10月18日にライヴ配信された、Teatro Comunale Modena の椿姫がYOUTBEにアップされたので紹介しようと思います。
ヴィオレッタ役は、1994年 カザフスタン生まれのソプラノ、MARIA MUDRYAK、
マリア ムドリャクと読んで良いのか、名前の読み方がよくわかりませんが、
10歳から声楽を始め、スカラ座の少年合唱団⇒ヴェルディ音楽院⇒ザルツブルク音楽祭への出演を得て、2014年にカルロ・フェリーチェ座でオペラデビューという経歴なので、カザフスタン生まれとは言え、声楽は完全にイタリアで学んでいる感じなので、イタリアの歌手と言ってしまっても良いような気がしますね。
一方のアルフレード役のMATTEO LIPPIは1984年、イタリア生まれのテノールで、
今勢いのあるテノール歌手と言っても良いと思います。
Giuseppe Verdi LA TRAVIATA – OPERA LIVE STREAMING
<ROLES>
Violetta Valery: MARIA MUDRYAK
Alfredo Germont: MATTEO LIPPI
Giorgio Germont: ERNESTO PETTI
Flora Bervoix: ANA VICTÓRIA PITTS
Annina: LUCIA PAFFI
Gastone: ANTONIO MANDRILLO
Barone Douphol: DANIEL KIM
Marchese d’Obigny: ALEX MARTINI
Dottore di Grenvil: FRANCESCO LEONE
Giuseppe: ALESSANDRO VANNUCCI
Un domestico / Un commissario: PAOLO MARCHINI
演奏についての感想ですが、
個人的には有名なアリアや重唱が多い前半より、後半の方が歌手のエンジンが掛かっていたように思えました。
特にテノールのリッピは、悪くはないものの前半パっとせず、
鼻気味の響きが目立ったり、”a”母音は前の良いポジションにハマるのに、
何故か高音の”i”母音が奥に引っ込んでしまう・・・不思議だ。
しかし、二幕2場からは一段階声の抜けが良くなったように感じました。
やはり順当に一番この公演でレベルの高い歌唱を聴かせてくれたのは彼でした。
一方、ヴィオレッタを歌ったムドリャクは、若々しい声で、無理にドラマティックな声や表現をせずに、あくまで年相応の華聯なヴィオレッタを演じ続けたことは評価できます。
一方で課題も多く見えましたので、その辺りを細かく解説しようと思います。
まずムヂリャクが克服しなければならない喫緊の課題は発音でしょう。
兎に角唇が使えていないので、発音が殆ど不明瞭で、特に”o”母音は致命的です。
それがわかるのが、終幕のアリア「addio del passato(2:29:15~)」
出だしの「addio」がどう聴いても、「アッディウ」にしか聴こえない。
とにかく”o”母音が全てと言って良いほど”u”母音が崩れたような、
文章で説明するなら”o”と”u”の中間みたいな発音になっている。
勿論、唇に無駄な力が入ってはいけないので、ムドリャクが声のために言葉を犠牲にしているのであろうことは想像がつくが、発音と発声は相反するものではないので、
その辺りは徹底的に研究して改善しなければ、声で聴かせるだけの歌唱しかできない。
そこに比べると、フローラ役のANA VICTÓRIA PITTSは対照的だった。
まさか、こんな脇役でこれほど素晴らしい歌手が起用されていたとは!!
一声聴いてつい調べてしまいました(笑)
ヴェルディ 椿姫 Stride la vampa
ワルデマール・エンリケ・ダ・コスタ・ペレイラ Tambatajá
ANA VICTÓRIA PITTSは1991年、ブラジル生まれのメゾソプラノ
まだ声には硬さがあるものの、持っているモノは深さと暖かみ備えた理想的なメゾソプラノの声!
声質が全く違うとは言え、ムドリャクの常に曖昧な響きの母音とは対照的に、
ヴィクトリア ピッツの発音は母音の色がしっかりしていて、そのお陰で曲の輪郭がはっきりします。
ヴェルディのような一流オペラ作曲家は、母音や子音に対して音域や音型を考えて作曲しているものなので、そこに求められた色の母音がこないとドラマが引き締まらない。
勿論声質も重要なのですが、それ以上に大事なのは音色の方。
ジェルモンを歌ったErnesto Pettiは実に立派な声の持ち主ですね。
ヴェルディ ルイーザ・ミラー Ah! Fu giusto
カバレッタでも最後上に上げているので、Asまで出しています。
太く強い声ですが、彼のテッシトゥーラはかなり高いようで、
低音より高音の方が伸びますね。
今回の椿姫での歌唱の方が声一辺倒の歌唱ではないのですが、
その分、響きのポイントを維持しながらディナーミクをコントロールする技術には改善の余地があり、
高音ではどうしても声を当てると言えば良いのか、まだまだ力技な部分があります。
勿論、素晴らしい声なのでこれでも十分及第点と言えるでしょうが、
完成された発声技術の伴った声とは言えないことは書いておきたいと思います。
因みに、もしペッティの発声技術に磨きがかかった、ヴァッサッロのようになるのではないかと思います。
FRANCO VASSALLO
ヴァッサッロは個人的に現代最高のヴェルディバリトンだと思ってます。
改めて聴くと、ブレスが深く穏やかで、激しい表現でもフォームが全く崩れない。
常に呼吸が安定しているんですよね、ヴァッサッロの歌唱は・・・、本当に上手いです。
こんな感じで、
Teatro Comunale Modenaの椿姫は、有名歌手に頼らずとも、
大変楽しみな若手歌手を揃えて、興味深い公演を行っていたことがわかりましたので、
今回はこの公演について詳しく記事を書かせて頂きました。
徐々に演奏会が開かれるようになったとは言え、
引き続き公演を中止しているところも多く、音楽家、特に声楽家にとっては引き続き大変な状況が続くと思われますが、少しでも有望な若手歌手を応援するためにもこうして紹介していきますので、
皆様からもリクエストがありましたらご連絡頂ければ幸いです。
Regula Mühlemannというソプラノ歌手の解説を
記事にしていただきたいです。
よろしくお願い申し上げます。
Kさん
リクエストありがとうございます。
Mühlemann来日した時聴きに行きましたよ。
では、近い内に記事にします。