ご存じないオペラファンは必見の映像 『20世紀の名演奏』シリーズを改めて鑑賞してみた!

10代・20代の方はご存じないかもしれませんが、
20世紀の名演奏というNHKのドキュメンタリーの中で、黄金時代の歌手を取り上げた回がありました。

30~40代の方なんかはこの映像を見て影響を受けた人も多いのですが、
私の記事の読者には現役の大学生の方もいらっしゃるので、あまり新しい演奏会の情報がない今、折角YOUTUBEに完全な状態でアップされているので、改めてこの映像を紹介してみるのも良いかなと思い、今回取り上げることにしました。

 

 

 

20世紀の名演奏 ② 黄金の歌声 ~イタリアオペラからバイロイトまで~

 

いきなり、シュトライヒ、ゼーフリートと今のソプラノ達の多くに欠けている滑らかでキンキンしない歌声を披露して下さっておりまして、
ついでに、この時代の歌唱に触発された方々がイタリアのベルカント、ドイツ的歌唱法、などという言葉で区別するようになりましたけど、ゼーフリートとスコットの歌い方にそんな違いがあるとは私には思えない。

何にしても、「声きを当てる」、「高いポジションで響かせる」といったことをやってる歌手はあまりいないですね。

話が逸れましたがドイツ勢に戻って、ディースカウの歌唱を今こうしてちゃんと聴いてみると、やっぱり重要なのは子音ではなく母音であることを確認することができました。

音符の中で出だしから切る瞬間まで、母音に緊張感が失われる瞬間が全くないんですね。
だから、強い声から弱い声まで違和感なく同じ緊張感の中で歌えるし、子音だけが分離して聴こえることもない。
昔はディースカウの演奏があまり面白くなくて、教科書と皮肉を言っていたものですが、今では良い意味で教科書とすべき演奏だったんだなと理解できます。

改めて、オペラ黄金時代と言われる戦後~60年代は、オペラよりむしろリート歌手が本当の意味では地位を確立した時代だったのかもしれません。

 

来日してケルビーノを歌ってたシミオナート!
シミオナートの来日公演と言えばカヴァレリア・ルスティカーナのサントゥッツァ役が一番に思い当たりますが、そういえばケルビーノも歌っていたんですね。
とても合っている役とは思えないのだけど、サントゥッツァとは明らかに違う歌い方をしていて、ケルビーノを歌う時はポルタメントも使わないし、テンポも揺らさず全然歌い崩さない、
そもそも声の使い方が違う。

今のようにモーツァルトはピリオド楽器を使ったり、軽くカラっとした音曲で速めのテンポで演奏されることが一般的ではなく、フルオケをガンガン鳴らすロマン派的な演奏が主流で、歌手も声を聴かせるのにだったことを考えると、シミオナートの感覚の鋭さには頭が下がります。

ケルビーノのアリアでそこまで違いが出るかと思われる方もいるかもしれませんが、
テンポ感が、例えばモーツァルト~ヴェルディまで歌ってたバルツァなんかと比べると、シミオナートは明らかに現代的な感性で歌っていると思います。

 

 

Agnes Baltsa

 

 

そして同じくドラマティックメゾとしてシミオナート共に双璧を築いたコッソットはまるでソプラノのよう。
現在のドラマティックメゾと言われる歌手の大半がいかに力任せに歌っていることか・・・。

 

ソプラノ勢の中でやっぱ凄いなぁと思うのはカバリエ。
まるでただ呼吸をしているだけのように自然なフレージング。
フォルテの表現で少し押し気味になるのでそこが好きではありませんが、ピアノの表現は本当に美しいですね。

 

イタリア物のバス、バリトン勢では、やっぱりカプッチッリ上手い。
ギャウロフと一緒に歌うと、声で押して広がりのない硬い声でレガートで歌えないギャウロフと、ゆったりしたフレージングで、自在のディナーミクを表現できるカプッチッリでは技術に雲泥の差があります。

プロッティは日本人の歌手でも随分習った方がいるので、どんな指導されていたかとかもちょっと聴いたことはありますが、残念なが弟子で上手い方はあまり聞いたことがない・・・。
まぁ、それを言ったら本人はベルゴンツィの弟子も今ひとつパっとしないのですが、
それは置いておいて、
プロッティ自信は普通にハイCまで出せたくらい高音の強さを持っていたと言いますから、今で言えばヌッチ的な、なろうと思えばテノールもできたバリトンだと思います。

 

デル・モナコに関しては、正直来日した時にはすでに全盛期を過ぎていて、
勿論響きは素晴らしいのですが、声に40~50年代前半のようなノビがない。
若い時の演奏を聴けば、この来日公演での声はドミンゴ程でなくても、パワーで無理に響かせていることがわかります。
これを神格化してしまったことが日本のオペラ界の悲劇の始まりだったのかもしれません。
この映像の中ではベルゴンツィの方が遥かにモナコより良いですね。

せめて、タリアヴィーニの歌唱を目指していれば、あるいはもっと日本のテノール達は違った方向に進んでいたのでしょうか?
あぁ、でもタリアヴィーニってこう見えてヘヴィースモーカーだったらしく、日本人の聴衆から隠れてタバコもらって吸ってたんだかという話も聞いたことがあって、
そんな所から?声を維持するのにタバコは必要だ。とか意味不明なこと言うバス歌手とか見たことあるんですけど、それはまた別のお話。

 

 

1946年
Mario del Monaco La rivedra’ nell’ estasi Ballo in Maschera

60年代のような重い鋼鉄の声ではなくて、若い時は研ぎ澄まされて、軽さもありながら鋭くて丈夫な鋼の声だったんですよね。

 

なお、最後のヴィントガッセンとニルソンのトリスタンですが、
これはニルソンが自伝の中で、
ブーレーズ(この公演の指揮者)というロマンを理解できない現代音楽作曲家に私達はワーグナーについて教えたが、彼には理解できないらしく酷い演奏だった。

というようなことを書いていました。

その自伝はAmazonでも購入可能なので、興味のある方は是非読んでみてください。

 

 

「20世紀の名演奏 ⑤不滅の名唱」を次回は特集する予定ですので、
古い歌手をあまりご存じない方はお楽しみに。

 

 

 

5件のコメント

  • いー より:

    20世紀の名演奏を紹介していたので、見てみようと思ったら削除されていましたね(。・´д`・。)
    私も見てみたかったです。
    質問ですが、ルビーモルダーと言う女性歌手をご存じですか。
    女性テノールと言われているイギリス出身の歌手なんですが聴いたことはありましたか。
    19世紀末から20世紀初頭にかけて歌っていたのですが。

  • いー より:

    すみません間違えました。ルビーヘルダーでした。

  • いー より:

    最初のコメント届いたでしょうか。
    20世紀の名演奏とルビーヘルダーのことをコメントしたのですけど、ヘルダーをモルダーと書き間違えてしまいました。

    • Yuya より:

      Ruby Helderですね。
      https://www.youtube.com/watch?v=R2CaErFrxls

      確かにテノールの声のように聴こえるんですが、SP時代の声は、女性は特に実際の声が分かり難い部分があるので、
      実際に聴いたらどうだったのか興味深いですよね。
      ただ、こういう声で歌おうと思えば歌えた歌手は意外といるんじゃないかなと私は思いますよ。

      • いー より:

        私のコメント見てくださってありがとうございます。
        ルビーヘルダーのような女性の低い声は、クラッシックではかなり珍しいですね。
        クラッシック以外のジャンルでは多いのかな。
        日本の低音の女性歌手では、和田アキ子さんとかアイドルでは中森明菜さん?とか。

コメントする