イングリッシュ・ナショナル・オペラが“ドライブイン・オペラをやるのだとかいう情報が入ってきたので、今回はそのキャストを中心にお伝えしようかと思います。
HPはコチラ
どうやら特設ステージを作って巨大モニターを設置するようですね。
しかも、車を持ってない人も、自転車やウーバー(個人的には性犯罪多発の白タクというイメージしかないけど、モロこの企画の協賛になってるのね)でも視聴は可能なようです。
<キャスト>
ミミ役
Natalya Romaniw
ウェールズ生まれのソプラノ歌手
声は確かにミミ向きですね。
しかし、Romaniwの歌っている姿を見て真っ先に気になるのは舌。
なんでこんな引っ込めて歌ってるんだろう?
下が奥に引っ込むと前で子音をさばけませんから発音も不明瞭になります。
高音は何言ってるかわからないどころか、何の母音かすら判別不能なところも随所にあります。
声だけ聴けば、そこまで力で押してる感じには聴こえないのですが、中低音で響きが貧しくなるところなんかを聴いても、発音だけでなく声もどこか響きが乗り切っていないというのは明らかです。
Sinéad Campbell-Wallace
アイルランドのソプラノ歌手。
元々はリリコレッジェーロの声だったようですが、
現在はドイツ物とイタリア物のリリコ~リリコスピントの役をこなしていて、
トスカのタイトルロールや、ナクソス島のアリアドネのアリアドネも歌っているようです。
線はドラマティックな作品を歌うには細い気がしますが、
ちょっとルチア・ポップっぽい感じでドイツ物は相性が良さそうな声です。
歌っている姿勢やフォームを見ていても、無駄な力の入ったようなところがなく、必要以上の声を張ろうとしないところも良いですね。
ただミミが合うかどうかは確信がありません。
今までにも歌ったことはあるみたいなので、それなりの水準の演奏は期待できそうですが、中低音の感じを見ていると、ミミとはテッシトゥーラが合ってないような気がします。
もう少し全体的に高い音域で歌う役の方が良さが出そう。
ロドルフォ役
David Butt Philip
1980年、英国生まれのテノール。
一瞬聴いた感じ良いテノールに聴こえますし、声もロドルフォに適任なように聴こえるのですが、
こういう勢いに任せて歌える曲だと粗が目立ちにくく、
実際は随所に課題があります。
それにしても、マスカーニのイザボーという作品は知りませんでした。
テノールバカの血が多少なりとも流れている私としては、楽譜探して歌いたくなる曲なんですが、それはさておき、Butt Philipの課題とは、
高音の”i”母音の響きは良いのですが、そうであればこそダメな響きが目立ってしまうのは仕方がないことです。
まず”o”母音や”u”母音のような奥に響きのポイントがある母音が鼻に入り気味なところ。
鼻声ではないのですが、鼻に入って詰まる感じで、”i”母音で聴かせる明るく前に響く感じが、特に”o”母音ではなくなってしまいます。
上のマスカーニの演奏に比べれば若い時の演奏のため、声も無駄に重いですが、勢いで歌えない曲ではこのように必要以上の圧力で歌っているような不自然な声になってしまい、そうなるとレガートも甘くなる。
果たしてロドルフォでどのようなパフォーマンスになるか、
悪い癖が改善されていれば期待もできますが、緩いテンポで声が重くなってしまうと厳しいですね。
David Junghoon Kim
韓国生まれのテノール歌手
韓国人テノールに多いパワーで押すタイプではありませんが、
体格に見合わず上体で歌ってる感じがします。
まず中音域が全然響かないのと、ピアノの表現で声に芯が無くなり抜いたようになってしまうこと。
そして、日本人テノールに多いタイプの鼻声。
ハイCの出し方なんかを見てもよくわかります。
そんな感じで発声的に観ればあまり好きではありませんが、
ロドルフォを安定して歌えるのがButt PhilipとJunghoon Kimのどちらかと聞かれれば、私はJunghoon Kimの方が声的にも表現的にも安定しているように思います。
マルチェッロ役
Roderick Williams
1965年、英国生まれのバリトン歌手。
リートや宗教曲のソロといったコンサート歌手としては世界でもトップクラスのバリトンだと思っていますが、マルチェッロ歌うのかぁ。
というのが正直な感想です。
全然イタリアオペラ歌っているイメージがない人なので、素晴らしい歌手であることは言うまでもないのですが、プッチーニをどう歌うかは想像がつきません。
このフォーレクすげぇ良い演奏で泣けますわ。
Matthew Durkan
詳細があまりわからないのですが、バーミンガム音楽院を出ているということなので、恐らく英国の歌手でしょう。
音源もこれしかなく、録音環境もよくないため評価が難しいので、この人についてのコメントは保留します。
ムゼッタ役
Nardus Williams
英国のソプラノ歌手。
ヒューストンオペラのメンバー、
Opera Todayという雑誌に「細部までコントロールされた審美的なソプラノ」と称賛されたらしいのですが、
第一声を聴いた地点で押した声です。
高音のピアノは一応美しく聴こえますが、クレッシェンドを喉を押してしています。
オペラを聴きにいって、こういう歌い方をする歌手がいると残念な気分になるんですが、こういう声を称賛してしまう評論に一番危機感を覚えます。
Soraya Mafi
英国のソプラノ歌手。
Royal College of Musicを卒業し、 ENO Harewood Artist(研修所のようです)にいったようです。
スザンナ役は今ひとつ良さがわかりませんが、
もっとテッシトゥーラが高い作品を歌うと良さがでます。
高音は透明感があって実に美しい響きです。
ムゼッタなら比較的良い演奏が期待できそうですが、どう聴いても宗教曲のソリストの方が、ヴェリズモオペラより合いそうな声ですから、
破天荒な表現がどれだけできるかは、現状YOUTUBEに上がっている音源からは想像ができません。
あまりおしとやかにムゼッタを歌われてもなぁ。というのがあるので、
スザンナ役を見る限り、変に可愛い声を出す歌い方はやめてほしい、
因みに、一番気になった癖は、「 gioia」という言葉の発音。
イタリア語の「ジョ」はフランス語みたいな”J”ではなく、日本語の”ジョ”のような感じなので、Mafiの発音は完全に間違え。
音楽院や研修所で直されなかったのだろうか・・・。
コッリーネ役
William Thomas
英国のバス歌手。
まだかなり若いみたいですが、コッリーネを歌わせるのか・・・。
どう聴いても勢いと圧力で出してるだけで持ってる声が良い以上のものはまだない歌手。
変に演劇的な表現とか若い内からしてたら、ちゃんとした声は身につかないと思うのだが・・・。
Jonathan Lemalu
ニュージーランド生まれのバス歌手。
持っている声は中々ドラマティックで力強いバスかバスバリの声だと思います。
ですが、何分”a”母音がアペルトになり過ぎて揺れます。
そして”e”母音が喉に掛かり易い。
全体的に必要以上の圧力で歌っている感じがするので、もっと軽く歌ってくれればコッリーネでもそれなりに期待はできるのだと思います。
高い音は特に勢い+アペルトで出して揺れてしまう傾向にあるのですが、役的にコッリーネはそういった悪い癖が表面化しにくいのは救いかもしれません。
ショナール役
Benson Wilson
ニュージーランドのバリトン歌手。
この人は上手いですね。
ピアノでもしっかり響きに芯があって、安定したポイントで歌えています。
低音でも押したり、アペルトにして大きな声を出そうとせず、終始柔らかい響きで歌えています。
ショナールという役は全く性格が違うので、この演奏をもって絶対に素晴らしいに違いない。
とは言い切れませんが、Wilsonが優れた歌手であることは確かです。
Ross Ramgobin
英国のバリトン歌手。
響きのポイントは安定していて、ピアノでも抜くようなことはせず、
前に響きがある状態でディナーミクをコントロールできていることは素晴らしいです。
ただ、少々空間の狭さと言えば良いのか、もう一歩深さが欲しいところではあります。
とは言え、技術的にはWilsonの方が優れているとは思いますが、
持っている声としては、Ramgobinの方がショナール役には向いているような気もします。
以上が、発表されている主要な役でした。
みたところ、英国生まれの歌手が多く、外国でもニュージーランドだったりアイルランドだったりと英語圏の歌手ばかりで、そこに韓国人テノールが割り込んでいるのは最近よく見かける光景と言えなくもないですが、
David Junghoon Kimという方は、Jette Parker Young Artist Programmeという、ロイヤルオペラの若手育成プログラムを受けていることから、言ってしまえば英国ロイヤルオペラの研修所上がりでイングリッシュ ナショナルオペラで歌っていると考えると、キャストは全員、英国国内で活動している人を集めていると言えなくもないですね。
個人的な感想は、
一番キャストとして熱い(厚い)のがショナール役だということに驚きました。
一方主役のミミ、ロドルフォは若手なので、ここで厳しめのコメントを書いた方も、短い期間で著しい成長を遂げることはありますし、
それこそ、全盛期を過ぎてもネームバリューで大劇場の主役張ってます。
みたいなキャストよりもよっぽど興味深いのは確かです。
ドライブイン オペラなる試みが上手くいくのかも含めて皆様も注目してみてください。
コメントする