Alexandra Yangel(アレクサンドラ ヤンゲル)は1992年ロシア生まれのメゾソプラノ歌手。
最初はヴァイオリンを学んでおり、the Moscow State Tchaikovsky Conservatoryをヴァイオリンで卒業した後、歌を始めたのは19歳になってからだそうです。
その後ウィーンへ渡り、現在はウィーン国立歌劇場のメンバーになったばかりで脇役での出演や、カヴァーキャストとして研鑽を積んでいるようですが、来年はアーヘンでウェルテルのシャルロッテを歌う予定があり、今後活躍が期待される歌手の一人です。
正確な年代はわかりませんが、こちらの演奏は2015年頃のものだと思います。
歌の勉強を始めたのが2012年ということなので、実質3年程度の学習でこれ程の歌唱をしていることには驚きます。
吹奏楽器から声楽に転向してスター歌手まで上り詰めた人は多いのですが、弦楽器から声楽に転向して成功する人はあまり聴いたことがありません。
素直な声でありながら深みがあり、低音を無理に鳴らすようなこともしない。
たった3年でこれほど完成された響きを手に入れることが出来るとは、どんな指導を受けてきたのか大変興味深いところです。
2018/5/30
同じ曲の演奏ですが、上が2016年頃、下が2018年5月30日のものです。
上の演奏では、フランス語とは言え、殆どの母音が鼻母音のようになってしまい、
鼻が詰まってるんじゃないか?と思うような声です。
また、冒頭で紹介したチャイコフスキーの演奏で魅力的に響いた中低音の良さが消えてしまい、
高音では響きが浮いたような、鼻から上だけの響きになってしまっています。
これが声楽の難しいところですね。
研鑽を積めば右肩上がりに上達できるなら良いのですが、
どんな才能があってもどこかで伸び悩んだり、つまづいたりするのが常です。
ヤンゲルの演奏を聴く限り、高音や技巧を手に入れるためにフォームを崩してしまった可能性が考えられます。
ですが、2018年の演奏では下半身と連動した響きになり、かなり響きの質が改善しています。
悪い意味でソプラノのような浅い高音だったものが、たった2年でこれほど見違えるような、良い意味でメゾらしい高音になっていることには驚愕します。
技術や表現の面では良い部分が沢山聞かれるのですが、イタリア物を歌うには声が硬過ぎますね。
カッチリした音楽なので、確かに硬さは必要なんですが、響きが鋭くメタリックになってしまうのはあまり好ましくありません。
原因として考えられるのは口の開け方(特に”a”母音)は気になるところですが、それ以上に気になるのは上半身の不自然な揺れでしょうか。
これは今年の演奏でも同じことが言えるので、以下の映像も併せて聴いてみて頂きたいと思います。
ジュリオ・チェーザレは復讐のアリアなので、あれでも表現としては成り立ちますが、ロジーナは違います。
歌っている姿を見ていると、やっぱり上半身の動きが不自然で、どうしても下半身の支えが機能していないように見えるんですよね。
リリックメゾと言われる、テッシトゥーラはメゾでもソプラノのような明るい響きを持っているメゾ(特にロッシーニやイタリア古典のアジリタを得意とするタイプ)にはこういうタイプの声が多いように思うのですが、気のせいでしょうか・・・?
技巧や高音を追い求めるとこういう方向にいってしまうのかもしれませんが、
ほぼ例外なくこのタイプの歌唱をしている歌手は全盛期の声を保っていられる寿命が短く、伸ばしている音にチリメンヴィブラートが掛かっていることが多いです。
それは結局ロングトーンを支えることができないからでしょう。
これは個人的な意見ですが、デュピュイの演奏を再評価して、もっと多くのロッシーニメゾがお手本として欲しいです。
Martine Dupuy
本当のレガートで歌われるアジリタは低音でも地声のようにならず、
高音でも浮いた浅い響きにならず、明るさの中に深さがあり、そして柔らかいのです。
デュピュイについては過去記事で詳しく書いているので、もしお読みでない方はご併せてご参照ください。
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ヤンゲルはこの通り課題も沢山ありますが、
忘れてはならないのは、歌を本格的に初めてから、まだ10年も経っていないということです。
できることが増えれば課題も増えていくのは当然のことで、ロシア歌曲を歌っていれば良くても、ロッシーニに挑戦したら課題が見つかった。
こういったことは誰にでも起こることですから、ヤンゲルはまだレパートリーを模索している段階と考えるのが自然でしょう。
これから自分の声がどんなレパートリーに合うかをしっかり見定めて、本当に良いパフォーマンスができる作品で活躍していって欲しいと思います。
まずは2020年のウェルテルのシャルロッテ役での成功を祈るばかりですね!
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