瑞々しい中低音の響きが美しい若手ソプラノMojca BITENC

Mojca BITENC(モイカ ビテンク)は1989年、スロヴェニア生まれのソプラノ歌手。

このところ様々な劇場が来シーズンの演目とキャストを発表しているのですが、
どうも記事に取り上げたい歌手が中々見つからないなぁ。と思っていた中で、
偶然以下のコンサート映像を見つけて、そこで歌っていたビテンクの声に惹かれました。

 

 

Koncert Mojca BITENC /sopran, Domen KRIŽAJ / bariton, Andreja KOSMAČ

ビテンクについては、昔の歌唱をチェックしていたのですが、かなり上達しているなと感じたので、今回取り上げることにしました。

 

 

2015年の演奏

ヴェルディ 運命の力  Pace, pace mio Dio

声はとても綺麗なのですが、如何せん響きが落ちていてレガートが甘い。
持っている声に対して曲が重いこともあると思うのですが、無理に低音を鳴らそうとしているような感じで、元々持っている声に深みがあるので浅い響きには聴こえないのですが、それでも上半身だけで歌っている感じになっている。

これが、2021年になると大幅に改善されます。

 

 

 

2021年
トスティ Chi sei tu che mi guardi

決して派手な曲ではないのですが、その分ビテンクのフレージング技術が飛躍的に向上したことがわかる演奏だと思います。
まず視覚的にも、歌っている時に喉が殆ど動かなくなった。

舌や下顎に無駄な力が入っていると、どうしてもブレスをして歌い出しのタイミングで喉が上がってしまうので、歌い出す時に喉や肩が動く歌手は余計な力で歌っている可能性が高いと言ってしまっても過言ではありません。

実際ビテンクの声も、力みなく軽く声を出しているようで、響きのポイントは2015年の演奏の時と比較して明らかに高くなっています。

この辺りが声楽学習の難しいところで、高い響きに持って行こうとして、上に意識を持っていくと喉があがって逆に力んでしまい響きが落ちる。
このヴェルディとトスティの演奏の比較は音圧を高めてもノビのある響きは得られず、如何に軽く歌うことが大事かを如実に表した良い例なのではないかと思います。

 

 

ということで、ビテンクが成長著しいことを書いた上で、
冒頭の演奏会(7:50~14:30)
モーツァルト ドン・ジョヴァンニ Crudele … Non mi dir
の演奏が最近聴いた中でも最高の演奏かもしれません。

どこを歌っても音圧を100%で歌うことがなく余裕があって、ピアノの表現でも緊張感が失われない。
後半の技巧的なパッセージも丁寧で、1音1音の粒がしっかり立っている。
高音から低音へ降りてくるような音型でも響きのポジションがブレない。
母音ごとの響きにブレがないためにレガートの質がとても高い。

このように、個人的に上手い演奏に不可欠な要素を全てクリアしている。
録音の音質があまり良くないので一概にこの演奏が古今の名歌手と比較しても優れていると言うつもれはありませんが、とにかくフレージングが的確で、どこに力点があるかが見える演奏になっているので、とても曲の輪郭がはっきりしていて、これは録音音質とは関係なく、音楽作りの面でもビテンクが非常に優れていると言えると思います。
あまりに素晴らしい演奏なので、2回続けて聞き入ってしまいました。

ビテンクはモーツァルト以外の演奏も勿論高いレベルの演奏となっており、
共演しているバリトンの Domen KRIŽAJも中々良い歌手なので、是非聴いてみてください。

 

ビテンクの活動状況を見ていると、スロヴェニアの劇場(Oper Ljubljana)の出演が殆どのようで、ベルギーやドイツで多少の出演歴がある程度のようなので、世界的に活躍しているという訳ではなさそうです。

ですが、これだけ声の面でも、音楽性の面でも優れた歌手であれば、近い内に大きな劇場で歌っても不思議ではないのではないかと思います。

今後の活躍に期待したいところですね。

 

 

 

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