今年のバイロイトがつまらな過ぎて過去の名演へ現実逃避します!

本来この時期は、バイロイト音楽祭の録音がYOUTUBE上にアップされたら評論を書いたりしていくところなのですが、今年のバイロイトは話題性もなければ特に惹かれるポイントもないのが現状です。

その最たる要因は、
タンホイザーとパルシファルをステファン・グールド
ジークムントとヴァルターをクラウス フローリアン・フォークト
という個人的に苦手な歌手が2役づつを務めているところが大きいのですが・・・。
テッシトゥーラの低い役(ドミンゴが最後までテノールとして歌えた役)ジークムントに、細くてテッシトゥーラが高いフォークトを配役するという地点で私には理解不能です。
これがワーグナー演奏の最前線なのだとしたら呆れる他ありません。

一応録音や映像が上がっているものを以下に紹介します。
※内容が内容だけにいつ削除されても不思議ではありませんので、リンクが消えていてもご了承ください。

 

 

 

 

さまよえるオランダ人

<キャスト>
Der Holländer – John Lundgren
Daland – Georg Zeppenfeld
Senta – Asmik Grigorian
Erik – Eric Cutler
Mary – Marina Prudenskaya
Der Steuermann – Attilio Glaser

 

ルンドグレンの声の詰りが酷くて、全然高音が抜けないので、オランダ人のモノローグで聴くのを辞めました。

しかも、来年からの指環チクルスでヴォータンを歌うことが決定した。
こうなると来年以降もあまり期待できないのか・・・。

 

 

ニュルンベルクのマイスタージンガー

 

<キャスト>
Hans Sachs – Michael Volle
Walther von Stolzing – Klaus Florian Vogt
Sixtus Beckmesser – Bo Skovhus
※日によって、Johannes Martin Kränzleが歌っていますが、この録音はスコウフス
Veit Pogner – Georg Zeppenfeld
Eva – Camilla Nylund
David – Daniel Behle

 

ミヒャエル フォッレは比較的好きな歌手ですが、ザックスよりベックメッサーが合う芸達者なバリトン歌手ですし、何よりフォークト・・・もういいでしょ。
ってことで、ザックスとヴァルターが歌合戦の訓練をしてる場面だけ聴いて、予想通りだったのでそれ以外は聴いてません。
ニュルントのエーファは絶対上手だろうことは想像できますが、そこだけ良くても全部聴く気にはなりません。

 

 

 

タンホイザー

<キャスト>
Tannhäuser – Stephen Gould
Wolfram von Eschenbach – Markus Eiche
Elisabeth – Lise Davidsen
Venus – Ekaterina Gubanova
Landgraf Hermann – Günther Groissböck

 

リーゼ・ダヴィドセンのエリーザベトの祈りは、全体的に硬さがあって低音がやや詰り気味ではありますが、透明感のある硬質な美声は役にハマっているので悪くありませんし、
アイヒェのヴォルフラムもワーグナー歌手と言えるような迫力はないものの、端正で清潔感のある声や歌い回しから、役に相応しい良い演奏と言えると思います。

でも肝心なタイトルロールが・・・
グールドは声を聴いてるだけでこっちの喉が痛くなるので受け付けられません。
なぜこんな不健康な声で歌い続けられるのか不思議。

 

こんな感じで、今年のバイロイトを聴いてると逆にストレスが溜まってきてしまって、
隠れた過去の名演を掘り出して聴きたい気分になった訳です。

そこで本日紹介するのが、1971年、ホルスト・シュタイン指揮の神々の黄昏です。

<キャスト>
Siegfried – Jean Cox
Brünnhilde – Catarina Ligendza
Hagen – Karl Ridderbusch
Gunther – Franz Mazura
Gutrune – Janis Martin
Waltraute – Anna Reynolds
Alberich – Gustav Neidlinger
Woglinde – Elizabeth Volkman
Wellgunde – Inger Paustian
Floßhilde – Sylvia Anderson
First Norn – Marga Höffgen
Second Norn – Anna Reynolds
Third Norn – Wendy Fine

 

ジーン・コックスは、プッチーニやヴェルディの重い役を歌える歌唱法でこそワーグナーは歌われるべきだ。という主張をされている方で、実に開放的で強い声を持った、ヴィントガッセンとは逆のタイプのヘルデンテノールと言えるでしょう。

そしてブリュンヒルデを歌っているリゲンツァは、クライバーファンなら海賊版のトリスタンの演奏でイゾルデを歌っていることで有名な歌手かもしれません。

カルロス・クライバーが行ったDG(ドイツ グラモフォン)へのトリスタンの正規録音では、イゾルデに本来の持ち役とはしていないマーガレット プライスを起用してしまっているため、海賊版の方がキャストが良いということで一部では有名なのですが、
このリゲンツァも、同じスウェーデン出身のニルソンの影に隠れた名ソプラノでして、改めてこの演奏の初っ端、ジークフリートのラインへの旅でこの2人による圧巻の演奏が聴けます。

そして、このオペラでブリュンヒルデの次に重要と思われるハーゲンを歌うのが、ドイツ(オーストリア人ですが)でも最高のバス歌手の一人と私が考えているリッダーブッシュ。
彼の伸びやかな響きを聴いていると、如何に現代の低声歌手の多くが、圧力で無理やり喉を鳴らすように歌ってるかがわかります。

ツェッペンフェルトも、グロイスベックも良いバスだと思いますが、
ナイトリンガーとリッダーブッシュが比較の対象となると、彼等2人がどれほど凄かったかを印象ずける引き立て役になってしまうのは仕方ないですね。

 

 

 

Günther Groissböck

 

 

 

 

Georg Zeppenfeld

 

 

 

 

Gustav Neidlinger

 

 

 

 

Karl Ridderbusch

 

リッダーブッシュの歌唱を聴けば、ドイツ語だから硬い発声になるというのではなく、
間違って強い声を鳴らそうとしてる歌手がただ沢山いるだけであるということが分かります。
バス歌手は生まれ持って自然に低音が鳴る楽器を持って生まれた人がやるべき特別な声種であり、バリバリと頑張って喉を鳴らすものではない。

それにしても、リッダーブッシュのハーゲンは驚いた。
正直、オペレッタやオックス男爵なんかを柔らかい声で歌っている印象しかなかったので、黒い声が求められるハーゲンには合わないのではないかとも思っていましたが、とんでもない。

悪役らしい声とまでは流石にいきませんし、ハーゲンにしては歌い回しに品格があるのは否めませんが立派な歌唱であることは疑いようがありません。
二幕は作業が手につかず、ほぼ聞き入っていました。
二幕フィナーレの復讐の三重唱は、ワーグナー作品の中でもイタリアオペラ的な重唱と言われることもあるのですが、声の共演を堪能させてくれます。

唯一この演奏で穴があるとすれば、三幕の冒頭、ラインの乙女達の重唱。
これがどうも美しくハモらない。ユニゾンになっても音が合ってないように聴こえる。
高音でことごとく硬いので、一番上を歌ってる歌手の問題が大きそうな気がしますが、他もどうかなぁ。ここだけ他と比べて著しく演奏の質が落ちる気がしましたが、その後はブリュンヒルデの自己犠牲まで息をつかせぬ演奏。

葬送行進曲までのコックスの歌唱はノビのある高音を存分に聴かせてくれるが決して誇張はしない。改めて理想的なジークフリートだなぁと思いました。

そこまで目立たないながらも、この年がバイロイト初出演だったグンター役のFranz Mazuraも、後にヴォータンを歌う歌手だけあって立派なもの。

そして最後はリゲンツァが全部持っていきます。
全然誇張表現をせず、高音でも絶叫せず、兎に角堅実で、間の取り方が上手い。
ブリュンヒルデはメゾ上がりの太い声の人と、ニルソンやリゲンツァのように、完全にハイソプラノの声でありながら硬質で強靭な響きを持ったタイプがいますが、私の好みとしては、中低音を太く出さず、高音が楽に強く出せるリゲンツァのようなタイプです。

ホルスト・シュタインはそこまでドラマティックな演奏をするイメージはなかったのですが、現代の演奏から比べるとやっぱりこっちが望むところでしっかり山を作ってくれると言うか、どうしても身体がワーグナーの音楽に求めずにはいられないカタルシスを提供してくれると言いますか、

ほぼ丸一日これ聴いて今日という日が終わった気がしますが後悔はしてません。
通常だと、おいしい所だけ飛ばして聴いたりもするのですが、この演奏は全部通して聴かずにはいられない、そんな凄みがありました。
こういう録音に出会うと、録音が残っていることに感謝の言葉しかありません。

 

因みに、コックスとグールドの歌唱を比較すると以下のような感じです。

 

Jean COX(ドイツ語によるオテッロ)

理想的な発声だな~と感服します。
こんな楽々力強い高音が明るく響くなんて、驚きしかない。
昔の米国人歌手は本当に素晴らしい発声技術を持った歌手が多いです。

それが現代はどうでしょう?
コックスとグールドとを比較すれば、根本的に歌い方が違うことは明確にわかるでしょう。
勿論今でも米国人歌手にもパワーで押さず、技術で歌える歌手はいますけど、売れてる歌手には力で押す人が多い気がしてなりません。

 

 

 

Stephen Gould

 

 

 

主役以外にも優れた歌手がいて、
ヴァルトラウテと第二のノルンを歌っているメゾのレイノルズも大変素晴らしい歌手で、
メゾとしての響きの深さがありながらも、そこらのソプラノよりよっぽど繊細で透明感のあるピアノの表現をすることができる大変優れた技術を持っています。

 

 

 

Anna Reynolds

 

 

 

こんな感じ、今年のバイロイトの演奏を一通りカジった後、なんか違うな~と思って、過去の演奏から発掘してみると、やっぱり今年のはダメだ。
となったのでした。

これは決して現在の歌手全般を否定する意味ではなく、あくまで今年のバイロイトに限定しているということは申し上げておきたいと思います。

 

 

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