Jack Lee(英国)はヘルデンテノールの希望となるか?

最近のコンクールの映像を見ていて
全体的にレベルも演奏解釈も均一化してきて面白みがない。

今年の、新しい声国際コンクール(Neue Stimmen)

全体的にレベルは高いと思うし、技術的にもしっかりした歌手ばかりなのですが、
如何せん面白くない。
どんな風に役を解釈してこのアリアに至ったのか、その役の感情の一つの頂点がアリアな訳ですが、そのアリアに至る動機をカットしてアリアだけ歌う場合、そのカットした前段階を聴衆に暗示する演奏をしなければならない

セビリャの理髪師のフィガロのアリアのように、
フレージングなんて殆ど気にする必要もなく、いい声と立派な高音、そして口が回ればそれなりに上手く聴こえる曲はともかくとして、そうでない曲は、そのディナーミクで歌う理由を聴衆に示さないといけないが、
「一般的にそう演奏されてる(グローバルスタンダード)だから」とか、
楽譜に書いてあるからそう歌う。以上のものが残念ながら伝わってくる演奏が最近本当に少ない。

その一方で、「そうは歌わんやろ?」と突っ込みたくなるような演奏も皆無なので、
今の時代に、デル・モナコと全く同じ声を持ってる歌手が現れても、絶対コンクールは通らないんだろうなぁ。なんて思ってしまう訳です。

 

前置きが長くなってしまいましたが、
そんな中で英国出身のJack Leeというテノールは、
ジェームス・キングや、ジョン・ヴィッカースといった、暗くて深い音色ながら、
声には芯のある希少なタイプでありながら、技術もしっかりしているので特別耳を引いた。ということで今回取り上げようと思います。

 

IVC 2026 FINALS

 

0:38:50~
ベートーヴェン:「オリーヴ山のイエス」 Meine Seele ist erschüttert

2:45:31~
レハール:「ほほえみの国」 Dein ist mein ganzes Herz

 

「オリーヴ山のイエス」というオラトリオはそこまで有名ではないので、
ご存じない方が多いかもしれませんが、このアリアは長いレチタティーヴォの後に歌われるもので、本来は10分近くかかる大曲なので、アリアだけだと物足りなさがあるのが正直なところではありますが、それでも彼の演奏は緊張感を最後まで切らさないもので、オケとのバランスがとれている。

ベートーヴェンのこういう曲の難しさは、器楽的に声が扱われている一方でも、フレージングが音楽の推進力になっていくことで、リズム感がブレず、それでいてメトロノームで縦割りにしたように聴こえてはいけないところだったりしますが、Leeは様式美の中でも発生フォームを崩すことなくオケと調和した演奏ができており、決して派手さはないですが、個人的には大変すばらしい演奏だと思いました。

コンクールだったら、もっと劇的に歌うこともできたと思うんですが、
丁寧な弱音を軸に、常に深い響きを維持して歌っているところいい。
もしかしたら、発音が奥まって聞こえる、という方もいるかもしれませし、そこは否定しませんが、発音のポイントと響きのポジションは別物なので、この辺りは実際に生で聴いてみないと判断が難しいところでもあります。

 

 

一方のレハールは、ピアノ伴奏の音源もあるので、そちらも貼っておきます。

オペレッタだし、ちょっと真面目に歌い過ぎじゃね?
とは思わなくもありませんが、下~上の音までしっかり一本に繋がっているので、
世間一般に言う、胸声、中声、頭声のような声区での音質の変化が全くなくて滑らかなレガートになっているために、フレージングが見える。
ちょっと「i」母音が奥過ぎるかな?と思わないこともありませんし、そこの発音ポイントがもう少し前に出れば、こういった曲でももっと軽やかさが出て良くなるのではないかなと思いましたが、総じて完成度の高い演奏なのではないかと思います。

 

 

ドヴォルザーク「ルサルカ」 Princ, Vim, ze jsi kouzlo…

 

歌っている表情や姿勢がとにかく自然。
ディナーミクもピアノ~フォルテまで同じポジションでコントロールできていて、
これで年を重ねて太くなったら、理想的なヘルデンテノールになるんジャマイカ?
という期待感しかありません。

 

なお、彼のプロフィールを探してみたところ、
2022年頃までバリトン歌手だったようです。

詳細はコチラ参照
バリトンからテノールになって、まだ数年でこの安定感ということは、
声質を考えると理想的なタンホイザーやトリスタンになるのでは?と思えて仕方がない。
英国のテノールは基本的にあまり好きじゃないのですが、時々こういう変わり者が出てくるので面白い。

皆さんは最近のコンクールを聴いてどのような印象を持ちますか?
もしよかったらご意見いただけたら嬉しいです。

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