今年のドルトムント音楽祭でのベッリーニ、海賊(演奏会形式)の映像がアップされたのですが、男声キャストが熱いです。
久々にこんな全体のレベルが高い演奏会を聴いた気がします。
KLANGVOKAL Musikfestival Dortmund 2021: Vincenzo Bellini “Il pirata”
<キャスト>
Maria Pia Piscitelli: Imogene
Dmitry Korchak: Gualtiero
Franco Vassallo: Ernesto
Baurzhan Anderzhanov: Goffredo
Liliana de Sousa: Adele
Sungho Kim: Itulbo
コルチャックが素晴らしいことは最初からわかっていることなので、ここではあえて取り上げません(笑)
ソプラノのMaria Pia Piscitelliと重唱を歌っても、明らかに声の飛び方違うし、
個人的にはフローレスよりコルチャックの方が上手いんじゃないか?と思ってるくらいなので・・・。
そんな訳で、ここで絶対聴いて頂きたのは、バリトンのFranco Vassalloと、メゾソプラノのLiliana (Sofia) de Sousaの重唱です。
時間は1:12:25~1:25:15
ヴァッサッロは現在最高のヴェルディバリトンの一人だと私が考えている歌手なのですが、
どの音域を歌ってもポジションが安定していることは勿論のこと、アジリタも見事にこなしていて、高音がテノールっぽくない、本物のバリトンの高音を聴かせてくれます。
最後はAを出すのですが、余裕でこれを出しているのだから恐るべし!
これこそ軽さと強さと深さが共存した理想的なバリトンの声と言えるのではないかと思います。
一方のデ スーザですが、こちらも深い声と高いポジションの響きを兼ね備えていて、ディナーミクが実に自然。
高音のコントロールも、ソプラノでも歌えるんじゃないか?と思えるほど柔軟にこなせて、持ち声は強くても、決して力任せに張り上げることがないところが良いですね。
贅沢を言えば、アンサンブルでは少々ヴィブラートが気になるのと、少々高音で喉が上がり気味になるので、フォルテでは開放感がもう一つ欲しいかなと思えてしまいます。
まぁ、それは一緒に歌ているのがヴァッサッロなので仕方に部分もあるとは思いますが、声で押すというより、端正に旋律を歌い上げるタイプですね。
興味深いことに、デ スザの発声練習の映像がありました。
Liliana Sofia de Sousa I Vocal Warm-up
やっぱりな。
と思える発声練習をしてました。
子音”m”、”b”と母音”i”、これは唇の一番前で発音するので、”bi”や”mi”で響きの基本を作るのはとても有効な手段です。
ただ、鼻に入り易い人は”mi”を使うと逆効果になってしまうことがあるので、個人的には”bi”の方が使い勝手が良いと思っています。
とは言っても、よくアマチュア合唱なんかでは、”ば・び”・”ぶ”・”べ”・”ぼ”を歌おうとすると、
喉を締めてから発音をしてしまうために”んば”・”んび”・・・みたく頭に都度”m”が入ってしまう方が結構いらっしゃるのも事実で、そういう場合は”r”なんかも使いながら自分の癖に応じて子音を選ぶのが良いです。
”i”から”o”の動きは、前に響きを残したまま深さを掴むのに有効なので、端正な歌唱フォームの印象通り、こういうルーチンワークを叩き込んでいたのを見れて納得でした。
ただ、完全な解放した音を出すには、逆に開いた”a”を出す練習というのも大事で、それこそ、以前インタビューをお送りした高橋達也さんなんかは、”a”母音を基調とした開放的な声を軸として、他の母音も調整していますね。
これはどっちが良い悪いというより、曲によって合う合わないがあると思いますし、
個人で持っている体格や声にあったフォームというのがあるので、そういう意味でも正しい発声というのは人の数だけ存在する。というカルーソーの言葉は言い得て妙ですね。
最後に、ソプラノのMaria Pia Piscitelliですが、
この人は低音域で響きがなくなってしまう。
声は美しいのですが、発音が奥まっていて、どうしても響きだけで処理しようとしてしまう傾向があるように聴こえました。
プッチーニ トスカ Vissi d’arte
伝説的なプッチーニソプラノ、カーステンの演奏と比較すると、如何にピシテッリが言葉ではなく声で歌っているかがわかります。
Dorothy Kirsten
そんな訳で、どうしてもピシテッリの歌には不自然さを感じてしまって、
個人的には好きになれませんでした。
奥に入ってしまうと、やっぱり低い音は飛びませんし、その他にも、”e”母音なんかは響きが音域や言葉によって頻繁に崩れるので、そういう面でも他のキャストと比べると聴きお取りする感は否めませんでした。
とは言え、ピシテッリも全体を通して丁寧に安定した歌唱を聴かせてはいるので、
強力な男声陣、コルチャックとヴァッサッロ、大健闘のデ スーザと大変充実したキャストが揃った演奏会だったと思います。
そこまで長いオペラではないので、是非皆様も全曲聴いてみてください。
コメントする