サンフランシスコ オペラの来シーズンキャスト検証

身内に不幸がありまして、とても情報集めて記事を書いている状況ではなかったので、久しぶりの記事更新となってしまいました。

今回は、昨年100周年を迎えたサンフランシスコ・オペラの演目とキャストが発表されたので見て行こうと思います。

 

9月12日 – 10月1日
ヴェルディ《イル・トロヴァトーレ》
[演出]デイヴィッド・マクヴィカー
[指揮]ウンソン・キム
[出演]アルトゥーロ・チャコン=クルス / エンジェル・ブルー / アニタ・ラチヴェリシュヴィリ / ジョルジュ・ペテアン

 

レオノーラ役:Angel Blue

 

 

 

癖のある声ではありますが、ドラマティックな役でも絶叫することなく豊な響きと、確かなディナーミクの技術で歌うことができる希少なソプラノで、
声や技術だけでなく、曲の様式感を的確に捉えて自分の演奏を構築する能力が個人的には特に優れていると感じます。

上の動画ではRシュトラウスのリートとガーシュウィン、プッチーニを見事に歌い分けています。
まだ今ほど有名になる前の2017年に、武蔵野が彼女を呼ぼうとしたことがあったのですが、残念ながらその時は来日できなかったのを思い出しました。
これだけレパートリーが広くて表現力があるので、オペラより演奏会を生で聴いてみたいものです。

 

 

 

アズチェーナ役:Anita Rachvelishvili

 

 

オペラファンには現在を代表するドラマティックメゾとしてお馴染みなので説明は不要かもしれませんが、アイーダのアムネリスやアズチェーナ、カヴァレリアのサントゥッツアを歌わせればまず間違えない。
しかし今回動画を探してみて驚いたのは、トスティの歌曲を歌っている映像があったこと。
図太い胸声の低音を出す一方で、やっぱり軽く薄い、それでいて深い響きでしっかり歌曲を歌える技術があるからこそ、劇的な役を歌い続けても声を維持できるのでしょう。
この辺りが持ってる声だけで歌っている歌手と、技術に裏打ちされた発声で歌っている本物の一流歌手の違いだと思います。

 

 

 

マンリーコ役:Arturo Chacón-Cruz

 

 

 

響きのポジションは悪くないんですが、どこか高音で喉が上がった感じで所謂「喉の開いていない声」なのが気になります。
でも、下の動画は自然で柔らかな発声で、タイプ的にはRobert Dean Smithに似た印象を受けました。
マンリーコを歌うには線が細い声ですが、もっとリリックな役を歌えば良さが出るような気がします。

レパートリーは椿姫のアルフレード~トゥーランドットのカラフまで、リリコ~スピントな役を歌っているようですが、
個人的には,仮面舞踏会のリッカルド役辺りまでであれば聴いてみたいですね。
1977年生まれということで、今が一番声的には充実している年齢だとは思いますが、無理に劇的な歌い方はしていないという面から、今後もしかすると声が太くなって立派なドラマティックテノールになる。という可能性もあるかもしれません。

 

 

 

ルーナ伯爵:George Petean

これまた太い声ながら高音の強さに定評がある現代を代表するヴェルディバリトンのPetean。
このトロヴァトーレのキャストはかなり理想的と言えるかもしれません。

このアリアで最後にB(上のシ♭)を出しているのは、カプッチッリくらいしか知らなかったので、この音をしっかり決められるだけで凄いなぁ。と思ってしまいます。

 

 

演奏としては、響きのポイントが高く、レガートも良質、ディナーミクの抑揚も見事なのですが、どこか短調に聴こえてしまうのは私だけでしょうか?
理由としては、パーツごとの技術は立派なものの、フレージングと言えば良いのか、呼吸のスピード感が同じで、言葉の発音速度に変化が見られないからではないかといのが私の見方です。

 

 

 

10月15日 – 11月1日
ワーグナー《ローエングリン》
[演出]デヴィッド・オールデン
[指揮]ウンソン・キム
[出演]サイモン・オニール / ジュリー・アダムス / ユディット・クタージ / ブライアン・マリガン / クリスティン・ジグムンドソン

 

ローエングリン役:Simon O’Neill

リリックに近い声のヘルデンテノールで、響きの芯が強く発音のポイントが前にあって言葉は良く聴こえるのですが、鼻の響きが強すぎるのと、生声っぽいところが気になります。
こういう発声だと、特にピアノで歌った時に深みがなく、音色に明暗がつけられない。

 

 

 

エルザ役:Julie Adams

完全に喉声ですね。
レガートで歌えていないので、フレージングが全然見えません。

 

 

オルトルート役:Judit Kutasi

発音が奥過ぎるのが気になりますが、深さがありながらも、しっかり響きが上に抜ける高音が出せる。メゾの役でありながらかなり高い音域を必要とするオルトルートを歌うにはピッタリな声だと思います。
問題はやはり発音が奥過ぎることで、ドイツ語だと余計にココが大きな課題になってきます。

 

 

テルラムント役:Brian Mulligan

 

 

 

 

 

いいバスバリトンですねぇ。
ドイツ系の方かと思ったら米国人だそうで、あまり米国人バリトンには聴かない声質かもしれません。
今シーズンのメトにもローエングリンに出演予定があるのですが、その時は伝令という脇役・・・。
因みにテルラムントを歌うのはEvgeny Nikitin。

キャリアを考えればニキーティンがテルラムントを歌うのは仕方ないと思いますが、
Mulliganの響きの質は、常に硬口蓋に張り付いているようで、高音になっても息の圧力で押すことなく細い響きで抜けていくので、輝かしい”i”母音を、喉を押した声にならずに出すことができているという部分を聴いて、決して実力的にMulliganは劣っていないなと思います。

ドイツ物ではやっぱりこの発音のポイントが前にくることがとにかく重要なのが彼の演奏を聴いてもよくわかると思います。
Mulliganは、イタリア物を得意とするPeteanとは違った意味で完成された発声技術を持っていると思います。

 

 

11月19日 – 12月9日
ドニゼッティ《愛の妙薬》
[演出]ダニエル・スレーター
[指揮]ラモン・テバル
[出演]ペネ・パティ / スラヴカ・ザメクニコヴァー / David Bizic / ジョナ・ホスキンス / レナート・ジローラミ

 

 

ネモリーノ役:Pene Pati

 

サモア独立国出身のテノールなのだそうです。
文章で表現するのが難しい声ですね。
弱音のコントロールはしっかりしていますし、歌い回しが丁寧な上に発音も明瞭ということで、決して悪い訳ではないのですが、
如何せん響きが上半身だけで、胸の響きと連動していない。
母音の音質としては、パッサッジョ付近(五線の上のファ辺り)で”a”母音がアペルト気味になり、”o”母音が奥に引っ込む傾向があるので、安定している”i”、”e”母音に寄せられるともっと良くなるのではないかと思います。

 

 

ネモリーノ役:Jonah Hoskins(ダブルキャスト)

ダブルキャストにして、高音に強い若手手テノールを起用してるの良いですね。
こういう完全なレッジェーロの声は上の響きだけでも良いかな。という気になります。
連隊の娘のアリアは、勢いに任せて「とりあえずハイC決めれば良いんでしょ!?」みたいな演奏が散見されますが、Hoskinsはゆったりめなテンポでも余裕をもって歌えていて、どの音域でも母音の質が崩れることがなく、どこを切ってもカラっとした明るい声で歌えていることから、ロッシーニテノールとして大きな劇場で歌うようになる可能性を感じます。

 

 

アディーナ役:Slávka Zámečníková

声は綺麗ですし、高音は抜けるのですが、母音の音質がバラバラで中低音がスカスカ。
アディーナ役は、河井らしい声で音程高いように見えて実際はそこまで高い音を歌う訳ではないので、過剰に演劇的な表現でごまかしそうな気配を感じてしまう。
持っている声は良いだけでに、技術的な課題が多いのが気になってしまう。

 

 

 

ドゥルカマーラ役:Renato Girolami

喜劇を得意とするバス歌手は職人みたいなもので、やっぱりこういう歌手は愛妙には必須ですね。
テノールは変な話、声に恵まれてなくても技術を磨けばそれなりのレベルに到達することは可能だと思うのですが、低声で、しかも言葉を巧に操らないといけない歌手は、まず持っている声が良くないと成立しませんし、楽譜に書かれていない即興性をセンス良く織り交ぜて行く感性が必要なので、Basso Buffo(喜劇的なバス)という声種の第一人者は個人的にとても尊敬していたりします。

 

 

 

ベルコーレ役:David Bizic

 

 

 

 

少々圧力過多な感じはしますが、響きのポジションは良いですね。
ウィリアム・テルとドン・ジョヴァンニのアリアで曲によって発音のポイントもしっかり調整できていますし、低い音域でも詰まることなく芯のある響きで歌えているのは見事です。

 

 

愛の妙薬は男声陣が充実していますね~。
トロヴァトーレは理想に近い充実したキャストですし、
大御所と若手のバランスも良いということで、サンフランシスコのキャスティングは素晴らしいなというのが今回演目とキャストを調べた結論です。

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