先月(2021年10月18日)他界された名歌手、Edita Gruberova(エディタ グルベローヴァ)のリサイタル音源やドキュメンタリー映像がYOUTUBEにアップされだしたので、 改めて彼女の歌唱を振り返ってみようかと思います。
Liederabend Salzburg 1984
1946年生まれなので、40歳手前の演奏ですね。
プログラムはモーツァルト、ヴォルフ、Rシュトラウスの歌曲です。
Liederabend Salzburg 1985
プログラムはブラームス、ドビュッシー、ヴォルフの歌曲です。
グルベローヴァの声は、オペラファンなら誰もが認めるようなコロラトゥーラを得意とするハイソプラノなので、若い時の方が良い声だっただろうという先入観を私も持っていましたが、
実際は80年代より90年代の方が上手いということに、今更ながら気づきました。
Osaka recital 1990
84・85年の演奏はフレージングが全然できてなくて、中低音も全然響きがない。
その上、子音は”s”だけが良く出るんですが、それ以外の子音、特に”n”なんかは全然聴こえない。
高音に強い歌手なのに、高音は声を生かすために発音は蔑ろにされていて、”i”母音は全て”e”母音寄りに開いてる。
これではリートがリートとしての魅力を失って、グルベローヴァの声で歌われることにしか価値がないレベルの演奏といっても良い内容です。
それが90年の演奏になると、発音は依然として音域によって母音の質にバラつきがあるものの、フレージングがかなり改善されて、低音も少し鳴るようになってきた。
Recital Prague Opera 1991
自分が一番グルベローヴァの声を聴いたのが90年代なので、この歌唱のイメージが強い。
1年しか経ってないのに90年の演奏からの進歩が凄い!
録音環境の違いも大きいのかもしれませんが、真っすぐで一点の曇りもないピアノの響きを聴くと、これがグルベだよな~。と私なんかは思ってしまいます。
私の考える彼女らしい歌唱が堪能できる曲は、上記で言えば、
43:15~の Rシュトラウスの歌曲「Waldseligkeit(森の祝福)」でしょうか。
私の中では超絶技巧よりも、ピアノの美しさの方が印象に残る歌手でした。
Zagreb Lisinski Recital – 1997
超高音は97年で衰え初めているように感じます。
ハムレットのアリアは、全盛期のナタリー・ドゥセイがちょうど被ってる年代でもあるためか、
グルベの演奏聴いても、コレじゃないんだよな~という感覚が強い。
グルベの声はメタリックなので、フランス語の色合いが出ない気がして、フランス語の曲は今一つ耳に馴染まないのは私だけなのだろうか・・・。
リサイタルを追うのはこの辺りにして、
以下のようなドキュメンタリーも公開されていました。
Edita Gruberova – the documentary – subtitles: DEU, ENG, FRA – ‘The Art of Bel Canto
18分辺りでプラハの春の映像が出てくるのは中々衝撃的だったり、
歌いたくない時に庭仕事やってたりするのは意外な一面だったりしたのですが、
それはさておき
最初や50:00~の鼻歌のような部分、
14:00~、26:~、33:00~稽古シーン
なんかを聴いていてはっきりわかったのですが、
グルベローヴァは歌うとき全然息吐いてませんね。
以前、テノール歌手の高橋達也さんとのインタビューの中で、パヴァロッティが「声が上から落ちてくる」という話をしていたことを語ってくれましたが、
全く同じで、
グルベローヴァも息は前とか、下から上に向かって流してない。
今までに、「窒息するかのように」とか、「息を飲むように」という比喩表現を耳にしていたのですが、あぁコレか!というのがこの映像でわかりました。
どうしても、大きなホールで歌っている姿を見ると、グルベでも押してる感じの声の時があるのですが、鼻歌のように歌っていたり、リハでそこまで声量を出さずに歌っている姿を見ると、全然喉が上がらずに低音も魅力的に響いているのがわかりました。
やっぱり彼女は超一流のソプラノ歌手だったんだなというのが、この映像で再確認できました。
こういうことがわかってくると、
「響きをハミングと同じポイントに当てる」とか
「前に響きを集める」
みたいな指導は、喉を押して歌え!と言ってるのと同じなんだということがよく分かる訳で、
もし私の記事を見て下さっている方で、歌を習っている先生がそのようなことを仰るのであれば、すぐに別の先生を探されることをお勧めします。
天邪鬼な私は、グルベが人気に見合うような歌手ではないのではないか?
と疑っていた時期もありましたし、そのためにあまり彼女の歌は聴いてきませんでしたが、
改めて色々聴いてみると、勿論手放しに絶賛できない部分もあるにせよ、発声技術という一点に絞れば理想的な歌い方をしていたからこそ、歌手寿命が短い声種でも、声が重くなることなく維持し続けることができたことは間違えありません。
これだけの歌手ですから、これからも彼女の残した映像や音源は、無数のファンを獲得し続けることでしょう!
すでにコメントを出していますが、改めてグルベローヴァさんの御冥福をお祈り致します。
グルベローヴァさんは、2019年まで活動していたそうですね。
ここ数年は家庭の事情で 、CDを購入したり音楽雑誌を読む事が無い状態なので、グルベローヴァさんの情報はあまり知らなかったので、驚いてしまいました。
NHKEテレ(旧教育テレビ)でルチアの日本講演の映像やリサイタルの映像を見ていたのをおぼろげながら思い出します。
もう来日する事は出来ませんが、これからも自宅にあるCD聴いたりYouTubeの映像を観賞したいと思います。