シューベルトの冬の旅を4人の歌手が代わる代わる出て来て歌うという演奏会が、
優良演奏会を数多くYOUTUBEにアップしているWigmore Hallのチャンネルに公開されている。
‘Winter Journey’ – Live from Wigmore Hall
David Webb tenor
Alessandro Fisher tenor
Rupert Charlesworth tenor
Benedict Nelson baritone
Iain Burnside piano
一見聴いた感じでは全員それなりに上手く聴こえて、
特にバリトンのネルソンはとても立派な声。
ヘルデンバリトンが冬の旅を歌うとこんな感じになるのか?
と思わせてくれる演奏。
細めの声で繊細な表現が得意なバリトンがリートを得意にしていることが多いことを考えると、この類の声で、オペラしか普段歌ってない人がとりあえずリートを歌いました。
といった感じにならずに、中々高い水準で歌えていることは評価すべきだた思います。
ただ、どの歌手も感銘を受けるような演奏とまでは残念ながらないきませんでした。
バリトンとテノールが一緒に歌っていることもあって、
調整的にテノール陣に低音がキツそうな部分が随所に聞かれたり、
バリトンはバリトンでどうしても高音はフォルテの表現が中心と言った感じでした。
後、テノール陣はパッサージョ付近の”a”母音がどうしても鼻に掛かり気味になってしまう傾向があって、これはリートを得意としているパドモアにも当てはまるので、
やっぱり英語圏のテノール歌手によく観られる傾向なのだと思います。
Mark Padmore
一人ずつ簡単に特徴を書きますと。
David Webb(一番最初に歌った歌手)
一番この4人の中で癖がなく、リート歌手っぽいテノールだと思います。
ただ、テッシトゥーラが合ってない感じがして、有名な菩提樹なんかは低音が明らかに出てない。
バリトンが歌う調整で歌うには無理があるのが残念。
彼の声に合った音域で歌っていれば、母音の響きや、歌い回しに癖がない分、もっと伸びる声で歌えていて、聴き映えのする演奏になっていたのではないかと思います。
とは言え、気になるところもありまして、
低音がただ鳴らないだけなら良いのですが、生声っぽくなっているところを見ると、
どうも上体だけで歌っている感じはしないでもないところでしょうか。
Rupert Charlesworth(2番目に出て来て歌った歌手)
この人はちょっと癖が強い過ぎます。
高音域は鼻に入って、低音域は喉で押した声なので、
18:10~の”Erstarrung”なんかを聴くと、
大して高い音でもないのに泣きを入れるような歌い方をしています。
ピアノは抜いたような歌い方をするので、音の立ち上がりがはっきりせず、
歌詞でも、語尾の処理は注意を払っているのが分かるのですが、語頭がハッキリしないので、ふわふわして聴こえてしまいます。
シューベルトは旋律を綺麗に歌おうとするとこういう演奏になり勝ちで、
言うは易しなのですが、もっと喋るように歌わないといけない。
Benedict Nelson(唯一のバリトン)
調整的に一番合っているというのもあるのかもしれませんが、
ここで歌っていた中で最も良質で安定した響きを聴かせていました。
高音での”i”母音のハマり方が素晴らしく、”e”母音寄りに開いてポイントがブレてしまったり、逆に喉が上がって苦しそうに聴こえるということがなく、中低音と高音で響きの質が変わらずに歌えています。
課題としては、もっと唇と舌先を使って発音すること。でしょうか。
どの曲を歌っても歌い回しに変化がなく、強弱表現はあるのですが、言葉の色がない。
この辺りが改善されると本当に良い歌手になるのではないかと思います。
Iain Burnside(一番最後に歌ったテノール)
表現としては個人的に一番好きだったのですが、
如何せん五線の上の方の音が全部鼻声になってしまうのが勿体ない。
響き自体が横に開き気味なので、言葉は一番今回歌った4人の中では前に出ているのですが演劇的な演奏に聞こえてしまう。
個人的、そもそもテノールが歌った冬の旅で好きな演奏があまりないと言うのもあるのですが、それでもアライサの演奏は本当に素晴らしいと思っているので、
この演奏と是非聴き比べて頂きたいと思います。
ピアノの表現の質が全然違うことが伝わるかと思います。
Francisco Araiza
元々はロッシーニテノールをやっていたような軽い声の持ち主ですが、
低音がちゃんと整って響いています。
アライサの声その物は特徴がありますが、決して変な癖がある訳ではありません。
今回紹介した3人のテノールと、アライサの決定的な違いは、響きが鼻に掛かってしまうか否かだと考えていて、
鼻に入ってしまうと前で発音できないので、どうしても言葉が飛ばなくなってしまうしレガートも甘くなってしまう。
本当にこの演奏は理想的だなと思って私は愛聴しているのですが、
皆様は誰の冬の旅がお好きでしょうか!?
<お詫び>
最近更新が滞ってしまっててすいません。
コレといったネタが中々見つからないのもあるのですが、
最近急に迷惑メールが増えて悩まされておりました。
現在はようやく落ち着いたみたいなのでよかったのですが、
セキュリティ関連の設定をすると、通常のコメントまで弾いてしまったりすることがあって、ちょっと英語のメッセージはもう見たくない心境です(苦笑)
それでは、また次回よろしくお願いします。
「冬の旅」の、聞き比べ、興味深く読みました。アライサの「冬の旅」は、東京と、ウイーンとで、2回聞きました。その当時「冬の旅」の決定版は
フィッシャー・ディスカウと言われてました。でも、アライサのを聞いた時、1曲目の前奏から(オリジナル調)「31歳で亡くなったシューベルトは、「冬の旅」に、若者の希望を託したにちがい無い」と確信しました。
バリトンや、バスが歌う、陰々滅滅とした、最後まで、何の希望も見つけられないやりばの無い孤独(日本人の男性はこれが好きです。知的な男は
この世界を持つべきと思っている?)ではなく、行く先に見える、希望の光に救いを感じました。私はこちらの方が好きです。(女性だからかもしれませんが)ドイツ語の曲のアライサの素晴らしさは、そのディクションの素晴らしさです。確か、R・シュトラウスの生誕150年?に時、フィッシャウ・ディスカウのR・シュトラウスのレクチャーコンサートがあり
その時の「お手本」の歌唱は、アライサでした。メキシコ人のテノールに
ドイツ歌曲の模範演奏させるなんて、素敵です。ミラノスカラ座から2月22日(月)20時(日本時間23日午前4時~)Vittorio Grigoloのリサイタルが配信されました。スカレーラのピアノ伴奏でした。アリア8曲と言う凄いプログラムでした。でも、あまりにも自己流で、感動しませんでした。これが、Vittorioのチャライところですね!すごいサービス精神と、ストレートな感情表現には、感心しますが、オペラや、作曲家のスタイルとか音楽の格調みたいなものが、置き去りにされていたと思いました。私はファンですが、「とて残念!」と言う感想です。
鎌田滋子さん
私も冬の旅は基本的にバリトンの方が好きですよ。
まぁ、ディースカウやプライは何度も歌ってるので、録音年代によってもファンからは好き嫌いが分かれるところではあるでしょうし、
それに、ゲルハーヘルに代表されるように、かなりテノールに近い軽く明るいバリトンが歌うことも多いですし、
それこそディースカウもテノールが歌う原調で歌った録音もあったと記憶してます。
日本人男性が重く暗く歌う傾向にあるのが問題な気がします。
アライサのRシュトラウスの歌曲は本当にお手本ですね。
イタリア語の作品よりドイツ語の作品の方が彼の声にはあっているのか、本当にラテン人とは思えないですね。
Vittorio Grigoloのリサイタル、まさにこれから記事を書こうと思っていたところでした。
私は元からあまり好きになれないのですが、このリサイタルは、う~ん自分に酔ってる歌い方と言いたくなってしまう。
これだからテノールって人種は困るんです(爆)