リリックソプラノの声でメゾを歌うSandra Pastranaの歌唱を検証してみる

Sandra Pastrana(サンドラ パストラーナ)は1978年スペイン生まれのソプラノ歌手。

オペラでは主役と呼べるような役はあまりやっていないようで、コンサート歌手としての活動の方が中心のようです。
歌っているレパートリーは幅広く、イタリアバロック作品~ブリテンのような英語もの、サルスエラのようなスペインもの、そしてフランスオペラのメゾが歌うレパートリーも歌っており、パストラーナの声はソプラノと記載されているサイトが多いですが、時々メゾソプラノと書かれたものも見かけます。

そんな訳で、この人の声は一体何やねん!

というのを今回は見ていきたいと思います。

 

 

ボッケリーニ Misera dove son

 

少々硬さはあるのですが、どう聴いてもこの曲ではかなり軽い声のソプラノに聴こえます。
ただ、不思議なことに低音も決して響きのポジションを落とさずに、高音に比べるとしっかりした奥行のある響きで鳴っている。

個人的な好みとしては、高音は少々力み過ぎな感じがするのであまり好きではありませんが、そこに比べると低音の響きには魅力を感じます。
とは言え、メゾの声かと言われれば、低音の響きのまま高音へ持っていければ良いソプラノになるんじゃないかな~!?
という程度で、中低音が充実している声とは意味が違います。

 

 

 

ヴェルディ リゴレット 二重唱Tutte le feste al tempio e Si,vendetta
バリトン George Tichy

https://www.youtube.com/watch?v=9r8xRglFUkE

韓国でのリゴレットのようです。
ジルダは声も容姿も似合っていますが、声の軽さはあるものの直線的すぎて柔らかさがないのはマイナスですね。
もっている声が清楚な感じなのでそこまで気になりませんが、あまり繊細なディナーミクをこなせる歌手ではないということは確かでしょう。
顔の響きが強く、響きの奥行に貧しい、日本人に多いタイプのソプラノのようにも聴こえますが、Si,vendettaでは部分的に後の頭が決まらないながらも、真っすぐで強い声が良い方向に作用しています。
最後に多少勢いではあってもハイEsをきっちり出している辺りからも、この演奏を聴く限りでは全くメゾの役や曲を歌うイメージは想像もできません。

因みにバリトンのTichyは、ぱっと聴いた感じ良い声に聴こえますが、
Si,vendettaで全く装飾音が入らず、伸ばしてる音だけ強くなるところから見ても、完全に押して歌っているタイプで、最後には一応Asを上げて歌ってはいますが、詰まってしまって声が飛んでいません。

 

 

 

ガスタルドン Musica Proibita
テノール Jaume Aragall

https://www.youtube.com/watch?v=m2dRGozDrGs

こちらは2016年の演奏で、この時はまだソプラノだったことがわかります。
それにしても、1939年生まれのテノール、アラガル(ジャコモ アラガルといった方が分かり易いでしょうか)は77歳でこれだけ声が出るのですから驚きますね。
流石は若い頃はパヴァロッティより上と言われたテノールだけのことはあって、同じスペイン出身の有名テノールのお二方より実力は上でしょう。
パストラーナについてはこの動画では書くことはありません。
重要なのは2016年はこの声だったということなのです。

 

 

 

 

ビゼー カルメン Seguidille

 

 

 

 

Habanera

そしてこちらが2019年のカルメンの2曲。

えッ!

これは別人ではないのか?

そう思って色々調べましたが、2017年~はどうも完全にメゾソプラノになっているようなのです。
驚くべきは、決して重くないながらも、高音と同じ強度をもった中低音を鳴らせる能力。
胸声を目一杯使っているのですが、それでも響きのポイントが前にずっとあり、高音もきっちり同じポジションで決めることができる。

相変わらずピアノの表現がほぼなく、常にフォルテの表現ではあるのですが、これはスペイン女の血としか言いようがない独特のリズム感と言えば良いのか、歌い回しで不思議な色気があります。

発声的には決して良いとは思いませんが、このアリアだけ聴けば個人的には中々面白い演奏で好きです。

 

 

サンサーンス Mon cœur s’ouvre à ta voix

この曲を聴くと、息の量が多すぎるのか、カルメンでは目立たなかった粗がはっきりわかります。
まずレガートが甘く、刺さるような”i”母音や”e”母音が時々あるのはまずいですね。
ジルダが歌えるような音域を持っているなら、このくらいの音域は力まずとも歌えると思うのですが、どこの音域も同じような硬さで歌うので、どうやったらこうなるのかとても不思議な歌い方、と言えば良いのか、持っている楽器が特殊なのか・・・とにかく常識的にはちょっと理解し難い歌い手です。

コントラルトとして世界的に活躍しているニコル・ルミュと比較しても、パストラーナの声の強さは突出しています。

 

 

Marie Nicole-Lemieux

ニコル・ルミュの声は太くて柔らかいのに対して、パストラーナは細くて強い正反対なのですが、それでもコントラルトよりもドラマティックな低音が出せる元リリコレッジェーロソプラノって一体・・・・。
そして、極め付きはアイーダのアムネリス役

 

 

 

ヴェルディ アイーダ 二重唱Già i sacerdoti adunansi
テノール Alessandro Liberatore

ここまでくると、いつ喉を壊すかハラハラするレベルに絶叫してしまっている訳ですが、
それでも声が出ているのだから凄いです。
パストラーナという歌手は一体どこを目指しているのか謎ですが、極めて強い喉を持っていることは間違えなさそうです。

メゾからソプラノになる歌手。
あるいはメゾでソプラノ役も歌う人はそれなりにいますが、
軽いソプラノからドラマティックメゾになる人は見たことがありません。

またパっとソプラノに戻るのか、普通にこのドラマティックメゾの路線を開拓していくのか、色んな意味で今後の活動に注目です。

 

 

CD

 

 

 

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