高音とコロラトゥーラを得意とするあたり、Marlis Petersenに似たタイプの歌手のように聴こえます。
明るく鋭い声質で、あまり人間味を感じる声ではありませんが、若くして高い技術を身に着けていることは間違えありません。
この演奏は2017年とのことなので、27歳の演奏。
声だけ聴けば、響きの安定感、響きのポジションが定まっておらず、
私にはどうしても喉に負荷の掛かっている声に聴こえてしまうのですが、
速いパッセージを正確に歌いながらも、機械的にならずに表情を付ける技術は立派なものです。
アデーレをなぜか真面目に歌ってしまう辺り声の柔軟性の不足が聴け採れます。
激しい表現では勢いでどうにかなる部分もありますが、喜劇はどう緩めるかが大事。
ヘイスは全体的に鼻声気味なところから、響きを集める=響きが硬くなる。
という現象に陥ってしまっているようにも聴こえます。
持っている声的には過去の名歌手、ギューデンに似ていると思うのですが、
比較してみると、ヘイスが如何に響きも表現も硬いかがよく分かります。
Hilde Güden
聴いていて肩に力が入るような歌い方をしては絶対いけません。
だからと言って、デフォルメ声や、だらしない声を常用するのが良い訳でも当然ありません。
正しいフォームで歌うというのは、決まった良い声があるのではなく、
様々な変化に耐えられる、柔軟な歌唱ができる状態の声を常に維持できる必要があります。
そういう意味でも、ヘイスは歌唱フォームをまだ模索している段階なのではないかと思います。
これは2018年の演奏。
この曲を聴いて、ふっと感じたのですが、
ヘイスは”i”母音が中低音だと平べったい声で全然響かず、特に鼻に入る傾向がありますね。
出だしの「Rejoice」の”ri”の声が明らかに変で、多少高い音程で歌う時にはしっかり巻き舌が入るのですが、低い音だと鼻から入っているせいで巻き舌ができてない。
それなりに高い音域は良いのですが、低い音域は得に鼻に入って響きの質が変わってしまう。
同じ単語を歌って、これだけ巻き舌の出来方や声質に差がでてしまうと欠点は明らかですね。
響きが平べったいのは、口の開け方も間違えなく関係しているでしょう。
ここまでずっと横に開いている上に、上の前歯を見せて歌っているので、
必然的に喉が上がってしまう。
特に前述のように”i”母音は致命的と言って良いレベルだと思います。
例えば、カバレッタに入る直前の歌詞
「Denn meine Hilfe war zu schwach」
(そして私の助けはあまりにも弱過ぎました)
という部分(3:20~)で、高い音の「Hilfe」はまだ良いのですが、
下行形の同じ単語の”hi”は響きが落ちている上に、声を押しているのが分かると思います。
一方、カバレッタに入って最初の歌詞
「Du wirst sie zu befreien gehen」
(お前が彼女を解放しに行くのです)
この冒頭に”du”を三回繰り返しますが、これが他の母音に比べて良いところにハマるんですが、
直後の「wirst」の”vi”が横に開いてしまう。
「du」を発音している時のフォーム
「vi」を発音している時のフォーム
いかがでしょうか
視覚的にも「vi」を発音している時に下顎や、頬筋に無駄な力みがあることが明らかです。
なぜこれ程分かり易い問題点を誰も指摘しないのか?
あるいは、指摘されても本人が聞き入れないのか・・・。
はたまた直そうとしても、中々改善できないのか・・・。
何にしても持っている声や、音楽性は素晴らしいだけに本当に勿体ない。
まだ30歳手前なので、無理をしても声が出ますが、
この歌唱を続けていれば夜の女王のような役を歌えなくなる日はそう遠くないと思います。
逆に、この欠点を克服できれば一気に伸びる可能性を秘めています。
どうか椿姫とかにはしばらく手を出さず、一度発声をしっかり見直して正真正銘の一流歌手になってくれることを願っています。
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