ヨーロッパでは、今年1年は演奏会関連のイベントは不可能だと言われているようで、
イタリア、ドイツに住んでる友人達も、やっと買い物や散歩に出歩けるようになった。
と言っているような状況なので、密室で大人数が集まって長時間練習するオーケストラなんかは、本当に世界的に危機的状況にあることは容易に想像がつきます。
このような状況なので、最近の演奏から紹介していくのは限界があるため、
今回は過去の名演奏から紹介しようと思います。
デル・モナコのオテッロの映像と言えば、
NHKイタリア歌劇団で、ゴッビがイヤーゴを歌ったものが有名ですが、
先日、断片的にYOUTUBEにあった、カペッキがイヤーゴを歌っている映像の全曲が公開されていました。
今回の主題はモナコのオテッロではなく、
モナコのオテッロと共演してイヤーゴ役を歌ったバリトンについてです。
カペッキのイヤーゴは、個人的にモナコのオテッロ以上にハマっているのではないかと思えます。
ただ良い声で歌うだけではなく、だからと言って芝居じみた猫なで声を多用するでもなく、
正しいフォームを崩すことなく、動作がなくても声だけで演技ができる歌手がカペッキではないかと思います。
モナコがオテッロ役を歌っている演奏で、イヤーゴを歌っている歌手と言えば、前述のゴッビとプロッティの方がカペッキより知名度が高いかもしれませんが、彼等と比較しても私はカペッキの演奏が一番好きです。
Aldo Protti
録音状況もあると思いますが、
1991年、71歳に歌った演奏の方が、声の焦点がはっきりしていて、
まるでテノールのような声であることには驚きます。
1991年のプロッティの演奏
古い録音だと、籠り気味の声に聴こえることもあるプロッティですが、
この演奏は信じがたい声です。
この人に習ったという日本人声楽家を何人か知っていますが、
聞く話によると、発声では普通にハイCとか出していたそうなので、若い頃はテノールっぽくならないように、わざと被せたバリトンっぽい声を出していたのではとさへ穿った見方をしたくなります。
もしかしたらヌッチのように、本来はテノールの楽器であるところ、若い頃は無理やりバリトンをやっていて、年齢を重ねることによってちょうど良い声になったのではないかとすら思えてしまいます。
Tito Gobbi
これは有名な映像ですね。
ただ、私はゴッビがそこまで優れたヴェルディバリトンだったとはあまり思っていなくて、
大手レコード会社に大量に録音を残しているために有名な歌手。という認識をもっています。
まず、全然レガートで歌えておらず、どこか喉声っぽいような、声に開放感が全くありません。
ただ、響きの焦点だけは整っているので籠ったような声にはなっていませんが、母音の質にはムラがあり、イタリア語特有の明確な母音の響きではありません。
”o”母音が、変に”u”っぽい響きが混ざっていて、こういう癖はゴッビ以外にはあまりみない気がします。
ただゴッビの若い時(33歳)の演奏はちょっと感じが違います。
若い時は、プロッティとは反対にテノールっぽい響きがあって、
まったく被せたような声を出していないのは興味深いです。
Renato Capecchi
冒頭で紹介した全曲から、アリアの部分だけの映像です。
もはやゴッビとは比較にならない完成度です。
まず響きの深さが全然違う。
前に響きを集める。という言い方をする歌手がいますが、
無理に集めようとすると、どうしても喉に負荷がかかってしまうので、ちゃんと下半身が使えていても薄い響きになってしまう、
カペッキの喋っているかのような自然で明確な発音と、柔軟でありながら深く力強い声は圧倒的なブレスコントロール技術によって成し得ているとしか思えません。
本当に凄い!
このように、
黄金時代と呼ばれる戦中~戦後のイタリア人歌手の、
その中でもヴェルディバリトンとして成功した3人の歌手を取り上げただけでも、
全員発声には違いがあって、
正しいヴェルディバリトンの声とか、
正しい歌唱法というものが、とても曖昧で感覚的なものであることがわかると思います。
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