丸みのある中低音と繊細な高音を持った若手レッジェーロLiv Redpath

Liv Redpath(リヴ レッドパス)は米国生まれの若手ソプラノ歌手。

ジュリアード音楽院を出てメトで研修を受け、その間にメトにデビューしているというエリート街道を進んでいる歌手で、
2019年に行われた、世界中の若手声楽家が集う新しい声コンクール(NEUE STIMMEN)でセミファイナリストになるなど、いくつものコンクールで入賞。
以後はルチア役を得意としてヨーロッパや米国で活躍しており。202-23シーズンはロサンゼルスを拠点に活動する予定となっています。

レパートリーは、オペラだとバロック作品とベルカント物のイタリアオペラを中心に、コロラトゥーラを駆使するトマのハムレット、Rシュトラウスのナクソス島のアリアドネなどの作品を歌っているようですが、
最近のスケジュールを見ていると、コンサート歌手としての活動の方が多いようで、メサイア、第九のようなお馴染みのものから、ニールセンの交響曲や、ヘンデルのマイナーなオラトリオ作品を歌っていました。

 

 

ヴェルディ リゴレット Caro nome

この演奏が”新しい声”コンクールの演奏なのですが、
なるほど、確かに高音は本当に素晴らしい!
ですが、ある一定より低い音域になると籠った声になってしまうのが、高音が済んでいるが為に余計気になってしう。

 

 

 

マーラー 交響曲第4番 第四楽章(Das himmlische Leben)

リート歌唱としては色々突っ込みたいことがあって、
言葉ごとに子音の長さが十分でないので言葉のアクセントが付かなかったり、母音も保てていないのでレガートが甘く、結局言葉が出て来ない。という状況にはなっているのですが、
声の面ではとても美しく、2019年の演奏から殆ど時間が経っていないと思うのですが、中低音がまろやかで温かみがありながら、高音を歌っている時のポイントから落ちて籠ることがなくなったので、レッジェーロでありながらも、深みのある音色で歌えている。
この成長はとんでもないですね。

 

 

ヘンデル サウル O godlike youth(6:30~9:16)

2022年8月24日にエディンバラで行われた演奏会の映像で、
発音が奥に籠り易い英語でも少々”a”母音で響きが落ちる以外はかなり安定していて、
もはや2019年の演奏とは別人のような中低音の安定感です。
レッジェーロの歌手は、超絶技巧を歌わせれば凄いけど、誰でも歌えるような作品を歌わせると学生?みたいな演奏になってしまう歌手も多々いるなか、レッドパスは中音域でも軽さの中にしっかり密度があって、スカスカになることがないのが良いですね。

この声ならルチアを得意としていることも頷けます。

 

 

 

 

La fille aux cheveux de lin

そしてこの透き通る高音である!
何語を歌っても音色が変わらないのは長所でもあり短所でもあると思うのですが、
色彩感のあるピアノの上に透き通った声というのは本当に相性が良いですね。
なので、テノールである私は絶対ドビュッシーの歌曲なんて歌おうと思えないのですが(笑)

上に、何語を歌っても音色が変わらないのが短所であると書きましたが、
マーラーとヘンデルと、ヴェルディ、そしてこの曲で発音のポイントが全部同じというのはやっぱり個人的には違うかな?と思うところで、
マーラーは確実にもっと前で子音を発音しないといけないし、ヘンデルも恐らくそうだと思います。

 

 

ということで、ドゥヴィエル様のマーラー四番

ドゥヴィエルは低音でも細い響きのままで、発音も真っすぐに通ってくるので、とんでもない技術やなぁ。とあらゆる曲で感嘆してしまう訳ですが、
中低音の音色という面だけで見れば、私はレッドパスの方がマーラーに合っているのではないかなと考えていたりします。

という訳で、レッドパスは声を楽器のように使う分には既に一流レベルにあると思うので、
声としてどう言葉に感情を入れていけるか?という部分が今後の課題になってくると思います。

声質的にも、声量で圧倒するタイプではありませんから、劇的な表現を声だけで実践するのは無理。
一先ずはコロラトゥーラを駆使する役を歌えば技巧と澄んだ美声だけでも聴衆を魅了できる演奏ができるかもしれませんが、コンサート歌手としての活動も両立していくのであれば尚更、この部分は突き詰めていかなければいけないと思います。

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