ロシアで活躍するコレッリのようなタイプのテノールIvan Gyngazov

株式会社Wiz

 

Ivan Gyngazov(イヴァン ギンガゾフ)はロシアのテノール歌手。

2013年に Glinka Novosibirsk State Conservatoryを卒業しているということなので、まだ30代前半と思われますが、線の太い声でありながら響きのピントがしっかり合っている、所謂作って無理やり重い声を作って出している訳ではなく、生まれ持って強くて重い声で歌える稀有なテノール歌手。

どうやら、まだロシア国内でしか歌ってないようなので、アルファベットではYOUTUBEの音源が2つしかヒットしなかったのですが、キリル文字(Иван Гынгазов)で名前を検索するともう少し音源が出てきましたので、まだ粗削りではありますが、若い頃から純粋なスピント~ドラマティコの声を持ったテノールは珍しいので、ギンガゾフの可能性について観ていこうと思います。

 

 

 

ヴェルディ アイーダ Celeste Aida,

多少もっさり感のある歌唱ではありますが、
まだまだ解放された声とまではいかないまでも、高音の響きはとても良いポイントで歌えています。

かなり太くて強い声なのですが、低音が全然響いていないことが声を解放しきれていない要因であろうと私は考えている訳ですが、
このアリア(正確にはロマンツァだったかな)は、何度も五線の下のF~上のFまでのオクターヴの上行音型を歌うため、テノールにとって中低音~パッサージョ付近の発声技術が如実に分かる曲なのです。

それで、出だしの低いFの音でしっかり響きの乗った声を出せないと、まずレガートではこのフレーズを歌えません。
実際に、五線の真ん中のD辺りで急に口を大きく開けるので、声が揺れ気味になって不安定な声になり易く、どうしても低音と中音域~高音域とで分離しているように聴こえてしまいます。

 

 

 

 

チャイコフスきー エフゲニー・オネーギン Kuda, kuda, vi udalilis

レンスキーは軽い声のテノールが歌うイメージが強く、名演を残したロシアのSP時代のテノール、コズロフスキーも大変軽い声の持ち主でした。

しかしギンガゾフは全く違います。
あえてリリックに歌おうという意識すらない、マッチョなレンスキーをあえてつくっているのか、繊細なディナーミク表現はほとんどなく、ピアノになったら響きが抜けてしまってはいるのですが、演奏そのものにはそこまで違和感がないのが不思議です。

声だけを聴くと低そうな声だとは思うのですが、
意外とパッサージョは普通なのかもしれません。
※テノールのパッサージョ(高音へ抜けていく手前の音)はF~Gの辺りというのが一般的とされています。

 

 

 

ヴェルディ リゴレット  La donna e mobile

こういう演奏を文章で表すのは難しいです。
声は良いのに歌が下手に聴こえる・・・。
この理由をどう説明するかなのですが、

とても簡単に言ってしまえばギンガゾフがテノールバカ、
要するに高音(五線より上の音)を出すことに意識の大半が注がれた演奏をする歌手である。
ということに尽きると思います。

この演奏で明らかなのは、彼が音符に書かれていることしか歌っていないことで、音符と音符の間をどう歌うかに対する意思が希薄なこと。
そして、機械で揃えたかのうように同じようなブレスをすること。

聴衆の意識が集中するのは、音が鳴っている時ではなく、切れた時なのだそうで、つまりは歌手のブレスに対して、それを意識していようがしていまいが聞き手は反応してしまうために、フレージングが下手な、いわゆる間の取り方が下手な歌手は、声がよくても歌も当然下手に聞こえてしまう。ということが言えます。

おまけに語尾の歌い収めも雑ときていますから、そりゃ声は良いのに残念な演奏に聴こえるはずなのですが、
ここで改めて彼のパッサージョについて考えてみますと、
五線の上のFisやAisといった音は響きが乗っているのですが、五線の真ん中へんの、H、Cisといった音より下になると徐々に生っぽい声になっていて、これが役を意識してあえてこのように歌っているのかどうかは判断ができない部分ではありますが、私の感覚としては、彼の声でテノールらしい高音の響きへ移行していく音はFis辺りだと感じますので、声が太くても、彼の持っている声は完全にテノールなのでしょう。

 

 

 

 

ヴェルディ 仮面舞踏会 アメーリアとリッカルドの二重唱 Teco io sto

今まで紹介した演奏は2018年・19年ですが、こちらは今年のものです。
まだ低音域には課題がありますが、演奏としては上のリゴレットとは比較にならない程素晴らしいです。

彼の歌唱技術が一機に向上したと言うより、声に合っている曲を歌っていることが一番大きいように思います。

この人、ドラマティックな声をもっていながらも高音が強いという珍しいタイプなのでしょうね。
最後のハイCも余裕で出していますし、この重唱ならカラフが得意役というのも頷けます。

 

よく声が軽いのに、無理にトゥーランドットのアリアを歌ってフォームを崩す歌手はいるのですが、
彼の場合は、無理に声に合わない軽い役を歌わず、ドラマティックな声が要求されて、尚且つテッシトゥーラが高い作品を歌うのが好ましいのではないかと思います。

こんな感じで、フランコ・コレッリの現代版みたいな歌手ではありますが、
今後ロシア国外で活動するようになったら、一気に知名度が上がる可能性のある素材を持った歌手ですので、今後の活動には要注目です。

 

株式会社プレニーズ  

2件のコメント

  • JK より:

    確かに、このレンスキーなら決闘でオネーギンを倒せるのではないか、と思ってしまいますね。

    • Yuya より:

      JKさん

      コメントありがとうございます。
      レンスキーと言うより、スペードの女王のゲルマンなイメージの声で、
      仰る通り、このレンスキーを倒すオネーギンがもし軽い声のリリックバリトンだったら違和感がありそうです。

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