中島 郁子(なかじま いくこ)は日本のメゾソプラノ歌手。
国内外のコンクールで多数の受賞歴を持ち、現在芸大の非常勤講師を務めている中島氏のリサイタル映像がYOUTUBEにアップされましたので、こちらの演奏を聴いていきたいと思います。
中島郁子リサイタル -イタリアの華
こちらの演奏は2020年12月8日にHAKUJUホール行われたもの。
多くの日本人メゾソプラノ歌手が声を押して歌うのに対して、中島氏は無理やり強い声を張り上げるようなことをせず、丁寧な響きを維持して終始歌えているところは素晴らしいですね。
それは音域に関係なく、決してメゾとしては低音が鳴る訳ではありませんが、響きが落ちないからこそ小さい声でも響く。
響きのポジションについては鼻に入る訳でもなく、奥に引っ込むでもなく本当に安定感があって良いとポイントにあると思います。
演奏としては、これは好みの問題もあるのかもしれませんが、
前半のスカルラッティやベッリーニより、
ヴェルディ以降の作品の方が合っているような気がします。
要因としては、伸ばしている声でどうしてもヴィブラートが掛かってしまうので、バロック作品だと特に違和感を感じてしまう上に、全体的にテンポが遅いためにどういった様式感でスカルラッティを演奏したいのかがわからなかった。
これはピアノ伴奏にも言えると思いますが、
ヴェリズモとバロックを同じようなペダリングで伴奏されると違うよなと思う訳で、イタリア人の伴走者なんて、逆にノンペダルか?と思うくらい浅いペダルの人が多い、
その辺りも含めて時代ごとの演奏スタイルにはもっと変化をつけて欲しいと思いました。
言葉に関して
ホールの問題なのか、響きのポイントが前にあるにも関わらず今一つ明瞭さに欠けるのが気になります。
それこそ、ヴェルディのストルネッロで、
イタリア人伴奏者のレジェンド、スカレーラとテノールではありますが、ベルゴンツィの演奏を聴くと全く別物なんですよね。
Carlo Bergonzi テノール
Vincenzo Scalera ピアノ
これは声種の問題だけではなく、中島氏の子音に対する感覚の問題もあるのだと思います。
歌っている姿を見ていると、あまり舌を使っていないように見えるんですよね。
実際、”R”とか”L”のリズムが前に出てこないので、
マルトゥッチのCantava il ruscelloの「ruscello」みたいな言葉がことごとく流れてしまう。
最低限促音のリズム感は出て欲しいところだし、言葉によって”R”の表情も変化をつけてほしい。
母音の音色について
全体的に統一感のある母音で歌えているのですが、
中音域(五線の真ん中のB=D辺り)で特に”e”母音の響きが籠り気味になって音程が下がる。
声楽を習いはじめて最初の方に必ずと言って良いほど勉強する、
ベッリーニのVaga lunaが実は調和のとれたピッチで歌い続けるのが凄く難しい。
ということを思い知らされる結果となっておりまして・・・これを美しく歌える歌手は本当に歌が上手い人なんですわ。
少々厳しめな感想になってしまったような気もしますが、
最後にこのプログラムで個人的に一番素晴らしいなと思った演奏は、
レオンカヴァッロのフランス風セレナータでした。
角のない中島氏の声や表現と音楽がよく合っていたと思います。
後は、最後のレスピーギ 昔の歌に寄せて
こちらは、下手なソプラノ歌手よりよっぽど良いリリックソプラノっぽい声を聴かせていて、この曲だけ聴いたら、私は絶対メゾソプラノではなくソプラノだろ!?
と書いていたことでしょう。
中島氏の歌唱は、低音があまり鳴らないソプラノ歌手にこそ参考になる歌い方だと思います。
低音でも絶対に重くせずに軽いポジションで歌い続ける。
コレは女声に限らず、バリトンやバスでも同じですので本当に大事なことです。
生まれ持って圧倒的に大きな楽器を持っていれば別なのかもしれませんが、先日紹介したチェーザレ シエピのような歌手も、常に軽さ、柔らかさのある低音で歌っていることを考えれば、体格にはあまり恵まれない日本人に合う歌唱スタイルは自ずと決まってきますからね。
コメントする