ウィーン国立歌劇場22-23シーズンのキャストが微妙過ぎる件について

ウィーン国立歌劇場の22-23シーズン情報が公開されたのですが、
そこまで惹かれる演目がないというのが正直な感想でした。

中でも残念なのが、マーラーの『嘆きの歌』と『亡き子を偲ぶ歌』を演奏する、
「VON DER LIEBE TOD DAS KLAGENDE LIED. KINDERTOTENLIEDER」
と釘打った演奏会

 

この演奏会のキャストは以下のような感じです。

Musical Direction Lorenzo Viotti
Production Calixto Bieito
Set Rebecca Ringst
Costume Design Ingo Krügler
Lighting Design Michael Bauer
Assistent Set Design Annett Hunger

Sopran Vera-Lotte Boecker
Alt Tanja Ariane Baumgartner
Tenor Daniel Jenz
Bariton Florian Boesch

演出を付けて歌曲をやるということは、バックに映像を流すのでしょうか?
4人のソリストをどのように割り振って歌わせるのかは興味のあるところではありますが、Florian Boesch以外の歌手が一流劇場で歌うにはあまりに残念な感じです。

 

 

 

Vera-Lotte Boecker

響きではなく声で歌っているので、響きが全部落ちて喉越えになっています。
オペレッタだからこのような歌い方をしているのでは?
とも思いましたが、それはカルメンのミカエラを歌っても同じことでした。

 

 

 

ミカエラのアリアを歌って、ここまでノンレガートで歌う歌手は珍しいです。
絶対にレガートなどするものか!という強い意志を感じる歌唱です。
このセンスは私には理解できない。
このように一つ一つ音を切って音と音の間に空白を作るのが流行の最先端なのでしょうか?

 

 

 

Tanja Ariane Baumgartner

 

暗い音色で、確かにアルトの声なのですが、その太さと暗さとは逆に低音の響きは細くて貧弱。
常に喉を締めて歌っているような感じで言葉も全然飛ばない。
勿論レガートもできてない。
持っている声が良いので上手そうに聴こえるのですが、全然上手くない💣
普通の演奏会で歌うのであれば全然良いのですが、如何せんウィーン国立歌劇場でのマーラー演奏であるのだから、世界でもトップクラスのリートを得意とする歌手をキャスティングする責任があるはずです。

 

 

少なくとも英国ならSarah Connollyのような歌手を起用するだろう

一流劇場であれば、このレベルの歌手を選ばねばならない。と私は思うのです。
録音状況が違うとは言え、この演奏もライヴである。

 

 

 

Daniel Jenz

生声っぽい中音域、喉が完全に上がっている高音
全くレガートができていないフレージング能力のなさ
とりあえず子音を強く飛ばせば言葉が飛ばせていると勘違いしているのではないかと思わされる酷い演奏。
このようなテノールをマーラーのリートに起用するのは信じがたい。

 

 

Florian Boesch

この人はコンサート歌手としてスペシャリストなので、上記三人と比較すると一人だけ次元が違います。
全くレガートで歌えない三人に一人だけちゃんと歌える歌手が混ざるというのは彼が気の毒だ。

ここまで酷評することないんじゃないか!?
と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、彼等がもし日本で演奏したらいったいチケットの値段が幾らになっているか想像してみてほしい。

こういう二流、三流の歌に、ウィーン国立歌劇場公演というブランド名を与えるにふさわしいかどうか。
品質が保証できなければ一流歌劇場とは言えない。ウィーンで活躍したマーラーの作品の配役なら尚更気を遣うべきでしょう。

 

 

 

 

一方で、
一番キャストが充実していると思った公演は
プーランクのカルメル修道女の対話

Blanche Sabine Devieilhe
Le Chévalier Bernard Richter
Madame de Croissy Michaela Schuster
Madame Lidoine Nicole Car
Mère Marie Eve-Maud Hubeaux
Le Marquis de la Force Michael Kraus
Sœur Constance Maria Nazarova

 

 

Sabine Devieilhe

超絶技巧だけでなく、プーランクの歌曲を歌わせても一流。
やっぱり古楽歌いとして若い頃やってた人は、何歌っても潰しが効くんだなと思う。
最近のフランスの歌手は、才能に頼った歌手ではなく、こういう基礎がしっかりした人が多い印象。

 

 

 

Bernard Richter

リヒターは声が特別良い訳でも声量がある訳でもないのですが、
フォームがしっかりしていて、響きのポイントが安定しているので、
発音が前に飛んでフレージングも自然で聴き易い
声が特別恵まれていなくても上手い歌は歌えるということが、彼を聴いているとわかります。
この人はドイツ人っぽい名前ですが、スイス人です。

 

 

Michaela Schuster

 

マーラーを歌うメゾ、バウムガルトナーとは逆に、ソプラノのような軽い響きでありながら、低音になっても響きが落ちず、フレージングと言葉がしっかり連動した良い歌手ですね。
でもなぜか歌うのはプーランクなんですけど・・・。

こういうキャスティング見てると、ウィーンは自国の作曲家よりフランスの作品に良い歌手を割り振りたいのでしょうか?
と思えてならない。

 

 

 

 

 

他の演目の詳細についてはウィーン国立のHPを参照頂ければと思いますが、
上記以外でも、例えばフィガロの結婚なんかは一番上手い歌手が中国人ソプラノのYing Fangだったりします。

 

フィガロの結婚のキャスト

Graf Almaviva Andrè Schuen
Gräfin Almaviva Hanna-Elisabeth Müller
Susanna Ying Fang
Figaro Peter Kellner
Cherubino Patricia Nolz
Marcellina Stephanie Houtzeel
Don Basilio Josh Lovell
Don Curzio Andrea Giovannini
Don Bartolo Stefan Cerny
Antonio Wolfgang Bankl
Barbarina Miriam Kutrowatz

 

 

Ying Fang

この人は、アジア人歌手の中でも特に私が注目していた歌手で、
三年前に注目歌手としても記事にしていました。

この記事を書いた時と比較すれば明らかに上達しています。
世界でもトップクラスのレッジェーロと言えるレベルにまで到達しているのではないかと思いますし、実際彼女の歌唱に欠点らしい欠点が見当たらない。
個人的には飛ぶ鳥を落とす勢いのPretty YendeよりYing Fangの方が発声的に癖もなく完成された歌手歌手という評価です。

アジア人でもこういう歌が歌えるというのは励みになります。
こういう歌手をちゃんと研究すれば日本のソプラノ勢もレベル上がると思うのですけどね。

 

 

1件のコメント

  • 貧乏オペラファン より:

    最後に取り上げていらっしゃったYing Fangが、早速今夏のOMFオペラで来日するのですね。(松本のサイトではイン・ファン表記)
    このフィガロの結婚は昨年のサンタフェオペラからの借りもので、彼女含めて何人かは同じ歌手が出演するようです。
    彼女を日本で聴ける最初で最後の機会になるかもしれないので楽しみにしています。

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