Luciano Ganci(ルチアーノ ガンチ)はイタリアのテノール歌手。
20-21シーズンの新国、ドン・カルロのタイトルロールと
21-22シーズンの蝶々さん、ピンカートン役で出演予定でしたが、カルロはキャンセルになってしまいました。
オペラデビューが2009年ということなので、恐らく現在30代半ば~40歳手前で、テノールとして最も声の充実している時期と言えるでしょう。
声質は明るく強く、輝かしい高音をもったこれぞイタリアのテノールといった感じの声です。
なのでレパートリーの中心もベルカント物のセリア作品~ヴェルディ、ヴェリズモ作品となっています。
こちらが恐らく映像がある中で一番古い2012年の演奏。
中音域が少々重いかな?といった感じはあるものの、高音での響きの乗りはとても素晴らしく、決して圧力で無理に響かせているのではなく、楽に強い響きが出てしまう、なんとも羨ましい限りです。
2016年の演奏から、ヴェルディの歌曲。
こういう曲を歌うと、微妙に高音に上がる時にズリ上げる癖が気になりますし、
音色の変化、フレージングという面で良い声ではあっても、聴いていて面白い演奏ではない。というのが課題かな?という気がします。
ヴェルディって、アリアでも歌曲でも付点、副付点の鋭いリズムと3連符の違いが明確に書かれてることが多くて、そういうところの歌い分けをつけるだけで曲の表情が全然違ってくる。
例えばアルフレード・クラウスが何故に超一流テノールなのかがこういう曲で比較するとよくわかる。
Alfredo Kraus
こちらが2020年の演奏。
録音状況の違いもあるのでしょうが、中低音域の言葉が飛ぶようになってきて、
高音だけ突出して鳴っているという感じではなくなり、高音のズリ上げもしていないし、この数年で、声の変化はそこまでなくても、歌唱のレベルが格段に上がったように思います。
映像を見ていると、最高音では一瞬口を広く空けて、直ぐに縦に絞るような感じの出し方をするのが面白い。(5:00、5:40ら辺)
ドラマティックに歌っているように見えて、中では無茶苦茶冷静に慎重に歌っているように見えてしまうのは私だけだろうか?
ポルタメントも全然使わないし、
素晴らしい声で一部分を除いてほぼ理想的と言える感じなのですが、
その一部分が肝心のパッサッジョ部分、五線の上のFの音。
なんども繰り返されるFーーーーG・A・B・CーーーーFの音形の最後の音がそれなのですが、ここが息が続かないかのようにぷっつり切れてしまって不自然に聴こえたり、
ちょっと喉に引っかかる感じになったりと、明らかに他の音とは違って歌い難そう。
これほどの声も技術もある歌手でもこうなってしまうのか。と思うと、歌をやってる身としては変に安心するような気もするのですが、まぁ、それくらい高音が出ても、その手前の音というのは苦労するものなのだと改めて実感しました。
ソプラノ Veronika Dzhioeva
重唱になると、ガンチの言葉の飛び方、無駄な力の入っていない高音など、その完成度が際立ちますね。
一方のソプラノ、Dzhioevaが無駄に太い声で何言ってるかわからない上に、高音は横に開き気味、低音では詰り気味とガンチの声とは真逆。実力差は歴然。
こういう比較になると、明らかに発声が根本的に二人は違うということがわかりますし、Dzhioevaの歌い方をいくら突き詰めてもガンチのような方向にはいかないのです。
こうなってくると、ユニゾンで歌った時に、音程は会っていても同じ音を歌っているように聴こえないという現象が起こってきて、ガンチの響きが高くて真っすぐ、Dzhioevaは平べったく揺れているのでピッタリ振動日が1:2、完全8度になる訳はないということですね。
こんな感じで、ガンチがイタリアオペラの、特にヴェルディの悲劇を歌うのに如何に適しているかが伝わったかと思いますが、
そうであればある程に、このテノールが新国のドン・カルロをキャンセルしたのが残念極まりない・・・。
一応ピンカートンで来日予定で、蝶々さんは中村恵理氏とのことなのですが、
う~んこりゃ中村氏、重唱で完全もっていかれてしまうのではないか?
という不安とも期待とも表現しようのない感じです。
これだけ立派なリリコスピントはそうそういないので、イタリアオペラファンは聞き逃せないですね。
[…] 新国のドン・カルロとして来日予定だったLuciano Ganciは理想的なヴェルディ… […]