【評論】 Finals of the 2021 Carolyn Bailey and Dominick Argento Vocal Competition

トライオン株式会社

 

Finals of the 2021 Carolyn Bailey and Dominick Argento Vocal Competition

初めて名前を聞いたコンクールで、どうやら米国の声楽コンクールのようなのですが、

予想に反して、と言っては失礼ですが、かなりレベルが高かった。

 

まさに今年の1月5日にオンライン審査で開催されたようなのですが、
入賞すらしていないウィリアム デビアン(William Desbiens)というバリトンが兎に角素晴らしい。
私なんかはそこらの大劇場で歌ってるヴェルディバリトンよりよっぽど素晴らしいのではないかと思ってしまうし、
同じバリトンで優勝したジェイコブ・シャーフマン(Jacob Scharfman)
よりあらゆる面で優れた歌唱をしていたと思うのだが・・・。
邪推をすれば、sy-フマンが米国人で、デビアンがカナダ人ということがあるが、流石にそんな差別が行われるとは思えないし、デビアンが入選すらしていないことは謎でしかないです。

なおデビアンは最初に歌っていいて、演奏は00:09:20~
優勝したシャーフマンは2:39:23~なので聴き比べて頂きたい。

もしよろしければ皆様の感想なども書いて頂けれると嬉しいです。

 

 

 

 

コチラがこのコンクールのサイト

個人的に驚いたのは、米国人歌手と言えば発音が奥まっていて、
兎に角声量で押すタイプの歌手が多いイメージがありましたが、意外とそうではない歌手も見られて、全体的にポイントを前に取る歌手が多くなってきて、不自然なヴィブラートが掛かる歌手に至っては全然いなかった。

そういう意味で、今活躍している40・50代の米国人歌手とはかわってきたなという印象を持ちました。

とは言え、やっぱり米国らしく大きい声は正義と言わんばかりの歌唱をする人が評価されているのも現実。
ブレイク デンソン(Blake  Denson)みたいな人や、デンソン程ではないにしても、前述のシャーフマンも、最初に歌っていた曲が激しい曲ではなかったとは言え、歌唱スタイルはデンソンとあまり変わらない声を押し出しすように喉を鳴らすタイプで、そういう歌手が評価されていることには残念な気持ちになる。

 

ソプラノでは、マグダレーナ クズマ(Magdalena Kuzma)が良かったですね。
クズマの演奏は1:08:00~
失礼ながら体格がありながら上半身の響きに頼った歌い方をしている部分と、”e”母音が崩れ易いことは改善点かとは思いますが、中々自然で軽やかな高音を出します。

そして中国人のHelen Zhibing1:41:55~
線は細いながらも発音のポイントが他の歌手より明らかに洗練されてるなと思って調べてみたら、
ドイツを中心に活動していて、バロックオペラも随分歌っているようです。
ただ、こういう硬質で細い声は好みの分かれるところで、バロックや現代音楽には合うものの、
声だけでドラマを表現するのは難しい。
どこか非人間的な声に聴こえてしまうのは細い声のハイソプラノ歌手の宿命かもしれない。

一番ソプラノで良かったと思ったのはアレクサンドラ ラズカゾフ(Alexandra Razskazoff)2:48:55~
女声陣で一番響きのポジションが安定していた。
高音はやや勢いになっていたものの、圧倒的に表現の幅をもった中低音を出せる、ヴェリズモオペラのアリアを選んだのも彼女の充実した中音域あってこそ生きたと言える。

ソプラノとしてしっかりした中音域で歌えることが如何にドラマを表現する上で重要かを彼女の歌は体現していたと思う。

こういうコンクールのファイナリストに残るような歌手達ですから、聴かせ所は皆それなりに良い声で歌えるので、そうなってくると最高音とか、超絶技巧とかではなく、当たり前に誰もが出せる音域でどう表現できるかで差がつく。

 

テノール陣は全員が鼻声気味で癖がある歌い方だったので私的には押せる人はいないが、
あえてい選ぶとすれば、ジョナサン カウフマン(Jonathan Kaufman) 2:19:25~
体格があると良いな~と思うのはこういう歌唱ができることか?
高音は喉があがらずちゃんと良いポジションで歌えているが、この体格あっての歌唱。
最初に歌ったアルルの女のアリアのように、繊細の表現が求められる曲でそういう表現が全然できない上に、中音域で伸ばしてる音が揺れるのはなぜだろう?
これは完全なる選曲ミスだと思うのだけど、逆に言えば曲がハマれば入賞していても不思議ではなかったと思う。
それくらい高音は立派。

 

とまぁこんな感じで新年一発目のコンクール評論とさせて頂きます。
皆様も有望な若手歌手を是非チェックしてみてください。

 

 

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