商品化されている映像なので、恐らく直ぐに削除されてしまうと思いますが、
このところ演奏会に接することができず、バイロイトもなかったので、ワーグナー欠乏症からついつい観てしまいました(笑)
少し古いですが、
2003年のリセウ歌劇場でのヴァルキューレです。
ヴォータンを当時最高のヘルデンバリトン、シュトルックマンが歌っていて、
ブリュンヒルデを得意としているワトソンがジークリンデの方を歌っているというキャストで、当時としてかなり理想的なキャストを揃えた映像ではないかと思います。
ワーグナー ヴァルキューレ(1幕)
https://www.youtube.com/watch?v=HVcbxPywQlI&t=419s
ワーグナー ヴァルキューレ(2幕)
https://www.youtube.com/watch?v=C53M-FqpYJc
ワーグナー ヴァルキューレ(3幕)
https://www.youtube.com/watch?v=WKTLg7ZXzdE
<キャスト>
ジークムント:リチャード・バークリー=スティール
フンティング:エリック・ハルファーソン
ヴォータン:ファルク・シュトルックマン
ジークリンデ:リンダ・ワトソン
ブリュンヒルデ:デボラ・ポラスキ
フリッカ:リオバ・ブラウン
バルセロナ・リセウ劇場交響楽団
ベルトラン・ド・ビリー(指揮)
ハリー・クプファー演出
ライヴ収録:2003年、バルセロナ、リセウ劇場
この演奏は有名歌手が集っているのですが、その中では知名度の低い二人をまず取り上げますと、
ジークムントを歌ったバークリー=スティールは、1幕で聴かせ所の伸ばす高音が全部良いポジションにハマらなかったのは勿体ない。
音域としては、F~G辺りですが、この辺りの音域がことごとく線が細くなってしまって、つまりは喉が上がってしまって、喉に引っかかってしまうような場面がみられる。
それでも、中音域は重くなり過ぎずに、前で言葉をさばけていることもあって良質の響きで歌えているので、百戦錬磨のワーグナー歌手達の中でも埋もれることなく歌えているのは立派と言えると思います。
もう一人、このキャストの中で名前が有名な方ではありませんが、
フリッカを歌ったブラウンは、バークリー=スティールとは逆で発音がちょっと籠り気味ではあるものの声に柔らかさがある優れたメゾソプラノで、
ドイツ人ではありますが、イタリア物の方が向いてそうな声の丸みと響きの深さを持っています。
Lioba Braun トリスタンとイゾルデ Isolde Liebestod
ヴェルディ トロヴァトーレ Stride la vampa
とても良い声で、絶叫もせず丁寧に歌っているのですが、
やっぱり発音が籠ってしまう分、ただ美しく歌っている以上に心に届く感情がないのが勿体ないところ。
フリッカ役は、彼女にとっては音域が少し低いのかな?
という気がしました。
タイプとしては、エリザベス クールマンの逆といったところで、
テッシトゥーラは2人ともメゾとしては高いのですが、真っすぐに言葉が届くクールマンと、鋭さがなく温かみのある音色ながら、やや籠って聴こえるブラウン。
こういうのは好みが分かれるところかもしれませんが、個人的には、
言葉のレガートはとても重要な要素なので、
ブラウンの声は好きなのですが、歌唱としては一流とは言い切れない部分があるという考えになります。
Elisabeth Kulman
ワトソンとポラスキの女声お2方は流石と言うべき歌唱なんですが、
ヴァルキューレはジークムントとジークリンデの愛の二重唱で大いに盛り上がる1幕と、
超有名なヴァルキューレの騎行やヴォータンの告別で締めくくられる3幕と比較すると、2幕は地味な印象があるかもしれませんが、
彼女達だけでなく、全てのキャストがこの演奏では2幕が一番個人的乗っていたなという印象を受けまして、とにかく心拍数が上がりました(笑)
それだけに、3幕開始のヴァルキューレの騎行が今ひとつなのが残念と言えば残念かもしれません。
2幕のどこが特に良いかって、1時間くらい経過してからの、
ジークムントとブリュンヒルデの対話から、ブリュンヒルデがジークムントを勝たせることを決意する場面、それから最後のヴォータンの怒りの表現。
やっぱりこのオペラは結局ヴォータンが最後はもっていくようにできてますわ。
ということで、シュトルックマンが、所々鼻に掛かる感じはあるものの、圧倒的な存在感を見せてくれまして、歴史的にみても本当に素晴らしいヘルデンバリトンだなぁと再認識させられる演奏でした。
シュトルックマンの歌唱については、
私がこのサイトを作って間もない頃に記事にしましたので、
そちらも併せてご覧頂ければと思います。
◆関連記事
最近また新旧歌唱比較シリーズも更新が滞っておりますので、
今度はヘルデンバリトンでも特集しようかなぁ。
現代の歌手と昔の歌手で比較して欲しい声種や役柄などもリクエストがありましたら出来る限りお応えいたしますので、コメント頂ければ幸いです。
仰られるとおり、シュトルックマンは本当に素晴らしいバリトンですね。ヴォータンを演じるのに相応しい存在感と実力があると思います。
ヘルデンバリトン特集も興味深いのですが、
個人的には、ドラマティック・テノール新旧比較みたいなのも見てみたいですね。
タグイさん
コメントありがとうございます。
ワーグナー好きでシュトルックマン嫌いな人見たことないですね!
ある意味ワグネリアンに現代最も尊敬されている歌手かもしれません。
ドラマティック・テノールは王道と言えますが、SP時代の歌手は定義が難しいですね。
カルーソーは道化師を得意としていたと言いますが、ドラマティックテノールとは言えないと思いますし、
本人も自分の声には重い役と言っていたようですからね。
こうやって見ると、ヘルデンテノールは昔から系譜がはっきりあるのですが、
イタリア人ドラマティックテノールの系譜は判断が非常に難しいです。
返信ありがとうございます。
SP時代もそうですが、例えば現代においても、グレゴリー・クンデなどは本来はレッジェーロの声質にも関わらず、立派にカラフやマンリーコなどの役を演じていますしね。そう言ったことを考慮にいれると、ドラマティック・テノールの定義は結構曖昧で、十把一絡げに論じるのは難しい気がします。
タグイさん
そうですね。
時代によって求めるモノが変わりますからね。
だからこそオケの世界でもピリオド楽器、ピリオド奏法といったものも、モダン楽器での演奏も受け入れられていますし、
私は好きではありませんが、フォークトのような軽い声のテノールがワーグナーを歌って売れっ子にもなる。
ただ、個人的な感覚としては、50~70年代に白黒~カラーの映像メディアで名歌手の演奏が聴けるようになった頃、
つまりは、モナコ、タリアヴィーニ、カラス、バスティアニーニ、ニルソン、若い頃のパヴァロッティ・・・といったところに一つ基準が設けられているような気がしますね。
本来ドニゼッティやベッリーニ作品はカラスやステファノみたいな歌い方をすべきではないと思うのですけど、良くも悪くも、ヴェリズモのようにベルカント物を歌うのがあの時代から主流になってしまった感があります。
それが若手歌手の声をより浪費させるというのがあって、そういう意味ではクンデは50歳になるまでオテッロのような役を歌うのを我慢したそうなので、若い頃に技術を磨き、声が成熟するのを待ってドラマティックな役を歌ったという結果を見れば、声も技術も素晴らしいですけど、実に理性的ですよね!
30代で重い役をやってたらこうはなっていないでしょう。