ある意味タイトル詐欺なドン・ジョヴァンニ!!

今回紹介するのは、演奏会形式のドン・ジョヴァンニなのですが、
なんとタイトルロールのドン・ジョヴァンニが登場しないという何とも不思議な企画。

これを本当のタイトル詐欺と言うのではないかとも思ってしまう訳なのですが、
それを差し引いてもキャストのレベルは高いので聴く価値があると思い、今回取り上げることにしたのですが、中でもツェルリーナ役を歌った、
セメンザート(Giulia Semenzato)は別格とも言える歌唱をしていました。

 

 

 

 

<キャスト>

Julia Kleiter, Sopran (Donna Anna)

Benjamin Bruns, Tenor (Don Ottavio)

Lucy Crowe, Sopran (Donna Elvira)

Ruben Drole, Bariton (Leporello)

Giulia Semenzato, Sopran (Zerlina)

David Steffens, Bass (Il Commendatore, Masetto)

 

全部見る時間のない方は、38分辺りからのツェルリーナの独壇場をご覧頂ければと思います。

こんな深い響があってゆったりした息の流れで歌えるスーブレットソプラノはそうそういないです。

多くの歌手がこの類の役を歌う時、キャラを立てるために発音をはっきりめにして、声が浅くなったり、上体だけで歌っているような、いわゆる頭声だけの声になったりし勝ちなのですが、

セメンザートは常に深い息でありながら決して太くて何を言っているのかわからないような声になることもなく、だからといって硬い声になったり、場違いにドラマティックな強い声になることもない。
確実にモーツァルトのスーブレット役を歌う声で、言葉には快活さを出しながら、アリアでの奔放な表現も聴いていて、どんな歌い回しをするのかワクワクさせてくれる演奏をする。
とても高い技術で歌っているのですが、それが耳につくことはありません。
中低音でも響きを失わないですし、本当に卓越したブレスコントロールで歌える歌手だなと改めて感心させられました。

ドンナ・アンナを歌ったクラターも素晴らしい歌手ではありますが、
セメンザートと比較すると声の硬さが耳につく感は否めません。
そして何より、”e”母音の音質が微妙に横に開いてしまったり、低音と高音で響きの質が完全には統一できておらず、とても素晴らしい歌手なのですが、これでも微妙にまだ喉が上がっているのだと思います。
これはクライターとセメンザートの歌っている時の喉をずっと見ていると分かるのですが、クライターは頻繁に上下に動くことがあるのですが、セメンザートは常にリラックスして開いたままなんですよね。

だからこそ、セメンザートの声は顔の広い範囲の響きを得られて、一方のクライターは鼻~額にかけての狭い範囲しか鳴らないのでしょう。

エルヴィーラを歌ったクロウもクライターと似ているのですが、
クロウの場合は、いかにも古楽を得意とする歌手らしく、ノンヴィブラートで硬さが耳につきます。
声は美しいですが、言葉の発音が飛ばないので、フレージングが感じられずよってレガートでも歌えていない。
低音では響きが潜ってしまうので、クロウは日本人のソプラノによくあるタイプと言えるかもしれません。

 

 

一方男声陣はちょっと残念、
芯のないふわふわした声のオッターヴィオに、同じく線が細く上半身だけで歌っているかのようなレポレッロなど・・・

特にオッターヴィオはやたら遅いテンポでアリアを歌うのに言葉の途中でブレスするし、一般的にブレスをしないで歌う技巧的な部分で何度もブレスをするので、
旋律をとりあえず柔らかく歌えばモーツァルトテノールになるとでも思っているのではないか?と思えて個人的に気に入らない(爆)

 

 

オッターヴィオはヘルデンテノールも歌う役なのだと心得よ!

 

オッターヴィオのアリア ”Il mio tesoro”

 

Gösta Winbergh

 

 

Torsten Kerl

https://www.youtube.com/watch?v=ThG-6IlCPho

 

こんな感じで、とりあえずセメンザートのツェルリーナに心を打たれたので紹介してみました。

 

なお、まだいつになるかはわかりませんが、また近いうちに別のアーティストインタビューをお伝えできそうですのでそちらもお楽しみに!

 

 

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