心が洗われるような澄んだ声のソプラノ歌手Fanie Antonelou

Fanie Antonelou(ファニー アントネルー)はギリシャのソプラノ歌手

生年月日やコンクールの受賞年代がプロフィールに書かれていないため、現在の年齢がわからないのですが、本人の動画の更新状況と見た感じから、現在30代くらいかなと思います。

アテネの国際コンクール「マリア・カラス」のオラトリオ/リート部門でグランプリ・マリア・カラスを受賞した後、シュトゥットガルト音楽大学で声楽、オペラを学び、ドイツのトロシンゲン音楽大学で古楽を学んでいます。

シュトゥットガルト国立歌劇場、アテネ・コンサートホール、ホルシュタイン音楽祭、ハレのヘンデル音楽祭といったところ、バロックと古典のオペラやオラトリオを中心に歌っているようです。

 

ベートーヴェン 歌曲

フォルテピアノ伴奏による、ベートーヴェンの歌曲
Mignon Op.75,1
Nur wer die Sehnsucht kennt, WoO 134,4
Wonne der Wehmut Op.83,1

フォルテピアノの軽やかな音でありながらも、必要なところでアタックの効いたタッチと、アントネルーの澄んだ声のバランスが心地よい演奏。

フレージングの推進力には物足りなさを感じるものの、そこを上手く伴奏が補っている印象ですが、だからといってアントネルーの歌唱が棒歌いという訳ではなく、3曲目の「Wonne der Wehmut」なんかは、無駄なことをせず、音形に身を任せてディナーミクをつける。
この単純でありながら、意外とできないことを確実にやっているからこそ真っすぐ聴き手に届く、そんな演奏をしていると思います。

 

 

ウンスク・チン 不思議の国のアリアス Twinkle, Twinkle, Little Star

現代音楽も得意ということで、1961年韓国(ソウル)生まれの作曲家、
チン・ウンスクが2007年に作曲した代表作、「不思議の国のアリアス」の中の1曲がこちらなんですが、これは中毒性ある曲ですね。
一度聴くと、冒頭の旋律が頭の中でリピートされて耳から離れません。
現代音楽とはいってもキャッチーなメロディーなので、もっと再生されても良さそうなんですけど勿体ない。

アントネルーの演奏は、バロックが得意なだけあってリズム感が適格で遅れることも走ることもない。それでいてメトロノームでもない見事なもの。
声の面でも、低音~高音まで音質にバラつきがなく、早口でも発音に乱れがない。
ただただ上手いの一言で、2回続けて聴いてしまった。
もっと演奏会で歌われても良い曲に思えるけど、楽譜の入手が難しそう。

 

 

ヘンデル カンタータ Filli adorata e cara

ドイツ語や英語の作品以上に、イタリア語の曲だと母音に深みがあって、
特に”o”母音は理想的!
それが故に”e”母音でちょっと平たくなるように思えてしまう。

良い演奏には何かしらの矛盾があるというのが個人的な意見で、
アントネルーの場合も、軽やかでヴィブラートの少ない声でありながら、奥行きがあって深みのある響き。

硬口蓋に響きが乗っていながら、上半身だけの響きで歌っているのではなく、
下半身としっかり連動していて、発音は上唇に乗っている。

奥行のある響きを前で発音できる。
この矛盾が上手い歌手にはほぼ絶対あって、アントネルーもその例外ではありません。

今後の課題としては、一般的に言う「喉の開いた声」にしていくこと。
今の段階でも十分素晴らしいのですが、まだ少し喉が上がった感じで硬さがある。
だからフレージングができていて、発音が前でさばけていても、どこか無機質な表現に聴こえてしまう。

ここから喉が開くと、イメージとしては、Véronique Gensのような声になると思う。

 

Véronique Gens

この人、私現役の歌手で最も好きなリリックソプラノだったりするんですが、
CDも多数だしていながらマイナーな古楽作品やベルリオーズ、フランス歌曲といった世間的に大きな注目を集める作品を歌っている訳ではないこともあってか、そこまで歌仲間間でも知名度がないのが哀しい。

ということで、アントネルーはレパートリー的に大きな劇場に今後出まくって、世界的に注目される。
ということはないかもしれませんが、古楽の分野では活躍していきそうなので、もしかしたら、いつかBCJと共演することがあるかもしれませんし、これからどう声が成熟していくのか楽しみにしたいと思います。

 

 

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