Marlis Petersenのリサイタルが公開されました!
個人的な印象として、比較的生まれた年が近く、レパートリーも似ていることから、
人気のダムラウ、実力のペーターゼンと位置付けていたのですが、
ほぼ時を同じくしてこの二人がリーダーアーベントをアップしたので比較記事を書こう!
と意気込んでいたのですが、
残念ながら、ダムラウのリサイタルはアップされてすぐに削除されてしまい、
Rシュトラウスの献呈の演奏が辛うじて残っているだけとなっておりました。
なので、多少の比較はしようと思いますが、基本的にはペーターゼンを褒めたたえる記事になります(笑)
Liederabend: Marlis Petersen und Stephan Matthias Lademann
プログラムは動画の説明欄ではなく、別のページにありましたので、
曲目が気になる方はコチラを参照ください。
Damrau Richard Strauss: Zueignung
ペーターゼンが1968年生まれ、
ダムラウが1971年生まれなので、ペーターゼンの方が3年位年上な訳ですが、
声の精錬度では大きな差がついてしまいました。
ダムラウは、ドイツリートだとまだ流石にかつての良さが残っていて、
”a”母音のような開口母音は特に中低音が崩れまくってはいるものの、やっぱり表情というのは大事なものでして、曲を上手く聴かせる、彼女の場合は視覚的にも見せる部分も含まれるかもしれないが、兎に角、声やフォームにガタがきていても、歌を上手くまとめる術を心得てるなぁという演奏をしていることは素直に凄いと思いました。
そして一方のペーターゼンですが、まぁ響きがブレない。
どこを切っても発音が明瞭で、自在のフレージングを聴かせる。
このプログラム
世界が闇に覆われていって、闇からの逃亡、あるいはそれを受け入れるような鬱々とした作品が続き、その後ガラっと雰囲気を変えてフランス物で、ある意味閉ざされた二人の愛の世界が歌われ、最後に救済が訪れる・・・。かと思ったら、夢で終わる。という、曲の構成。
全体的に素晴らしい演奏なのは言うまでもないのですが、
特に54:00~マーラー「原光(Urlicht)」と、
アンコールに歌われたワーグナーの「夢(Träume)」は圧巻でした。
彼女は最後に「あなたの夢を忘れないでください。」
というメッセージと共にアンコールを歌ったのですが、
この曲順は素晴らしいセンス。
いゃ、選曲以上に、彼女の有無を言わせぬ圧倒的な説得力を伴った言葉の力のなせる業かもしれません。
ということで、この2曲の歌詞と訳を記載しますので、是非そちらを見ながら聴いてみてください。
Urlicht
【歌詞】
O Röschen rot!
Der Mensch liegt in größter Not!
Der Mensch liegt in größter Pein!
Je lieber möcht’ ich im Himmel sein,
je lieber möcht’ ich im Himmel sein!
Da kam ich auf einen breiten Weg;
Da kam ein Engelein und wollt’ mich abweisen.
Ach nein,ich ließ mich nicht abweisen,
ach nein,ich ließ mich nicht abweisen!
Ich bin von Gott,und will wieder zu Gott!
Der liebe Gott,der liebe Gott
wird mir ein Lichtchen geben,
wird leuchten mir bis in das ewig selig’ Leben!
【日本語訳】
おお赤いバラよ!
人は大いなる苦難の中にある!
人は大いなる苦痛の中にある!
それなら私はむしろ天国にいたい、
それなら私はむしろ天国にいたいものだと!
そこで私は一本の広い道を進んで行った
すると天使が現われ、私を追い返そうとした
ああ、やめてくれ! 私を拒まないでください
ああ、やめてくれ! 私を拒まないでください!
私は神のもとから来て、神のもとへ帰るのだ!
親愛なる神は 親愛なる神は
私に小さな灯りを下さるだろう
それは私を照らしてくれるのだ 永遠の至福の生へと至るまで!
Träume
【歌詞】
Sag,welch wunderbare Träume
halten meinen Sinn umfangen,
daß sie nicht wie leere Schäume
sind in ödes Nichts vergangen?
Träume,die in jeder Stunde,
jedem Tage schöner blühn,
und mit ihrer Himmelskunde
selig durchs Gemüte ziehn!
Träume,die wie hehre Strahlen
in die Seele sich versenken,
dort ein ewig Bild zu malen:
Allvergessen,Eingedenken!
Träume,wie wenn Frühlingssonne
aus dem Schnee die Blüten küßt,
daß zu nie geahnter Wonne
Sie der neue Tag begrüßt,
daß sie wachsen,daß sie blühen,
träumend spenden ihren Duft,
sanft an deiner Brust verglühen,
und dann sinken in die Gruft.
【日本語訳】
言っておくれ、どんな素晴らしい夢が
私の心を捉えているのかを
そしてそれが空虚な泡のようなものではなく
荒れ果てた虚無の中へと消え去ってしまうことはないのだと?
夢、それはどんなときでも
日々一層美しく花咲く
そしてその天国からの知らせと共に
至福に満ちて心を通り過ぎてゆく!
夢、それは聖なる光のごとく
魂のうちへと沈み込み
永遠のイメージをそこに描き出す
すべての忘却と そして記憶の
夢、それは春の太陽が
雪から現れ出てきた花たちにくちづけするように
思いもかけない喜びに向かって
新しい一日を歓迎する
そして夢は成長し、花開く
夢見つつその香りを振りまき
穏やかにお前の胸で燃えてから
墓の中へと沈んでゆく
ペーターゼンは、有名なシューベルトの魔王も特別です。
昨日アップした、吉田志門さんへのインタビューでも、
彼は子音ではなく、母音の研究に情熱を注いでいた。と仰っていたのですが、
正にペーターゼンの演奏は母音の歌い方の上手さが際立ちます。
例えば合唱団なんかでドイツ物の歌唱について教わると、まず間違えなく重要視されるのは語頭と語尾の子音の扱いなのですが、
ペーターゼンは語尾をそんなに強く発音しません。
これが好ましいのかどうかは難しいところですが、少なくとも彼女の場合はそれで充分説得力のある歌唱ができているといところは注目に値します。
過去にも記事に書いたことがあるのですが、
ディースカウもよく聞いてみると、そこまで子音を強くは出さないですし、
ドイツ物=発声にあまり良くない。というイメージがあるのは、
結局のところ、子音が多い上にそれを強く発音することによって、顎や唇、舌の無駄な緊張に繋がっているからだと考えると、
そもそも、ドイツ語歌唱=子音を強く発音しなければならない。
ということが間違えである。と結論付けた方が良いのではないかと最近考えるようになりました。
こんな感じで、ドイツでも非常に高いレベルの演奏会が行われている訳ですが、
日本に目を向けると、やってることは以下のような感じです。
いしかわ・金沢 風と緑の楽都音楽祭2021 5/3「オペラ・アリア紅白歌合戦」前半戦!
いしかわ・金沢 風と緑の楽都音楽祭2021 5/3「オペラ・アリア紅白歌合戦」後半
https://www.youtube.com/watch?v=jhEMyar4kmg
声を出すという行為は運動なので、
こちらはスポーツイベントか何かだと思えばまぁ許容できるかもしれませんが、
一つ言える確かなことは、
これは芸術と呼べる代物ではないと言うことでしょう。
一応、笛田氏は他の方に比べればやっぱり飛び抜けた感じはあるし、竹多倫子氏も、他の方に比べれば上手いかもしれませんが、
彼女は、大学院生の時の声を知ってるだけに、学生の時の方が上手かった?と思えてしまうのでした。
てことで、ペーターゼンの凄さがより伝わったのではないかと思います!
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