Laurence Kilsby(ローレンス キルスビー 1998~)は英国のテノール歌手。
元聖歌隊で、まだthe Royal College of Music に在籍中ながら、
Schola Cantorum of Oxford(スコラ・カントルム・オブ・オックスフォード)でソリストを務めたり、
以下のモーツァルト「戴冠ミサ」でソリストを務めたCDも出ているなど、プロとして既に高い評価を獲得している歌手です。
それでは、実際の演奏の方を聴いていきましょう。
こちらの演奏は、2年以上前のものなので、恐らく21歳か22歳の時のものだと思います。
この演奏会では、バロック作品は歌っていませんが、歌唱様式がイタリアオペラをバリバリ歌うようなテノールのものとは全く違い、
オペラアリアを歌っていても、どちらかと言えばリートを歌うような感じのアプローチをしているのが印象的です。
こういう歌唱は良し悪しより好き嫌いが分かれるかもしれませんが、この段階の演奏では、
巧いけどインパクトがない。
楽譜に書かれたことを忠実に再現する能力は高いけど個性が貧しく、ただ書かれた旋律を美しくなぞっているだけとも受け取れる。
勿論それが20歳過ぎのテノールに出来るというだけで大変凄いことなのですが、では10年後にこの演奏がどうなっているかを想像しても、声が圧倒的に魅力的になっているという想像はつかない。
若い歌手は、粗削りでも声に魅力がある歌手の方がどうしても将来性を考えると期待が大きくなってしまう面はあると思います。
しかし、超絶技巧という武器があれば話は別です。
今年のチェスティコンクールで優勝した時の演奏。
ここまでしっかりした技術があれば、多少鼻に掛かる声でも素晴らしいことにはかわりないですね。
歌っている表情を見ても力みが感じられませんし、口のフォームを横に開かず母音の音質も安定していて、ただ技巧がこなせるだけではありません。
同じコンクールからの演奏。
こういう曲だとフレーズの方向性が感じられず、言葉のアクセントや文章の中で重要な言葉にテンションが向かわないことで表情の乏しい歌唱に聴こえなくもないのが課題かもしれません。
ということで、ベルカント物を歌っている時の演奏も見てみましょう。
こういう曲を歌うとパッサッジョ(五線の上のファとソの当たりで声質が変わってます)で喉が上がって鼻に入ってしまっているのがよくわかる。
なので、ロマン派以降のイタリア物には欠かせない輝かしいテノールの高音。所謂アクートにハマらないんだな~。
バロックとロマン派以降の作品で正しい発声が違うとは私は考えていませんが、やっぱりロッシーニ以前のテノールはファルセットで高音を出していたという事実がある以上、様式感という面で、例えばデル・モナコみたいな声でモーツァルトや、それこそチェスティの作品を歌っても素晴らしい演奏にはならないであろうことが想像できるように、キルスビーの歌唱では解放された声とはちょっと違うので、ドニゼッティを歌われてもピンとこない。
ただ彼は、まだ20代であるということを考えれば、いくらでも声は変わっていく可能性がありますし、歳を重ねれば声にも芯ができてくるでしょう。
それが良い方向にいくかは勿論わかりませんが、クンデのように若い時ロッシーニを歌っていたテノールが、50歳になった頃にはヴェルディのオテッロを歌うようになることだってある世界ですから、若い内に確かな技巧をこなせる能力があるというのは間違えなく大きな強みです。
今後彼がどのようなレパートリーを歌っていくかはわかりませんが、
一先ずは古楽のスペシャリストとして、もしかしたらBCJなんかがソリストとして呼んだりするかもしれませんね。
何にしても今後の活躍に注目です。
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