Mariano Buccino(マリアノ ブッチーノ)は1987年、イタリア生まれのバス歌手。
幼少期に少年合唱団に参加しながらピアノを学び、ナポリのサン・ピエトロ・ア・マジェッラ音楽院で歌唱を学びました。
その後、28歳で第53回Voce verdianeでファイナリストに入賞後、
マッシモ劇場、バーリのペトルッツェッリ劇場、ジェノヴァのカルロフェリーチェ劇場などへ出演しています。
主な役柄は、
ドン・ジョヴァンニの騎士長、トゥーランドットのティムール、リゴレトのスパラフチーレなど、まだ大劇場でそこまで大きな役を歌っていないようですが、歌唱については味わいのある今後期待ができる歌唱ではないかと思い今回取り上げました。
ベッリーニ 清教徒 Cinta di fiori
この演奏が2015年なので、コンクールに入賞した時と同じなので、28歳の演奏ということになりますね。
若手のバスで活躍している方を聴くと、ほとんどの場合、持っている声が良いために、声に頼った歌い方をするタイプで、柔らかい響きのバスというのは中々いません。
そういった部分で、彼の演奏はフレージングが滑らかで、バスと言えど、ベルカント物にはこういった歌唱がしっくりくるなと、改めて思わせてくれるものでした。
声の面では、まだ低音が喉声に近い感じになってしまってはいますが、中音域の響きは音圧の負荷がないもので、歳を重ねれば自然に芯がでてきて、より柔と剛を備えた声になりそうな片鱗がみえる気がします。
ヴェルディ アッティラ Mentre gonfiarsi l’anima
この演奏は、恐らく2021年頃のものかと思います。
バスにとっての高音域を力技ではなく、技術で出しているのが好印象で、
線の細さや、ちょっと喉が上がっている感じに聞こえなくもないところなど、まだまだ手放しで称賛できる演奏とは言えないかもしれませんが、30代前半ということを考えれば、この発声の方向性には将来性が見ええるという意味で、私は良い演奏だと思っています。
ヴェルディ シモン・ボッカネグラ Il lacerato spirito
この演奏は恐らく2023年なのですが、
前の演奏と比較すると、発声面で磨きがかかり、
レガートの練度が向上し、響きに深みが出ています。
2年程度でここまで変わるものなのか?と驚くくらい違いは明白で、
録音環境の違いもあるのかもしれませんが、それを差し引いても、音圧を感じさせない柔らかく温かみのある音色は、とても40歳手前の声とは思えない。
それで高音はどうなんだ?
と思う方もいるかもしれませんが、
2022年頃の演奏で、十分バスにとっての高音域でも余裕をもって出せることがわかっています。
ヴェルディ マクベス Come dal ciel precipita
こちらは音質があまり良くないというのもあるのですが、
ブッチーノの良さが出るのは、こういう曲よりは、前に紹介したピアノの表現なのかな?と感じていて、口の開け方をみても、全く余計な力みがない。
ソプラノやテノールのような、非日常的な声を出さないといけない声種と、殆どの音域が誰でも出せるバスが、果たして全く同じ発声技術で成り立つのか?
このブログを始めた当初は、声種と言うよりは、言語や作品の様式感で、曲にあった発声がかわってくるものだと考えで、それは今もかわっていないのですが、
それに加えて、バスという声種は他の声種より繊細なんじゃないか?と思うようになりました。
と言うのも、
高音が上手く出なければ、出せる道を探す訳ですけど、
どんな方法でも出せる音をどう出すか?ということに向き合い続ける場合、やっぱりアプローチは違ってくるのではなかろうか?
ブッチーノの演奏を聴いていて、改めて当たり前に出せる音域を磨くことの重要性を実感させられました。
コメントする