Manon Bautian(マノン ボティアン)は1984年、フランス生まれのソプラノ歌手。
Françoise Pollet(フランソワーズ ポレ)に声楽を習い、 Léontina Vaduva、Dame Felicity Lott 、Maria Bayo などタイプの違う歌手のマスタークラスを受けている、
指導を受けている歌手だけを見ると、ボティアンはどこを目指しているのか想像できないのですが、声は素直なリリコレッジェーロで以外と正統派といった声なのが面白いです。
活動はフランス国内に留まっているようですが、音源を聴く限り非常にレベルの高い歌唱をしているように聴こえますので、ここで紹介することにしました。
Françoise Pollet
Leontina Vaduva
Dame Felicity Lott
Maria Bayo
この通り、彼女達のマスタークラスで一体何を歌ったのかに興味が沸いてしまう位タイプが違う。
さて、肝心の本人の演奏はというと
ちょっと響きが暗いのは気になりますが、声その物は素直で、ヴェルディを歌うのに重要なフレーズ感とリズム感はしっかりしています。
中音域は特徴的で、良い意味でしっかり胸の響きがあるところに魅力を感じるのですが、
その一方で響きは高音と比較すると落ちてしまって籠る傾向にあります。
個人的に、声の質だけならばメゾっぽさのある中低音は好きなのですが、響きの質が高音と中低音で上手く混ざっていない部分は改善点かなと思います。
前述の通り響きの質が暗めです。
響くポイントは前にあるのですが発音が奥気味なので
歌っているフォームを見た感じでは、小頬骨筋の使い方がまだ不十分なのかな?という印象を受けました。
時々、頬を上げるように歌わせる指導をされる方を見かけますが、
この図でも分かる通り、大頬骨筋や笑筋をあまり吊り上げようとすると、逆に喉が上がってしまうので逆効果です。
喉が上がるという状態は、同時に舌も緊張した状態になってしまいますからね。
なので、舌の脱力に関しては様々な指摘がされますが、大頬骨筋や笑筋を緊張させて、舌根に力が入らないようにする。という指摘は矛盾してることになります。
Katia Ricciarelli
リッチャレッリの良い時の演奏と比較すると発音のポイントが違うことがわかります。
ボティアンは”i”母音が特に被せたような音質で、”e”と”i”の中間みたいな音になっていますから、どうしても太い響きで高音でのピアノのコントロールがまだまだできていません。
声や表現の好みは分かれる演奏かもしれませんが、単純に演奏としてはとても上手いと思います。
こうも器楽的に声を扱える歌手は中々いないのではないかと思います。
何と言っても素晴らしいのが、スパっと高音の出だしの音が的の中心を射抜くように決まること。
あまり馴染みのない曲なので、他の演奏者と比較してみると、休符後の出だしの高音の決まり具合が如何に凄いかがわかります。
Simona Kermes
Maria Goso
出だしから繰り替えされる「barbaro」の”ba”の高音の引っ掛けの音の決まり具合が、Simona KermesやMaria Gosoはズリ上げ気味になったり、下行する音に微妙なポルタメントが入ったり、そもそも高音を鋭く出すために響きの貧しい声になってしまっていますが、ボティアンは良いポジションにピンポイントで決まっている。
”i”母音ならそれ程でもないのですが、広い母音の”a”でこれができるのは本当に凄いことだと思います。
ディナーミクの付け方にしても、スイッチを切り替えるようにコントラストがハッキリしていて、チェンバロ的なクレッシェンドやディミヌエンドのない楽器を思わせるものです。
こうした表現には瞬発力が必要になりますが、この筋肉をコントロールできるのは当然下半身になりますので、必然的に下半身の安定感がボティアンはしっかりしているということになるのでしょう。
実際歌っている姿を見ていても、Maria Gosoはずっと前傾姿勢で響きが乗りきっていませんし、Simona Kermesは演技なのかよくわかりませんが、無駄な動きが多く勢いで歌っているように聴こえてしまいます。
バリトン Frédéric Cornille
最初に紹介した時の映像とは全然違って、ヴェルディを歌うに相応しいレガートな歌唱が出来ていますね。
一方のリゴレットを歌っているFrédéric Cornilleがレガートが全然できておらず、テノールになり損ねたバリトンのような残念な歌手という感じなのでフレージングの差が歴然としています。
軽い響きのまま中音域に下行してきても籠ったような状況にはならなくなり、以前より明らかに声質が軽くなっています。
そしてペルゴレージの演奏とは真逆の表現がしっかりできるのは、技術と音楽性が備わっていればこそでしょう。
今一度冒頭で紹介したヴェルディの海賊のアリアの時と同じ時期の演奏を比較してみれば、
声を太さが明らかに違います。
ロッシーニのアジリタは一応こなせてはいますし、高音も出ていますが、どこか角が立ってしまってスムーズに音楽が流れていないですね。
これが上のリゴレットの演奏では、驚くべき進化を遂げているとさへ言える程に上達しているように聴こえます。
世界中を飛び回って大劇場や、一流オケのコンサートに出演することは素晴らしいキャリアですが、国内でこういった実力のある歌手が留まって活動することの意義はとても大きいです。
重要なのは、国際的なキャリアを積んだ歌手と、国内でしか活躍してないけど実力のある歌手を聴衆がどう評価するかということでしょう。
こういう歌手は音源も少ないので中々取り上げることが難しいですが、
今後も国際的な活躍はしていないけど実力のある歌手を発掘して紹介できればと思います。
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