2019年で気に入った演奏会

年末なということで、
今年の演奏会でYOUTUBEにあがっている中で個人的に面白かったものを紹介してみようと思います。

 

 

NDR Klassik Open Air 2019 – Pagliacci & Cavalleria Rusticana

 

 

Pagliacci

カニオ Marco Berti

ネッダ Aleksandra Kurzak

トニオ Claudio Sgura

ベッペ Xabier Anduaga

シルヴィオ Andrzej Filończyk

 

Cavalleria Rusticana

サントゥッツァ Liudmyla Monastyrska

トゥリッドゥ Marco Berti

ルチア Tichina Vaughn

アルフィオ Claudio Sgura

ローラ Veta Pilipenko

 

 

全体的に非常にレベルの高いキャストが揃い、野外での演奏で演出的にも面白いです。

キャストの出来栄えについて簡潔に私の意見を書いてみますと

 

 

シルヴィオ Andrzej Filończyk

シルヴィオはトニオと同じような声質のハイバリトンが歌うことが多く、
役柄的にもトニオの方が重要なため、大抵の演奏では

シルヴィオを歌う歌手 < トニオを歌う歌手

という序列関係になってしまうことが多いように思いますが、この演奏会では決してそうはならず、

この方はポーランドのバリトンのようで1994年生まれ、
オペラはこの役がデビュー役で、まだデビューから2・3年しか経っていない若手ながら大変魅力的な声の持ち主だと思いました。

 

ロッシーニ セビリャの理髪師 Largo al Factotum

演技のために声のフォームを崩すことは個人的には好きではないのですが、
高音に関しては決してパワーではなく、技術でしっかり出せていところには驚きます。
セビリャのフィガロのアリアは勢いで歌う人が多いのですが、この人はしっかり地に足の着いた歌唱が若くしてできている。
デフォルメ声を使えば演技してるように聴こえるので手っ取り早いのですが、今後はきっちりしたフォームの中でどう表現するかを追求していって欲しいと思います。
今後が実に楽しみな歌手ですね。
このところポーランドからは才能ある歌手が続々出てくるように感じます。

 

 

ベッペ Xabier Anduaga

脇役ながらしっかり歌を聴かせる能力が求められるので、
この役が下手だと道化師という作品は成功しない。

この映像の道化師が気に入っている理由はまさにそこで、
ベッペ役も主役を歌える実力を持っている若手歌手であるということです。

Anduagaは1995年スペイン生まれのテノール歌手で今後活躍が期待されるロッシーニテノールです。
指揮者のアルベルト・ゼッダが作ったロッシーニ研究機関とも言えるAccademia Rossinianaでロッシーニ作品の歌唱を磨き、フローレスのマスタークラスも受講しているというのですから、ロッシーニスペシャリストへの道を確実に歩んでいると言えます。

 

 

ロッシーニ セビリャの理髪師 Cessa di più resistere

声に癖はありますが、これだけ歌える若手歌手はそうそういるものではありません。

 

 

 

 

ローラ Veta Pilipenko

ロシア生まれの若手メゾソプラノのようです。
ローラ役はソプラノが歌うものだとばかり思っていたのですが、
この方について調べてみると、メゾソプラノということ。

 

 

 

こちらの映像の8:00~一部歌唱が聴けます。
確かにメゾの声ですね。
まだまだ高音になると喉が上がって響きの質が変わってしまう傾向にあるようですが、
中低音は深さがありながら、重々しくなく、詰まった響きにもならない素直な響きがあって良いと思います。

 

 

 

 

トニオ/アルフィオ Claudio Sgura

イタリアのバリトン歌手でスカルピアやイャーゴ、今回のトニオ、アルフィオといった、
どちらかと言えば悪役のドラマティックなバリトン役を得意としているようです。
高音も出るし演技も達者なのですが、レガートが甘く声が硬い印象です。
シルヴィオを歌っているFilończykの方が柔らかく、音色にも幅があり魅力的な歌手のように私には感じました。

とは言え、低音~高音までしっかり鳴らせる馬力は大したもので、
容姿や演技といった視覚的な部分も総合すれば良い歌手と言えるのかもしれません。

 

 

 

スカルピア役

こちらは2019年のArena di Veronaの演奏です。
劇的な高音とかの表現では声の良さが生きるのですが、通常のセリフになるとドラマを表現する能力がまだ貧しい気がします。
それが結局のところレガートの甘さであったり、声に頼った歌い方になっていることが原因と考えるのが自然で、この歌い方の先に更なる可能性が見えてこないのは私だけでしょうか・・・。

 

 

 

 

 

 

サントゥッツァ Liudmyla Monastyrska

サントゥッツァ役はメゾが歌うことが多いのですが、
Monastyrskaはソプラノです。
道化師に比べて、カヴァレリアの演奏にはどうも惹きつけられなかったのは、Monastyrskaの歌唱が典型的な絶叫系だったことが一番大きな要因でしょう。

 

 

ベッリーニ ノルマ Casta Diva

この通り、伸ばしている音が常に揺れていて、言葉も全然何を言っているかわかりません。
高音は繊細な音を出せる能力があるのですが、それであるが故に急に響きの質が極端に変わってしまうことがあり、低音~高音までしっかり繋がった声で歌えていないことが露呈しています。
持っている声は確かに素晴らしいものがあるのですが、サントゥッツァ役が合うとはとても思えません。

 

 

 

 

 

 

ネッダ Aleksandra Kurzak

この人は最近かなり売れているポーランドのソプラノ歌手なのですが、
ネッダがハマるのは意外でした。

個人的にはそこまで好きな歌手ではなかったのですが、この演奏は大変素晴らしいですね。
本来はかなり軽い、コロラトゥーラを駆使する役柄を得意としていたと思いますが、
今は愛の妙薬のアディーナを歌いながら、椿姫のヴィオレッタ、更には蝶々さんまで歌っていて、その中でもネッダは随分頻繁に歌っているようです。

Kurzakのネッダはヴェリズモオペラの歌唱として実に見事と言えるのではないかと思います。
と言うのも、綺麗なフォームの声楽的声と、時々聴かせる非声楽的な声の使い分けが絶妙で、
例えば、非声楽的なドスの効いた低音で相手を罵ったりした後でも、繊細な濁りのない透き通った表現にすぐ戻せる能力は、単純な声や技術の領域を超えて、1幕オペラが持っているドラマの展開の速さをより引き締めているように感じました。

トニオと揉み合いになった後、すぐ不倫相手のシルヴィオと愛の二重唱ができてしまう豹変ぶり、改めてネッダって恐ろしい女だと思いました(笑)

声的にも、リリコレッジェーロで決してドラマティックな表現で力を発揮する訳ではないのですが、無理に重い声を作らずに言葉の歌い回しや、弱音を効果的に使ってドラマを表現して見せたことには大変感銘を受けました。

Kurzakは、もしかしたらアリアだけ聴いても本当の良さがわからないタイプで、オペラ全曲を通して聴いてこそ作品全体を通した役作りの上手さが分かる歌手なのかもしれません。

 

 

 

 

 

カニオ/トゥリッドゥ Marco Berti

個人的に今イタリア人テノールで一番上手いのはこの人なのではないかと思っています。
まず他の歌手と比較しても言葉の明確さが格段に上で、そして全ての音域を同質の響きで歌うことができる。
ここまで喋るように歌える歌手は殆どいないと思います。
なので、ディナーミクも突然フォルテやピアノにしているのではなく、言葉の抑揚や音楽の変化に順応して至って自然に処理できる。
歌っている表情を見ていても、無駄な力みがどこにもないのは明らかで、
大抵のテノールが大声で大げさな演技をして歌う「Recitar!… Vesti la giubba(0:47:00~)」の演奏を聴いても、決して声で押さずに全てレガートで歌えていて、ディナーミクも取って付けたようなものではなく、至って自然に一本の流れの中で処理しています。

勿論人に寄って声の好みはあるでしょうが、ベルティの発声は独特なように聴こえて、実はヴェルディ音楽院でGiovanna Canettiという人に師事しているのですが、この人はBarbara Frittoliの先生でもあります。

 

 

Giovanna Canettiはこんな人

頬骨の上で細く喋るように歌うことを重視している感じが伝わります。
少なくとも、太声で何を言ってるのかわからないような歌唱とは真逆の指導をしているのがこの方で、この方の指導を受けたのがベルティやフリットーリという事実はもっと日本でも注目されなければならないのではないかと思います。

 

 

 

最後はベルティの礼賛になってしまいましたが、
道化師はキャスト全体の出来が本当に素晴らしく、
その上ただビッグネームを並べただけではないところがとても良いですね。
そういう意味でYOUTUBEで見た中で今年一番気に入った演奏として紹介させて頂きました。

 

 

 

 

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