メトロポリタン歌劇場 20/21シーズンのキャストチェックの3回目と言いたいところですが、
前回の記事にも書きました通り、うっかりしておりまして、19/20シーズンの演目を紹介していることに気付かず、20/21シーズンと記載しておりました。
申し訳ありません。
ここからは改めて20/21シーズンの演目とキャストを紹介していきます。
タイトルロールをネトレプコが歌うということが取り上げられ勝ちですが、
流石はメトの20/21シーズンの幕開けを飾るだけあってキャストは豪華です。
●アイーダ役
Anna Netrebko(アンナ ネトレプコ)
もはや説明は不要と思いますが、現代のオペラ界で最も有名なソプラノ歌手ですね。
この方に関しては過去に声やレパートリーの遍歴を記事にしましたので、まだお読みでない方はご参照ください。
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Latonia Moore(ラトニア ムーア(モーア)
1979年、米国生まれのソプラノ歌手。
アフリカ系の家計ということだそうで、最初はジャズやゴスペルを歌っていたようです。
2000年にMetropolitan Opera National Council Auditionsで優勝し、2012年にはヴィオレッタ・ウルマーナの代役としてメトにデビューするというとんとん拍子でスター街道を走っているソプラノ歌手です。
画像は2012年の演奏ですが、普通に上手いですね。
ドラマティックではありながらも決して太くならなず、感情をぶつけているようでしっかりブレスコントロールが出来ていますね。
こちらが2019年の演奏。
口のフォーム的にはかなり横開きなので、平ための響きだったり、
ピアノの響きが散ってしまったり、言葉のスピード感、レガートが不十分だったりとうのはあるのですが、声に力みがないので米国人に多い籠ったような声、力で押した硬い声にならないのは見事で、特に響きの高さがブレないところは凄いですね。
Hibla Gerzmava(ヒブラ ゲルズマーワ)
1970年、ロシア生まれのソプラノ歌手。
90年代からリリコレッジェーロの役柄で活躍しており、今でもアディーナやルチアを歌いながら、ミミやヴィオレッタ、ドン・カルロのエリザベッタといった役柄まで歌っているのですが、アイーダを歌うのはこれが初めてなのではないでしょうか。
彼女の今までのスケジュールを覗いた限りアイーダを歌った形跡は見られません。
ちょっとアイーダを歌う声には聴こえないのでこの配役は謎ですね。
ゲルズマーワをアイーダに指名したのが誰なのか知りたい。
●アムネリス役
Anita Rachvelishvili(アニタ・ラチヴェリシュヴィリ)
1984年、ジョージア生まれのメゾソプラノ歌手。
現在最高のアムネリス歌いと考える方も多いのではないかと思いますが、
世界中の有名劇場からイタリアオペラのドラマティックな役+カルメン、ダリラで引っ張りだこなのも頷けます。
この配役には異論の余地がありませんね。
Ekaterina Semenchuk(エカテリーナ セメンチュク)
1976年、旧ソ連生まれのメゾソプラノ歌手。
2000年代に入ったあたりからイタリアのドラマティックな役柄とロシア物を大きな劇場で歌っており、時々ワーグナー作品にもでています。
典型的なロシア系のメゾで、技術やフレージングよりパワーで押すタイプですね。
個人的には決して上手い歌手ではないと思うのですが、現在世界的にアムネリス役を歌っているメゾであるのは事実です。
●ラダメス役
Piotr Beczala(ピヨートル ベチャーワ)
1966年、ポーランド生まれのテノール歌手。
リリックテノールとしてイタリア物、フランス物、ドイツ物、ロシア物と幅広いレパートリーを高い水準で演奏してきたベチャーワですが、
ローエングリンを歌った辺りから、カヴァラドッシ、ドン・ホセそしてラダメスと重めの役も歌うようになってきました。
ですが、技術のある歌手なのでフォームを崩すことなくこういった役も今のところはこなせている印象を受けます。
スター歌手を揃えたアイーダの公演で、
ロシア人、ポーランド人、ジョージア人がトップに来るというのが何とも現代を象徴しているように思います。
Marcelo Álvarez(マルセロ アルヴァレス)
1962年、アルゼンチン生まれのテノール歌手。
こちらも若い頃はリリックテノールとして活躍していましたが、ここ数年はすっかりドラマティックな役をレパートリーの中心に据えるようになりました。
若い頃はよく泣きを入れるスタイルが耳についたのですが、
重い役を歌っている現在は、声も演奏スタイルも無理をせず、自分の声の領域以上に劇的な表現をしないあたりに頭の良さを感じます。
リリックテノールからスピント、ドラマティックな役に移っていく過程で多くの歌手がフォームを崩してしまう中でも、アルヴァレスは重い役を軽く歌うことで適用した珍しいパターンではないでしょうか?
声と役が合っているかは別問題としても、若い頃と比較して衰えることなく声の輝きを保っているのは素晴らしいと思います。
●アモナスロ役
Ludovic Tézier(ルドヴィク テジエ)
1968年、フランス生まれのバリトン歌手。
ヴェルディバリトンとして長く活躍している歌手ということで、こちらもアムネリス役のラチヴェリシュヴィリ同様鉄板キャストと言えるのではないかと思います。
George Gagnidze(ゲオルグ・ガグニーゼ)
ジョージア生まれのバリトン歌手。
リゴレット、オテッロのイヤーゴ、道化師のトニオ、椿姫のジェルモン、そしてアモナスロ役といった役ばかりを歌っている歌手。
初来日は2007年でジェルモン、
スカラ座来日公演ではリゴレット、新国ではファルスタッフを歌っています。
歌っている役だけを見ればヴェルディバリトンなのですが、
私はひたすらパワーで一辺倒の表現をする彼の歌唱がヴェルディバリトンだとは思いません。
声の合う合わないは勿論重要ですが、それ以上に大事なのはフレージングです。
ガグニーゼの歌唱にはそれが全くないので、私の中では典型的な絶叫系歌手という認識です。
●ランフィス役
Dmitry Belosselskiy(ディミトリ・ ベロセルスキー)
1975年、ロシア生まれのバス歌手。
2018年のメトのアイーダでもネトレプコと共に出演していたのがこのベロセルスキーで、
ヴェルディ作品のバス役とロシア物を得意としています。
ロシア系の歌手にありがちの籠ったところがなく、良いバリトン歌手のように明るく前で響く歌声はイタリア作品を歌うにはピッタリですね。
逆に言えば、バスにしては厚みがなく、もっと深さが欲しいと感じる方もいるかもしれません。
こういう演奏を聴くと、ちょっとバリトンがバスアリアを歌っているように聞こえなくもありません。
ですが、バスの声としてはまだまだこれから歳を重ねれば成熟してく可能性はありますので、まだまだ演奏の質は上がっていくことが期待できます。
Kwangchul Youn(クワンチュル ユン)
1966年、韓国生まれのバス歌手。
バイロイト音楽祭の常連で、ワーグナー作品で大活躍しているイメージが強いですが、アイーダだけでなく、マクベス、シモン・ボッカネグラ、リゴレット、トロヴァトーレなどヴェルディのオペラもかなり沢山歌っています。
この方は本当に素晴らしい歌手ですね。
フォルテをパワーではなく技術で出すので、ドイツ物を歌っている時は柔らかい表現がメインで、あまり力強い声を出すイメージがないのですが、イタリア物では芯がありながらも深さと重厚感のある理想的な響きを実現できる。
アジア人のオペラ歌手で最も世界的にレベルの高い歌唱をしている人と言っても過言ではないかもしれません。
●エジプト王役
Krzysztof Bączyk(クルツィシュトフ ビツィク)
1990年、ポーランド生まれのバス歌手。
ポーランドとパリを中心に歌っているようで、その他ではAix-en-Provence音楽祭などに出演して、イタリアオペラとフランスオペラを中心に歌っているようです。
これがメトのデビューとなる若手有望株ということになるでしょうか。
まだまだ若さが全面に出ており、響きが落ちてしまっているのが気になりますが、年齢を考えれば短い期間で飛躍的に上達することもありますから、まだまだ良し悪しを判断できる歌手ではないのではないかと個人的には思っています。
Ante Jerkunica(アンテ イェルクニカ)
クロアチアのバス歌手。
ドイツを中心に活躍しており、既にベルリンドイツオペラではトリスタンとイゾルデのマルケ王なんかも歌っています。
個人的にはそこまで声も技術もあるようには聴こえないのですが、生で聴くと違うのでしょうか・・・。この方も2020年がメトのデビューとなるとのことです。
これがメトの来シーズン アイーダの主要キャストになるわけですが、
見渡してみて驚くのはイタリア人が一人もいないことでしょうか。
それでも流石にトップクラスの歌手を集めている印象は受けますが、要所に若手も起用しており、その若手も米国で活躍している訳ではないというのが個人的には意外でした。
次はカルメンのキャスト解説をしたいと思います。
[…] メトロポリタン歌劇場 20/21シーズンのキャストチェック その③ […]