今年の冬~春にかけては、またリアルで演奏会に行くのは難しそうなので、
再びライヴストリーミングから紹介することにいたします。
ivestream mit Mojca Bitenc, Domen Križaj und Felice Venanzoni
Domen Križajはスロヴェニアのバリトン歌手
名前の読み方がローマ字通りでよければ(ドーメン クリザーヂ)なのですが、それで合っているのかわかりません。
とりあえずここではドーメンで書くことにいたしますが、
彼はオーストリア、スイス、ドイツを中心に活躍しているバリトン歌手で、
昨年バーゼル劇場のメンバーになったばかりで、来年フランクフルトで主役級の役(ウェルテルのアルベール、エフゲニー・オネーギンのオネーギン)を歌うことになっている、今後の活躍が期待されるバリトン歌手です。
Mojca Bitenc(1989~)も同じくスロヴェニアのソプラノ歌手
読み方は(モイカ ビテンク)で良いのかな?
彼女はスロヴェニアの劇場やブレゲンツ音楽祭への出演、ブリギッテ・ファスベンダーのマスタークラス受講をえて、来シーズンからハンブルク州立歌劇場にドンナ・アンナやパミーナで出演することが決まっている、こちらも注目度の高い若手ソプラノです。
全体の印象をざっと書くより、まず一曲をピックアップして聴いて行こうと思いますが、
個人的に2人の良さが出ていたのは、道化師の重唱だったように思いましたので、そちらを詳しくみてみましょう。
15:25~~25:00
【歌詞】
SILVIO
Nedda!
NEDDA
affrettandosi verso di lui
Silvio! a quest’ora…
che imprudenza!
SILVIO
saltando allegramente e venendo verso di lui
Ah bah!
Sapea ch’io non rischiavo nulla.
Canio e Peppe da lunge a la taverna,
a la taverna ho scorto!…
Ma prudente pe la macchia
a me nota qui ne venni.
NEDDA
E ancora un poco
in Tonio t’imbattevi!
SILVIO
ridendo
Oh! Tonio il gobbo!
NEDDA
Il gobbo è da temersi!
M’ama… Ora qui mel disse…
e nel bestial delirio suo,
baci chiedendo,
ardia correr su me!
SILVIO
Per Dio!
NEDDA
Ma con la frusta
del cane immondo
la foga calmai!
SILVIO
E fra quest’ansie in eterno vivrai?!
Nedda! Nedda!
Decidi il mio destin,
Nedda! Nedda, rimani!
Tu il sai, la festa ha fin
e parte ognun domani.
Nedda! Nedda!
E quando tu di qui sarai partita,
che addiverrà di me…
della mia vita?!
NEDDA
commossa
Silvio!
SILVIO
Nedda, Nedda, rispondimi:
s’è ver che Canio non amasti mai,
S’è ver che t’è in odio
il ramingar e’l mestier che tu fai,
se l’immenso amor tuo
una fola non è
questa notte partiam!
fuggi, fuggi con me!
NEDDA
Non mi tentar!
Vuoi tu perder la vita mia?
Taci Silvio, non più…
È deliro, è follìa!
Io mi confido a te,
a te cui diedi il cor!
Non abusar di me,
del mio febbrile amor!
Non mi tentar! Non mi tentar!
Pietà di me! Non mi tentar, non mi tentar!
Non mi tentar!
E poi… Chissà!… meglio è partir.
Sta il destin contro noi,
è vano il nostro dir!
Eppure dal mio cor
strapparti non poss’io,
vivrò sol de l’amor
ch’hai destato al cor mio!
SILVIO
Ah! Nedda! fuggiam!
NEDDA
Ah! Non mi tentar! etc.
SILVIO
Nedda rimani!…
Che mai sarà per me
quando sarai partita?
Riman! Nedda! Fuggiam!
Deh vien! etc.
SILVIO
No, più non m’ami!
NEDDA
Che!
SILVIO
Più non m’ami!
NEDDA
Sì, t’amo! t’amo!
SILVIO
E parti domattina?
amorosamente, cercando ammaliarla
E allor perché, di’, tu m’hai stregato
se vuoi lasciarmi senza pietà?!
Quel bacio tuo perché me l’hai dato
fra spasmi ardenti di voluttà?!
Se tu scordasti l’ore fugaci,
io non lo posso, e voglio ancor,
que’ spasmi ardenti, que’ caldi baci,
che tanta febbre m’han messo in cor!
NEDDA
vinta e smarrita
Nulla scordai… sconvolta e turbata
m’ha questo amor che ne’l guardo ti villa!
Viver voglio a te avvinta, affascinata,
una vita d’amor calma e tranquilla!
A te mi dono; su me solo impera.
Ed io ti prendo e m’abbandono intera!
Tutto scordiam!
Negli occhi mi guarda!
Baciami, baciami!
Tutto scordiamo!
SILVIO
Tutto scordiam!
Ti guardo, ti bacio!
stringendola fra le braccia
Verrai?
NEDDA
Si… Baciami!
Si, mi guarda e mi bacia!
T’amo, t’amo.
SILVIO
Si, ti guardo e ti bacio!
T’amo, t’amo.
【日本語訳】
【シルヴィオ】
小声で呼びかける)
ネッダ!
【ネッダ】
(彼に向かって急いで)
シルヴィオ!こんな時に…
なんて向こう見ずなの!
【シルヴィオ】
(喜んでジャンプして彼女に向かって)
おいおい!
俺は何も危険にさらしていないって知っていたぜ
カニオとペッペを遠くから居酒屋にいるのを
居酒屋にいるのを見てきたからな!…
それでもなお慎重に この茂み
俺の良く知ってる裏道を選んで来たんだぜ
【ネッダ】
でももう少しで
トニオと鉢合わせするところだったのよ!
【シルヴィオ】
(笑って)
ああ!トニオか あのせむしの!
【ネッダ】
あのせむしには用心しなくちゃ!
あいつ あたしを愛しているのよ…今ここで言い寄ってきて…
野蛮な情熱で
キスを求めてきたのよ
あたしに飛びついてきて!
【シルヴィオ】
何だって!
【ネッダ】
だけど鞭で
あの汚れた犬の
怒りを鎮めてやったわ!
【シルヴィオ】
でも こんな不安の中でずっと暮らして行くのかい!
ネッダ!ネッダ!
俺の運命を決めてくれよ
ネッダ!ネッダ、ここにいてくれ!
知ってる通り 今は祭りがあるけど
明日にはみんな出発してしまうじゃないか
ネッダ!ネッダ!
そして お前はここから去ってしまったら
俺はどうなるんだ…
俺の人生は!
【ネッダ】
(感動して)
シルヴィオ!
【シルヴィオ】
ネッダ、ネッダ、答えてくれよ
もし本当なら カニオを一度も愛したことがないというのが
もし本当なら 嫌いだというのが
さすらいの旅が この仕事が
もしお前の限りない愛が
嘘でないのなら
今夜逃げよう!
駆け落ちしよう 俺と一緒に!
【ネッダ】
あたしを誘惑しないで!
あたしの人生を破滅させるつもりなの?
言わないで シルヴィオ これ以上は…
それは妄想よ 狂ってるわ!
あたし あんたを信頼してるのよ
あたしの心をあげたあんたを!
あたしに付け込まないで
あたしの情熱的な愛に!
あたしを誘惑しないで!あたしを誘惑しないで! 憐れんで頂戴!あたしを誘惑しないで!あたしを誘惑しないで!
あたしを誘惑しないで!
だって…誰が分かるの!…出発した方がいいのよ
運命はあたしたちに逆らっているわ
あたしたちの言ってることは間違いなのよ!
それでもあたしの心から
あんたを奪い去ることはできないわ
あたしはこの愛だけに生きていくわ
あんたがあたしの心に惹き起こしたこの愛に!
【シルヴィオ】
ああ!ネッダ!一緒に逃げよう!
【ネッダ】
ああ!あたしを誘惑しないで!...
【シルヴィオ】
ネッダ 待ってくれ!…
俺はどうなるんだ
あんたが行ってしまったら?
待ってくれ!ネッダ!一緒に逃げよう!
さあ 行こう!...
【シルヴィオ】
もう俺を愛してないんだな!
【ネッダ】
何ですって!
【シルヴィオ】
もう俺を愛してないんだな!
【ネッダ】
いいえ 愛してるわ 愛してるわよ!
【シルヴィオ】
でも明朝 出発するんだろ?
(愛情を込めて 何とか惹きつけようと)
だったらなぜ お前は俺を魅了したのさ
容赦なく俺を置いていくつもりだったのなら!
なぜお前は俺にくれたのさ お前のくちづけを
喜びの燃えたつ快楽の中で!
お前にはあの一瞬を忘れることができても
俺にはできないのさ 俺はまだ求めてる
あの燃えるときめきを あの熱いキスを
これほどの情熱を俺の心に燃え立たせたんだからな!
【ネッダ】
(とうとう折れて 当惑して)
何も忘れてはいないわ…あたしを掻き立て 揺り動かしたのよ
あんたの眼差しの中できらめいてるこの愛がね!
あんたと生きていきたいわ 魅了され 虜にされて
平和で静かな愛に満ちた人生を!
あんたにあたしをあげる だからあたしを受け取って
あたしもあんたを受け取って この身をすべて捧げるわ!
すべてを忘れて!
あたしの目を見て!
あたしにキスを あたしにキスして!
すべてを忘れて!
【シルヴィオ】
すべてを忘れて!
お前を見つめ お前にキスしよう!
(彼女を腕の中に抱きしめて)
来てくれるかい?
【ネッダ】
ええ…キスして!
そうよ あたしを見つめて あたしにキスして!
あんたを愛してる あんたを愛してるのよ
【シルヴィオ】
そうさ 俺はお前を見つめ お前にキスするのさ!
お前を愛してる お前を愛してるぜ
重唱なので歌詞と対訳が長くなってしまいましたが、
この会話のやりとりが分かると、何とも2人の歌唱がハマってて、より良い演奏であることが分かると思います。
特にシルヴィオを歌っているバリトンのドーメンは、持っている声は重量感がありながらも、低音より高音の方が得意なのか、熱が入っても暴走することなく、安定感のある歌唱を聴かせています。
最初に歌ったドン・ジョヴァンニのシャンパンの歌では、歌唱に余裕が感じられず、
ただ良い声で頑張って早口やってます。という以上の演奏にはなっていなかったのですが、こちらは全く見違えるような出来ですね。
こういう部分からわかるのは、声で歌っているか、言葉で歌っているか、という部分で、リズムを揺らすことのできないモーツァルトのような古典作品、特にシャンパンの歌みたいな曲は、ただ声が良いだけでは表現が付かないのですが、
ヴェリズモ作品は伴奏が空気を作ってくれるので、そこに上手く乗ることができれば、声のある歌手は上手く聴こえるという仕組みになっています。
勿論伴奏者の手腕にも左右されるところではあり、縦割りのメトロノーム伴奏をこういう曲でやられたら歌手も上手く歌いようがない訳ですが、ピアノのFelice Venanzoniが実に軽いタッチながらも、左手の音に右手の高音域が常に乗っかっているかのようなバランスで、とにかく右手の音が硬くなったり飛び出たりすることなく上手く音楽に溶ける。
イタリア人の伴奏者は、リート伴奏者のように知名度が上がることはあまりないかもしれませんが、やっぱりオペラの伴奏は職人技です。
16:50~
「E fra quest’ansie in eterno vivrai?!」
とシルヴィオが歌い出す手前での音楽の変化が実に自然で、
ドーメンは特に歌い方を変えている訳ではないのですが、急に色気が出てくる。
オーケストラ版ですが、若き日のネトレプコとホロストフスキーがご存命の時に、テミルカーノフ指揮でこれを歌っている映像がありました。
ちょうど2:00~がこの場面なのですが、ずっとホロストフスキーのターンって感じで、オケは伴奏以上の効果が出ていません。
それに比べればやっぱりムーティは上手いです
1:15~
バリトンのスパニョーリが微妙ではありますが、オケだけ聴いて頂ければ存在感の違いは明らかですね。
話が歌とは違う方へ脱線してしまいましたが、
要するにドーメンがこの曲を上手く歌えているのは伴奏の助けがあってこそということが伝わればと思い、このような比較をいたしました。
ドーメンはある意味ホロストフスキーと似ている気がして、
声は本当に素晴らしいモノを持っているのですが、言葉が奥まってしまって、色がないんですね。
そこに上手い伴奏が入ると色が付くので、音楽ものっぺりしたものではなく、濃淡も見えてくる。
因みに、4年前はかなり違う声でした
ヘンデル メサイア The Trumpet Shall Sound
そして2019年
ヴェルディ ドン・カルロ Son io, mio Carlo … / Per me giunto
2016年は線が細かったものの、響きが前で発音も現在に比べるとかなり明瞭でした、
2019年の演奏では、低音が鳴るようになった変わりにパッサージョ付近と思われる、DやEs辺りの音で声質急に補足変わってしまう。
ここから一年でよくこれだけ響きの質を下から上まで統一させることができたものだと驚くのですが、一方で声の線が太くなった分発音が奥に聴こえる。
この感じでは来年どんな声になっているかすら想像できませんが、
一つ言えることは、リートのような作品を上手く歌えるような歌詞の表現方法を身に着けないと、ただ良い声の歌手で終わってしまう可能性があることでしょうか。
これだけの楽器を持ったバリトンは中々いないので、期待今後の活躍に期待したいですね。
一方のソプラノ、ビテンクですが、
良い意味でも悪い意味でも歌唱が大人びていますね。
声に若々しさがなく、むしろ風格のようなものが漂っているので、ネッダという役によく合います。
ただ発音的に、イタリア語の”c”を、ドイツ語や英語の”k”のように子音が立ってしまうのはよくありません。
彼女もドーメンの時に書いた通り、
やっぱりモーツァルトの演奏では課題が多い。
特に最初の伴奏付きレチタティーヴォは歌い過ぎてレチタティーヴォになっていなおらず、やっぱり声で歌い過ぎている。
一方でアリアに入ると技術の高さを聴かせており、何を言っているかはよくわからないのですが、レガートは中々上手くできている。
勢いで歌うタイプに多いような太めの声質に聴こえて、ピアノの表現や声のコントロールが素晴らしく、二重唱でも一番最後(24:00~)のエロい、じゃなくて、
濡れ場・・・まぁそういう部分ですよね。
の声が本当に色気があって、その上自然なのが素晴らしい。
これくらい弱音で中低音を出しても、とても響く声を持っていて、
そこらのメゾよりよっぽど深みと艶もある。
この声でサティのJe te veuxとか歌われたら、多くの男性陣はドキドキしてしまに違いない。
なお、この方のちょっと古い演奏ではどうなっているかと言うと
Mojca Bitenc – sopran | Recital
恐らく2015年頃の演奏なので26歳位
なんと完成された声を持っているのだろう!
と驚かされますが、その分課題は明白で、兎に角唇と舌を使えておらず、
終始似たような表情で上の前歯を見せて歌っているため、”e”母音や”i”母音に深さが出ない。
こうやって過去の演奏と比較してみると、中低音の響きの深さなんかは随分とよくなったことがわかりますね。
スロヴェニアの方もロシア系の歌手に見られる特徴と似ていて、どこか抜けきらない感じがするのが個人的には気になるところでした。
推測する限り、言葉の飛び方に欠点があることからも舌の使い方の問題な気がするのですが、2人とも若くして大変可能性を秘めた声を持っているだけに注目していきたいと思います。
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