンナ・マリア・キウリ)
『外套』のフルーゴラを参照
ジェノヴィエッファ(ソプラノ):Adriana Gonzalez (アドリアナ・ゴンザレス)
1991年グアテマラ生まれのソプラノ歌手で、こちらの動画は今年のコンクールで優勝者演奏
良くも悪くも若さが前面に出た演奏で、声の力はありますが全ての音を全力投球している感じです。
2018年のリサイタル
声は良いのですが、この人の歌をずっと聴いていたいかと言われればそれは別問題。
まず響きに奥行がなく、完全にアペルトな声なので、明暗、緩急といったものが曲につけられないので、何を歌っても似たような感じになってしまう。
ディナーミクはあるのですが、言葉と連動していないのでドラマが伝わってこない。
シュトラウスの歌曲ではそれが如実に現れています。
Rシュトラウス 4つの歌曲 Op27
まず、あまりドイツ語に聴こえないというのがあるのですが、それを除いても、
不要なヴィブラートと、フォルテで歌うとレガートが全然できなくなる。
ピアノの音は綺麗なのですが、フォルテになると力んでしまうのか、雑に聴こえてしまう。
持っている声は魅力的で技術もあるとは思うのですが、もっと様式感に敏感にならないと声は良いのに歌があまり上手くない残念な歌手になってしまう。
ジャンニ・スキッキ(バリトン):Roberto Frontali(ロベルト・フロンターリ)
『外套』のミケーレを参照
ラウレッタ(ソプラノ):Adriana Gonzalez (アドリアナ・ゴンザレス)
『修道女アンジェリカ』のジェノヴィエッファを参照
ツィータ(メゾ・ソプラノ):Anna Maria Chiuri (アンナ・マリア・キウリ)
『外套』のフルーゴラを参照
リヌッチョ(テノール):Ioan Hotea(イオアン・ホテア)
1990年ルーマニア生まれの若手テノール。
2015年以降ロンドンを中心活躍しているテノールのようです。
声はフィジケッラのようなリリコレッジェーロで高い響きを持っており、
時々高音ですっぽ抜けるようなコントロールしきれていない響き、不要な泣きが入るのは気になりますが、年齢を考えれば将来的に楽しみな歌手と言えるでしょう。
今回歌う役も能天気なリヌッチョということで、ぴったりです。
これは中々良い歌手を呼んできたと評価できます。
こうして見ていくと、
ジャンニ・スキッキはかなり期待できそうですが、アンジェリカは逆にあまり期待できそうにありません。
外套はテノールの彼次第。
マクベスの演奏会形式でマクダフ歌う予定で来日しているフランチェスコ・メーリに代わってくれないかな~。
メーリの声にはルイージ役は合いませんが、彼よりは全然良い。
ということで、この三部作は、アンジェリカの出来がどうなるかと、彼が来日するか否かに掛かっている。
と言っても良いのではないかと思います。
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