メトロポリタン歌劇場 20/21シーズンのキャストチェック その①

メトロポリタン歌劇場(Metropolitan Opera)が2020/2021シーズンの公演ラインナップを発表しました。

何回かに分けてメトのキャストをみていきたいと思いますが、

その前に、先日一時代を築いたイタリア人ソプラノ、ミレッラ・フレーニ氏が亡くなってしまいました

一般的にはフレーニ氏=ベルカントと紹介されるのですが、そこについては私は過去の記事でも書いた通り同意はできません。
とは言え素晴らしい歌手であったことは確かであり、多くの現在活躍している歌手達に影響を与えたことも事実です。

今後も彼女の残した多くの録音が名演として語り継がれ、亡くなっても尚多くのファンを獲得していくことになるでしょう。
心よりご冥福をお祈り申し上げます。

 

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●フィオルディリージ役

 

Nicole Car(ニコル カー)

オーストラリアのソプラノ歌手で、
2009年にオペラデビューして以来とんとん拍子で大劇場へ出演し、
今ではメトを始めロンドンやバイエルンで歌っています。

 

 

 

 

 

 

Jennifer Check(ジェニファー チェック)

米国のソプラノ歌手で、2017年にはアイーダ、2018年にはナブッコのアビガイッレを歌うなど、ドラマティックソプラノ路線なのかと思えば、最近はモーツァルト役を多く歌っています。

 

2人とも典型的な英語圏歌手の歌唱といった感じですね。
発音が全部喉の当たりで、前で言葉をさばけておらず、響きではなく声で歌うタイプ。
まだカーの方が響きの高さはありますが、低音域では二人とも顕著に声が詰まってしまう。
こういう声でモーツァルトは歌って欲しくないものですが・・・。

 

 

 

●ドラベッラ役

 

 

Serena Malfi(セレナ マルフィ)

1985年生まれのイタリア人のメゾソプラノ歌手で、
バロック~ベルカント物を得意としています。

 

 

 

 

Carolyn Sproule(キャロリーン スプルール)

 

カナダのメゾソプラノ歌手で昨年、ジョージ ロンドン国際声楽コンクールで優勝したことで話題になった歌手。

 

あれ?
2人とも同じような声ではないでしょうか?
マルフィとスプルールの違いが今ひとつわからないのですが、
スプルールは明らかに作った声で、特にフォルテの表現はどこにも良いところがありません。
マルフィは、非常に硬い声ではありますが、まだ低音を作ったような奥に落ちた声にはしていない分マシです。

 

 

 

●デスピーナ役

 

Heidi Stober(ハイディ ストーバー)

1978年、米国生まれのソプラノ歌手
2008年にドイツでデビューして以来、ドイツ、イタリアオペラのリリコレッジェーロ~リリコの幅広い役で活躍しています。
しかし、YOUTUBE上にあるヘンゼルとグレーテルの断片映像では英語歌唱をしていたので、ドイツ物がどの程度歌えるのかはよくわかりません・・・。

 

今までに紹介してきた歌手の中では一番良いと思います。
少し太めに声を使い過ぎている感じはしますが、それでも響きの質は低音~高音まで密度がありながらも、硬くならず良いバランスだと思います。
以下の2012年にムゼッタを歌った時のものに比べれば、明らかに上手くなっている、

 

 

こちらでは、まだ声に平たさがあり、ディナーミクのコントロールもできておらず、
何より言葉が前で発音できていませんでしたが、上のノリーナではその辺りがかなり改善されています。
コジの女声陣の中で一番上手いのがデスピーナ役というのはちょっと切ない気もしますが、
この比較では明らかにストーバーが抜けている印象です。

 

 

 

●フェッランド役

 

Ben Bliss(ベン ブリス)

米国のテノール歌手
フェッランドやオッターヴィオを得意としていて、メトでもモーツァルト作品ではお馴染みのテノール

 

悪い歌手ではないのですが、響きが抜けきらない印象が強く、
力んだ感じはないものの、鼻声っぽさがあり、どこか凍った印象はぬぐえない。
実はイタリア語よりドイツ語の作品を歌った方が良い響きで歌える歌手なのではないかと思います。

 

ドイツ語でも時々鼻に入りますが、イタリア語よりよっぽど明るく芯のある声だと思うんですよね。
この辺りの言語による響きのポイントの違いをしっかり調整できるようになれば、ブリスはもっと良いテノールになると思います。

 

 

 

●グリエルモ役

 

Luca Pisaroni(ルカ ピサローニ)

1975年、イタリア生まれのバスバリトン歌手で、モーツァルト作品を得意としています。

女声陣に比べれば男声陣は安定していると言えるでしょう。
グリエルモはバリトンが歌う役でありながらも、バスが歌うアルフォンソより低いところを歌ったりするので、ハイバリトンよりはバスバリトンが歌った方が栄える役でもありますから、こういう中低音が自然に無理なく、それでいて厚みがあって暖かい音色で響く歌手が歌うことは理想的と言えるでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

●ドン・アルフォンソ役

 

Gerald Finley(ジェラルド フィンリー)

1960年、カナダ生まれのバスバリトン歌手で、モーツァルト作品で定評があるようですが、幅広いレパートリーで現代作品までこなし、最近は教育者としても積極的に活動しています。

 

素直な歌い回しで、流石はモーツァルト演奏解釈で高い評価を得るだけのことはありますね。
ですが、ピサローニと比較するとやっぱり響きが落ちてるんですよね。
声が無駄に太過ぎて、本来はもっと軽く明るい響きで歌えそうなのですが、まるでバス歌手みたいな声になってしまっています。
ブリスと同じように、ドイツ語の作品での歌唱を聴くと、響きが奥であることがよくわかります。

 

 

母音によってポジションが結構ブレてるのがわかります。
”o”母音は全体的に奥めで、”e”や”a”母音が平べったくなり易く、
響きが全体的に奥なので、早口になると声が飛ばなくなって子音だけになってしまう。
アルフォンソを歌う配役として不足はありませんが、失礼ながら個人的には世間的に評価されている程凄い歌手というイメージはないんですよね。

 

 

 

 

結構真面目にキャストを紹介しようとしたら、1演目でもかなりの容量になってしまいました。
この調子だとパートいくつまでかかるかわかりませんが、ざっと演目と歌手を載せてもあまり記事にする意味がありませんので、今回はいつも以上に念入りに今メトに出ている歌手を解説していこうと思います。

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