Dimash Kudaibergen(ディマシュ クダイベルゲン)は1994年、カザフスタン生まれの歌手。
この人はクラシックの歌手ではなく、クロスオーバー歌手ではありますが、
6オクターヴの声域を持つということで注目を集めたようで、この人の歌唱について私に感想を書いて欲しいとのリクエストがありましたので、本日はそれにお応えしようかと思います。
学校ではミュージカルやジャズの演奏を学んでおり、その後作曲も学び2012年に初めて自作の曲も歌っているようです。
コンクールでも入選するなど活躍を広げ、2015年頃から世界中で活躍するようになったようです。
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さて、実際の歌唱についてみて行こうと思ったのですが、
なんとも都合の良い動画がありました。
S.O.S (2012-2019) VOICE EVOLUTION (FULL PERFORMANCES
SOSというのはクダイベルゲンの代表曲のようで、
その広い声域を存分に生かした歌唱を聴くことができます。
こちらの動画は2012年~2019年の声の変化がわかるので、そういう意味でも興味深いです。
では、彼の声について考えてみましょう。
<地声について>
私自身、彼の喋っている言葉は全然理解できませんが、とりあえずインタビューの映像がありましたので、そちらを判断材料にしたいと思います。。
とても高い声を予想していたら、意外とどこにでもいそうな人の声でした。
ですが、喋っているポジションは一流と言えるかもしれません。
例えば、現在トップクラスのカウンターテノール、ジャルスキーの喋り声と比較してみると、結構共通点があるように思えます。
Interview with Philippe Jaroussky
まず、低い声ではありませんが、しっかり胸の響きがある声なので、
ファルセットと地声の区別があまりないような声ではありません。
例えばフローレスなんかは、それこそ胸の響きがあまりなく、喋っている声からファルセットと地声の中間といった感じです。
Juan Diego Florez Interview
それなりに強いファルセットを出そうとすると、
実はそれなりに楽器の大きさが必要なので、細過ぎる声ではだめです。
さて、クダイベルゲンの話し声ですが、
上ずった感じが全くなく、それでいて喉を鳴らしてるようなところもない。
軽く声を出しているのにしっかり丁寧に発音しているように聴こえる。
話ている声は一流の声楽家のポジションだと私は思います。
<歌声について>
いよいよここからは本題の歌声についてですが、
94年生まれなので、まだ25歳ですから、あまり昔の声と比較してどうなったかを書くよりは、
音域ごとの特徴や、彼のコアとなる音域について考えてみた方が良いかと思いますので、一番冒頭に紹介した動画の、2012年とかの演奏よりは、最近の演奏を基準にして書いていきます。
◆中低音
SOSの低音は正直、とりあえず低い音も出ます。
程度のもので、どうしても無理に出している感じが否めないので、
他の曲でも聴いてみましょう。
これは今年の演奏で、こちらの曲の歌唱では、力強い中低音を響かせています。
ただ、これは表現なのかどうかがよくわからないのですが、インタビューで聴く地声のような柔らかさが失われ、作ったようなバリトン歌手の物まねみたいな声になっているのはあまり好きではありません。
抜けるような高音を出せるだけに、明らかに響きの質が変わる瞬間もわかります。
例えば2:10のところで声が完全に変わりますね。
ここの音域が彼にとってのパッサージョに当たるのでしょう。
更に高い音になる、2:14は本当に良い響きに乗ります。
そんな訳で、低音は、勿論そこらの歌手と比較すれば凄い声が出ていますが、
決して彼にとって自然な声ではないと言えると思います。
◆高音
こちらは今年の2月23日の演奏のようです。
全体的に非常に高い音域で歌っているのですが、この辺りの音域は楽そうに見えます。
しかし、この曲だと、どこか無理に絞り出している感じがしてそこまで声に魅力は感じません。
こちらも同じ日の演奏会のようなのですが、
こちらはファルセットの要素を強くだした、いわゆるミックスボイスを使った高音。
私はクダイベルゲンの歌唱としてはこちらの方が好きです。
ポップス歌手に多い抜いたファルセットではなくて、支えの効いた声に芯のあるファルセットなので、そこから強い声に引っ張ることができる。
この技術はクラシックだろうがポップスだろうが一流の歌手は会得すべきものでしょう。
◆超高音
再びSOSです。
こちらは2020年の演奏です。
私の実体験から、技術云々ではなく、10代後半~20代前半は何をやっても声が出る時期で、
私もファルセットでハイEsが出てルチアのカバレッタとか歌えたんですが、気づいたら全然ファルセットで上が出なくなってました。
クダイベルゲンの声を聴いていると、確かに発声技術、特にファルセットの使い方は素晴らしいと思いますが、それでも身体は変わっていくものなので、いつまでもロック歌手顔負けのシャウトや、ソプラニスタのようなファルセットの高音が出せる訳ではないでしょう。
実際、2017年の演奏と比較すると声の変化は出はじめています。
2017年のSOS
https://www.youtube.com/watch?v=VpJbstCp0AA
2020年の演奏3:11~3:34
2017年の演奏3:09~3:34
2017年の演奏では、高音~超高音に移行するところ、
3:10の声と、3:12で完全に声の出し方が変わりますが、
2020年の演奏では同じ声質のまま超高音のシャウトまで持っていきます。
その一方で、2017年の演奏は超高音からファルセットのアドリブを入れます。
(楽譜を知らないので、何が正しい演奏かはわかりませんが・・・。)
この部分を聴いても、2020年の方が技術的には上達していると思うのですが、
2017年の時は、多少フォームが崩れてもそのまま出せてしまうし、超高音になるとフォームを修正できるために対して問題にはならない。
超高音でフォームが修正できるのも、結局のところ並外れたファルセットを持っているからなのだと思います。
こうして見てみるとクダイベルゲンの歌唱は、低音であっても高音であっても、実声でフォルテを出す時にフォームが崩れる傾向にあり、
一方弱音の表現では、ほぼどんな音域でも自在にこなせる印象を受けます。
勿論マイクを使った演奏で、一流の声楽家のようなピアノの表現とは違うにしろ、曲の最後なんかを聴けばわかるように、そこらのカウンターテノールより見事な繊細で高いポジションの響きをしています。
◆コアとなる声について
こちらも2020年の演奏で、2月16日のものだそうです。
中低音は作った感じの声で歌う感じがすると書きましたが、
それでも、クダイベルゲンの声でコアとなっているのは中低音だと思います。
理由として、囁くような歌唱をした場合、無駄な力の抜けた中低音に彼の本当の良い声があると感じます。
出だし(0:50~0:55)は低音も柔らかく広がりのあるもので良いのです。
しかし、ちょっと声量を出そうとすると直ぐ硬くなってしまって、0:56~はもう作ったような、自分で自分の声をイケてると思ってんだろうな~って感じの声になってしまう。
まぁ、クラシックじゃないから良いのかもしれないけど・・・。
その一方でSOSのようなシャウトやファルセットじゃない高音は相当辛そうです。
声が太くになってしまって、喉が上がった声に聴こえます。
3:33~4:02のファルセット歌唱は素晴らしい!
しかし、それ以降の実声での歌唱は、超高音に抜けるシャウトだけピントが合うものの、
その他は響きが落ちてしまって、無理やり出している感じが強い。
そう考えると、作ったような声に聴こえる部分が多々あるとは言え、よっぽど出だしや、1:14~2:40の中低音の方が良い声です。
これらを総合して考えると、
クダイベルゲンの歌唱を支えているのは、適度な太さと芯の強さをもった中音域と、圧巻とも言える柔軟さをもったファルセットだと思います。
今回はリクエストに応えてクダイベルゲンの歌唱を分析してみましたがいかがだったでしょうか?
またこのような機会があれば、クラシックの歌手でなくても記事にしていきたいと思いますので、もしご意見などがあれば書き込んでください。
いーです。
私のリクエストに応えてくれて本当にありがとうございます。
私がディマシュを最初に知ったのは、2015年の12月にNHKで放送された ABU TV Song FESTIVALでカザフスタン代表で歌っていたのを見たのが最初です。
なんかとても気になる存在でしたが、彼の歌う動画を見るようになったのはタブレットを買ってしばらくたった2018年の6月からです。
海外の動画ではディマシュの歌唱力を分析?するボイストレーナーの動画はあるのですが、なにせ英語の動画ばかりなのでさっぱり解らず。
そんなときこのブログを見ていた時、もしかしたらここならディマシュの声について分析してくれるのでは?とダメもとで今回のリクエストを送りました。
そうしたら、今回こうしてブログに掲載してくださり本当にありがとうございます。
余計な情報かとおもいますが、ディマシュのインタビューについてですがおそらくカザフ語だと思います。
そしてディマシュの詳しい プロフィールはブログ LETITBEALMATYに載っております。「カザフの天才ポップ歌手ディマシュ・クダイベルゲンを知ってほしい!」と言うタイトルです。
最後にこれからもこのブログを楽しみにしています。
ありがとうございました。
いーさん
いぇいぇ。
私こそ良い歌手を知ることができましたので感謝しております。
それより私なんかの分析でお役にたつでしょうか?
ただ、確実に言えることは、彼は高音が売りの歌手ではありません。
例えば日本のロックバンドのヴォーカル(XとかB’zとか)と彼の声質の根本的な違いは、
ただメタリックな高い声ではなくて、低音から繋がっている高音だということですね。
勿論、単純にミックスボイスで歌うだけではないですからオペラ歌手のような声と形容されるのだと思います。
そしてファルセットがしっかり鳴ると言うのは、声帯の大きさがそれなりにありながらも、楽器を使いこなしていることに凄さがあると言えると思います。
中型車を軽自動車のように操っているというイメージでしょうか?!
30歳過ぎて高音が出にくくなってくるであろう年齢でどんな風に適応していくのかは注目ポイントになるでしょうね。
紹介されているブログは以下のですね。
http://letitbealmaty.xyz/archives/885
確かにこの方、日本でもっとファンがいてもおかしくないのに。
コメントの返信ありがとうございます。
ディマシュの日本のファンは、いるのですがそんなに多くはないですね。
少しずつは増えているのですが、昨年 ABU TV Song FESTIVALが東京で開催されてディマシュが今回初来日してNHKで放送されたのでファンは増えると思いますし、5月24日に東京jazzに出演するのでこれからもファンは増えると思います。
ディマシュはカザフスタン共和国と言う日本人にはあまり聞き慣れない国の出身ですし、それに日本で海外の音楽と言えばアメリカ・イギリス・そして韓国等が中心なので、あまり知られていないのは仕方がないと思います。
ディマシュの曲で代表的な曲と言えばSOSですが、この曲はフランスで1979年に公演されたロックオペラ(ミュージカル?)スターマニアの中の曲です。
欧米では知られている曲の様ですがご存知ですか?
私はディマシュが歌うまでは全く知りませんでした。