最近国際声楽コンクールがファイナルや入賞者のガラ・コンサートをアップしてくれるので、
様々な若い歌手を知ることができてとても興味深いのですが、
どこの国のコンクールにどこの国の歌手が多く出ているかというのも注目しているポイントで、
良い意味でも悪い意味でも、中国と韓国の音楽家は、どこのコンクールを見ても絶対出てる印象です、
そして、声楽コンクールにイタリア人が案外少ないし、意外に米国人もあまりいない。
こういう状況を見ていると、国際コンクールを追っかけることで世界の若手の歌手の状況が掴めるかと言われればそれは違うとも思っているのですが、才能のある若手を発見するきっかけには間違えなくなりますので、様々なコンクールを追っています。
さて本題である、エヴァ・マルトン国際声楽コンクールは今回が5回目となる新しいコンクールで、マルトンはハンガリー出身の著名なソプラノ歌手です。
なので開催されるのもハンガリーのブタペストということで、出演している歌手も東側の国が中心となっていました。
Éva Marton international Singing Competition Grand final
<出演>
Rossini: Una voce poco fa – Rosina’s cavatina from Il barbiere di Siviglia
TUZNIK Natália, Hungary Verdi: Tacea la notte placida… Di tale amor – Leonora’s cavatina from Il trovatore
WANG Weilian, China
Bizet: La fleur que tu m’avais jetée – Don José’s aria from Carmen
Guldana ALDADOSSOVA, Kazakhstan
Gounod: Je veux vivre dans le rêve – Juliet’s waltz from Roméo et Juliette
Linsey COPPENS, Belgium
Mozart: Parto, parto, ma tu, ben mio – Sesto’s aria from La Clemenza di
Andrei DANILOV, Russian Federation
Offenbach: Il était une fois à la cour d’Eisenach! – Hoffmann’s aria from Les contes d’Hoffmann
JEONG In-Ho, Republic of Korea,
Verdi: Studia il passo, o mio figlio… Come dal ciel precipita – Banco’s recitative and aria from Macbeth
Dinmukhamed KOSHKINBAYEV, Kazakhstan
Tchaikovsky: Vy mne pisali… Kogda by zhizn domashnim krugom – Onegin’s recitative and aria from Eugene Onegin
Aleksei KULAGIN, Russian Federation
Tchaikovsky: Gaspot’moj, jesli greshen ja – René’s aria f
LEE Seonwoo, Korea, Republic of R. Strauss: Ich bin euer Liebden sehr verbunden – Sophie’s aria from Der Rosenkavalier
MIN Hanbyeol, Republic of Korea
Händel: Tornami a vagheggiar – Morgana’s aria from Alcina
PARK Jihoon, Republic of Korea
Puccini: Che gelida manina! – Rodolfo’s aria from La bohème
気になった歌手だけ取り上げて書いていきます。
まず、最初の出演者
◆チェコのメゾソプラノ Jolana SLAVIKOVA 18:05~
ちょっと詰まった感じで開放感に欠けるところはありますが、技術的にも音楽的にもしっかりした歌唱ができている印象です。
低音は胸に落とした感じの声に近いこともあってか、音色は決して悪くないのですが、ピアノがただ弱い声になってしまってて、響きの芯がないのが勿体ない。
中低音よりむしろ高音の方が声が抜けるので、中低音に強いソプラノという立ち位置の方が将来的に伸びるのではないかなと思ったりしました。
◆ハンガリーのソプラノ TUZNIK Natália 26:30~
トロヴァトーレのアリアを歌うには軽めの声で2はありますが、
中低音も響きが落ちず、声量ではなく繊細なブレスコントールと丁寧な発音で見事な演奏を披露しています。
この人はレガートも質が高く上手いですね。
発声的な欠点が見えない。この人の歌唱は楽器で押し切れない日本人が参照すべき歌唱かもしれません。
ホント上手い。
◆中国のテノール歌手 WANG Weilian 35:20~
最近の中国人テノールはレベル高いですね。
一時期は韓国ばっかりだったのですが、今は中国のテノールの方が良い若手が多い印象です。
歌い回しが独特なので、彼の歌唱には好き嫌いが分かれるかもしれませんが、
技術的には優れていて、どこの音域でも響きのピントがブレないですし、高音も力任せではない。
◆ロシアのテノール Andrei DANILOV 54:25~
前に紹介したWANG Weilianの歌唱と比較すると、こちらは洗練された歌唱で、
シュトラウスの旋律美を生かせるフレージングで歌えている分、私はDANILOVの方が好きなのですが、タンとかが絡んだのか、ちょっと一部声がザラつくところがあるのが気になりました。
高音は良いのですが、もしかすると中低音は響きがあまり乗らないかも・・・この曲ではその辺りが判断できないですが、上手いことは確かですね。
私が気になった歌手は以上です。
エヴァ・マルトンという歌手はパワー系のドラマティックソプラノで個人的にあまり好きではなかったのですが、このコンクールの出演歌手には、そのような声で押し切るような歌手より、むしろ繊細な歌唱をする人の方が多かったのには意外に感じました
Éva Marton
ちなみに一次予選の映像もありました。
私が一番今回気になったソプラノのTUZNIK Natáliaは 2:35:15~
曲目は
Liszt: Oh! quand je dors
Wagner: Dich, teure Halle, grüss’ ich wieder – Elisabeth’s aria from Tannhäuser
ハンガリーの歌手が歌うリストだからということはないと思うのですが、
コンクールの演奏でここまで感動するとは!?
というレベルの大変素晴らしいものになっておりますので、是非聴いてみてください。
浸って頂けるよう、歌詞も転載しておきます。
それにしても、この人は歌っている時の姿勢が崩れないですね。
肩が開いて、感情が入っても変に身体が動くことがない。
ヴァイオリニストでも、やたら感情を身体で表現するように動く奏者より、一流には直立不動で演奏する人の方が多いように見受けられる部分と関連性があると思いますが、身体を効率的に響かせようとしたら、無駄な動きは無い方が良いに決まっていますからね。
以下は、TUZNIK Natáliaが予選で歌ったリストの歌曲「おお!私が眠りにつくときには 」の歌詞になります。
【歌詞】
Oh! quand je dors,viens auprès de ma couche,
comme à Pétrarque apparaissait Laura,
Et qu’en passant ton haleine me touche…
Soudain ma bouche
S’entrouvrira!
Sur mon front morne où peutêtre s’achève
Un songe noir qui trop longtemps dura,
Que ton regard comme un astre se lève…
Soudain mon rêve
Rayonnera!
Puis sur ma lèvre où voltige une flamme,
Éclair d’amour que Dieu même épura,
Pose un baiser,et d’ange deviens femme…
Soudain mon âme
S’éveillera!
【対訳】
おお!私が眠りにつくときには、来ておくれ 私のベッドに
ちょうどペトラルカのもとに現れたラウラのように
そして通りすぎるときには その吐息で私にそっと触れておくれ
すぐにわたしの口に
それは入っていくのだ!
私の憂鬱そうな顔の上、それはたぶん
ずっと続いている暗い夢のせいなのだけれど
そこに星が昇るようなあなたの眼差しが射すならば
すぐに私の夢は
輝きだすのだ!
それから炎と燃え立つ私のくちびるに
神様が清めて下さっている愛のきらめきに
くちづけを与えてくれて、天使よりひとりの女性へと変わるならば
すぐに私の魂は
目覚めるのだ!
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