Reinaldo Droz(レイナルド・ドロス)はベネズエラのテノール歌手。
シモン・ボリバル音楽院で学んだ後、2017年に愛の妙薬のネモリーノ役でオペラデビュー。
以降は現在までブルガリアを中心に、ドニゼッティの作品や、ヴェルディのリ椿姫、ゴレット、ファルスタッフなど、軽めなリリックテノールの役を歌っているようです。
ドニゼッティ 『愛の妙薬』 Una furtiva lágrima
こちらが2017年の演奏。
録音状況があまり良くなく、部分的に音程が不安定なところが気になりますが、素直な声で悪い癖が一切なく、個人的に母音の音質のブレがないところに好感が持てます。
それと、一般的にテノールのパッサッジョ(中音域~高音域に抜けていく部分)に該当する、五線の上のファの音の安定感が素晴らしい。
高音が強い歌手でも、この辺りの音域には癖が出ることがあって、このアリアなら特に顕著なのは”a”母音が鼻に入るとかですが、そういうのがなく澄んだ響きで、決して上半身だけの喉声にならず出せているのは立派です。
演奏としては粗削りで、ロマン派のアリアに必要なテンポの揺らしがなく、リズムを刻んだように淡々と演奏されるところには違和感を感じるので、「もっとそこは聴かせて欲しい」と聴衆に欲求不満を与えてしまうところはテノールとしてまだまだかなというのは当然ありますが、デビューがこの演奏ならば決して悪くはないでしょう。
ロッシーニ 『ウィリアム・テル』Asile héréditaire
彼の生年月日がわからないので、デビューが何歳かは不明ですが、
この映像の演奏が2019年ということなので、デビュー2年目のテノールが、この難曲を余裕を持って歌えているところが凄い!
2017年からの進化が半端ないですね。
ロッシーニ作品の中でも劇的な表現が求められるアリアで、
ファルセットではなく、初めて胸声での高音(現在のテノールの鋼のような高音)で歌われたことが文献に残っているのが正にこの作品ということもあって、通常のロッシーニテノールが歌うのとは違うレパートリーになっています。
そんな曲を、力むことなく、軽いながらも中音域~高音まで芯のある響きで歌えている。
今ではすっかり巨匠と言えるような年齢になってきたラモン・ヴァルガスの若い頃に似た声質だなと思いました。
ロッシーニ歌ってた時のヴァルガスは本当に声と技巧のバランスが絶妙で、学生時代にこの演奏を聴いた時は衝撃的でした。
Ramon Vargas
ロッシンー 『絹のはしご』 ”Vedro qual sommo incanto
残念ながら、ドロスの最近の良い音源がないのですが、
一応最近の声が聴ける動画もあったので紹介しておきましょう。
この演奏はいつの演奏か記載がないので不明ですが、
声の感じから最近だと思います。
動画がアップされた年代から2022年下半期と推測。
こちらが今年6月の演奏なので最近のものですね。
音質は決して良くないですが、2017年の演奏から考えると、6年でとてつもなく上手くなっていることは確かで、2019年の演奏でも十分上手いと思ったのですが、レッジェーロではなく、リリコの方向に声が強くなっていて、最近の歌手でいえば、エネア・スカラ、ちょっと古い歌手なら、サルヴァトーレ・フィジケッラのようなタイプになりそうな感じがしてきました。
スカラはシチリアンボイスだけあって無茶苦茶美声なのですが、ちょっと押す癖があることを考えると、ドロスは全く声を押さない分、個人的にはスカラより発声技術的には上なんじゃないかと思います。
SALVATORE FISICHELLA
フィジケッラはテノールオタクの中では有名なのですが、
世間的には実力のわりに評価されてない歌手。。。。
ドロスの最近の良い音源があればぜひ比較jしてみたいのですが、やっぱりフィジケッラと似たものを感じる。
常に柔らかく高い響きで、硬さがないにも関わらず、劇的な表現に欠かせない強い芯のある高音を出すことができる。
こういう発声技術を目の当たりにすると、改めて大事なのは声量ではなく、効率的に息を使って豊かな倍音のある響きを作り出せる技術だなぁと感じます。
今後ドロスがどのようなレパートリーを選ぶんでいくかはわかりませんが、今の発声技術を崩さずに年齢を重ねていけば、世界的にトップクラスのリリックテノールになっても不思議ではないように思いました。
今後の彼の活動には注目ですね。
コメントする