Oreste Cosimo(オレステ コシーモ(コジモ))は1988年イタリア生まれのテノール歌手。
2016 International Competition “Teatro Alla Scala Academy”の優勝者という肩書は、イタリア人テノールとして実にインパクトと期待感の高まるものではないかと思います。
更に2017年、フランチェスコ メーリの代役としてネトレプコの相手役として椿姫のアルフレードを歌うというめぐり合わせもスター性を感じさせるエピソードではないでしょうか。
ソプラノ Anna Netrebko
こちらがメーリの代役としてネトレプコと共演した時の演奏。
メーリより声としては上なのではないかと個人的には思いますが、音源の状態が良くない上に、そこまでじっくりアルフレードの歌唱が聴ける訳ではないので、この音源でコジモの演奏を判断することは難しいですね。
この演奏も恐らく2017年と思われますので、椿姫の時の演奏がこれ位歌えていたと考えられます。
Francesco Meli
今のように色々重たい役を歌って声がオカシくなる前のメーリの演奏です。
この時は、今みたく抜いたピアノの表現を多用したり、高音で張るとアペルトになったりということがなく、この時期は確かに上手かった。
今のメーリはこんな感じ
Celeste Aida
レパートリーを間違えると10年でこれほど劣化するということですね。
さて、コジモの方はと言うと、全盛期とメーリと比較しても聴き劣りしません。
メーリの方がやや響きのポジションが高いように感じますが、一方でこの時期からやや鼻に掛かった感じはあります。
一方コジモは、少し中音域が重いようにも感じますが高音の抜け方は抜群で、まだ硬さはあるものの力強さも華やかさも兼ね備えていて、勢いだけで美声を垂れ流すことなく、しっかりした技術に裏打ちされた歌唱をしています。
この声ならばスピントな声の役柄を歌っても栄えるのではないかと思います。
このアリアの高音を絶叫せずに美しく流れる声で歌える歌手は中々いません。
決して大げさに歌わず、シンプルにプッチーニの書いた美しい旋律線を立たる演奏には感銘を受けます。
昔は良い声をとにかく聴かせること、高音は必要以上に伸ばし、劇的な表現のためにポルタメントを多用する。
といったスタイルが当たり前で、そういう部分からテノールという人種を「テノール馬鹿」と日本では言い表すことがあります。
ですが、今の若手イタリア人テノールは意外と冷静で知的な歌い回しをする方が多い気がしますので、そろそろ「テノール馬鹿」とか「低能ール」という言葉は死語になる日がくる・・・かもしれません。
Giuseppe Filianoti(1974~)
Enea Scala(1979~)
コジモが2018年頃、フィリアノーティが2012年、スカラが2016年の演奏。
つまり、コジモは30歳になっているかどうかという年齢で、現在のイタリア人テノールの中でも特に素晴らしい声を持ったテノールと比較しても遜色ない声を持っていることが分かります。
因みに、もっと売れてる3人のイタリア人テノールもついでに紹介しておくと
Francesco Demuro(1978~)
Vittorio Grigolo(1977~)
Paolo Fanale(1982~)
ファナーレは新国にもよく来ていて、80年代生まれでありながら若くして活躍していたので期待していたのですが、年々癖が強くなってきている気がして残念。
デ・ムーロとグリゴーロ、そして前に紹介したメーリは大劇場を飛び回っている、言ってみれば現代の3大若手イタリア人テノールとでも言えるのではないかと思いますが、彼等と比較してもコジモは劣らない、個人的にはコジモの方が声的に恵まれているのではないかとすら感じます。
こちらが2019年の演奏。
レンスキーのアリアだけは普段ロシア物を歌わない歌手も歌う気がしますが、コジモの場合はこの役柄を歌ったことがあるようなので、ロシア語がそれなりに出来るのかもしれません。
歌唱については、少々母音が太い気がして、
特に”i”母音が奥まっていて最後に伸ばしている音の揺れは勿体ない。
後、コジモは全部良い声で歌い過ぎる。
プッチーニのようなゆったりした旋律を朗々と歌うには良いのですが、つぶやくような部分も、声が小さくなっているだけで音圧が変わらない。
いうなれば、どんな言葉でも呼吸のスピードが同じに聴こえてしまう。
こういうところで表現的な拙さは改善の余地があるように感じます。
アジリタの技術は申し分ないのですが、ブレスはそこまで長くないのか、テンポがかなり速いにもかかわらず、再現部に戻る長い技巧的なパッセージ(1:52~2:10)で2回ブレスを入れているのはちょっといただけない。
フレーズ的に一回目のブレスは良いとしても、2回目のはできれば避けたいところ。
とは言え、アジリタをしている時に口の形が全然変わらず、響きの質が均一なまま五線の下のF~上のFの1オクターヴをしっかり歌えているのは見事です。
声質的にコジモはオッターヴィオをやるには重くはありますが、それでも技術でほぼ完璧に近い演奏をしている辺りに、ただ良い声だけで歌っているテノールではないことが見て取れます。
2020年の予定でも、引き続きロドルフォやアルフレード、マントヴァ公爵といったところを歌うようなので、この声と技術があれば、近い内に大劇場でこれらの役を歌うスター歌手の仲間入りをする日は遠くないでしょう。
今年最後の記事はオペラの花形、次世代を担うイタリアンテノールの紹介をさせて頂きました。
今後も様々な歌手の紹介や評論は勿論のこと、新しい試みも検討しておりますので、来年もよろしくお願いいたします。
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