飛ぶ鳥を落とす勢いのカウンターテノールCarlo Vistoliはどこまで伸びるのか!?

Carlo Vistoli(カルロ ヴィストーリ)は1987年、スペイン生まれのカウンターテノール歌手。

2007年からカウンターテノールとしてのトレーニングを始め、
イタリアでMatteuzziやSonia Prinaに師事していたようです。
2012年にチェスティ バロック声楽コンクールで1位を受賞。
2013年、レナータ テバルディ国際声楽コンクール(バロック部門)でも1位
その後はイタリア、スペイン、フランス、オーストリアを中心に積極的に活動しており、今年メトデビューということなので、まさに勢いに乗っているカウンターテノールと言えるでしょう。

 

 

 

 

ヴィヴァルディ 狂乱のオルランド Sorge L’irato nembo

こちらは2012年の演奏
技術的には申し分ない安定感とフレージングを身に着けており、圧倒的に透明感のある美声という訳ではありませんが、非常に優れた歌唱をしていることがよくわかります。
声の面では、発音ごとに響きのバラツキがなく、高い音域でも横に広がった声にならない。
音楽的にも発声的にも安定感を実体化したようなカウンターテノールですね。

ただし純粋な声の魅力という面では、まだまだ広がりがなく響きが奥まっていて、技巧的な曲であれば上手く歌えても、単純な曲ではどうなのだろう?という疑問が残る歌唱でもあります。

 

 

 

 

ヘンデル メサイア  He was despised

この演奏は2013年のもの。
イタリア語とは違い、英語はもっと前で発音しないといけません。
これは日本ヘンデル協会の三ヶ尻 正氏が仰っていることですが、
米語と違い、ヘンデルの英語発音はとにかく口の中ではなく前で発音しないとブリティッシュイングリッシュとしては現地で受け取って貰えないのだそうです。

 

【歌詞】

He was despised and rejected of men:
a man of sorrows, and acquainted with grief.
He gave his back to the smiters,
and his cheeks to them that plucked off the hair.
He hid not his face from shame and spitting

 

英語に関しては、恐らく私より読者の皆様の方が知識がありそうな気がするので、滅多なことは言えないのですが、
前で発音する。というのは、私の感覚としては以下のような歌唱を指すのではないかと考えています。

ちなみに、「ó」とか「ά」という発音記号は「オウ」や「アウ」とハッキリ前で発音しないといけない、
という指導を受けたのですが、あまりそういう歌唱は見かけないので、実際どの程度の匙加減が理想的なのかは、英語作品に強くない私には感覚的に理解できていないことを断っておきます。
もし、英語と米語の歌い分けに詳しい方がいらっしゃいましたら助言頂けると助かります。

 

 

 

Charlotte Hellekant

ヘレカントはスウェーデンのメゾソプラノなので、母国語は英語ではありませんし、過剰に演技がかった歌唱だとは思いますが、発音の正否と言うより、発音のポジションがこの感じなのではないかと個人的には考えているのですが・・・、
何にしても、ヴィストーリの声は特に低音で籠り過ぎなのは間違えないでしょう。

また、「rejected」の語尾が”t”になっているのは、
ドイツ語などの語尾の”t”と英語の語尾の”d”は明確に区別されることから、間違えと言えると思います。

 

 

 

 

ラウレンツィ Tant’armi inventate

 

Filiberto Laurenziという1618年 イタリアの作曲家の曲のようです。
この人は海外のWIKIでもそこまで詳しい経歴が書かれておらず、チェンバロ奏者であり、作曲家としてはモンテヴェルディの<ポッペアの戴冠>の作曲に協力した。という程度で、現代でも知られた作品がなさそうですが、この演奏を聴く限りでは世俗的な歌曲を残していた作曲家だったのでしょうか?

何にしても、バロック作品の演奏が盛んな現在でもラウレンツィの曲を歌っているのはヴィストーリしかいないのではないか?と思わせる程音源も存在しません。

さて、歌唱のほうですが、
これは2018年で、5年違うと演奏の質も全然変わってきますね。
まず声のノビが変わりましたね。

2013年・14年の演奏では響きを当てるような歌い方で、どうしても硬さやレガートの甘さ、音色の貧しさを感じさせるものでしたが、こちらの演奏では全く拍節間を感じさせず、音楽の持つ自然なリズム感で、響きを当てるのではなく喋っているかのように歌っています。
曲も演奏も私的にはとても好みです。

 

 

 

 

ハッセ アルタセルセ Amalo, e se al tuo sguardo

 

 

 

 

Figlio, se più non vivi

 

 

ヨハン・アドルフ・ハッセはドイツの作曲家で、この作品は近年評価が進んで演奏機会も増えているようです。

こちらは2020年の演奏で、表現によって自在に響きの太さを調整し、「Amalo, e se al tuo sguardo」ではゆっくりなテンポ感の中でも一本調子な歌唱にならず、きめ細かい色彩感を表現することができています。
一方「Figlio, se più non vivi」では硬めで引き締まった従来の歌い方でも、低音の響きの豊かさ、高音のノビは確実に進歩しています。

ここれ程までに数年の間で表現力が格段に伸びるとは驚きです!
技術のある歌手は、逆になかなか技巧に頼った歌い方から抜け出せない人も多いのですが、ヴェントーリは大きなコンクールで1位を取っても、自身の改善点を正確に理解して修正してみせたのですから、そういう部分からみても、勢いに乗って世界中で歌いまくっているキャリアとは別に、自身の歌唱を客観的にい定めて修正できる賢明さがあるということでしょう。

こうなってくると、まだまだ伸びしろを期待したくなってしまいますね。
これからどんな歌唱を聴かせてくれるのかが楽しみです。

 

 

 

CD

 

 

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