軽やかな技巧と力強さを併せ持った万能メゾMaria Zoi

Maria Zoi(マリア ゾイ)はギリシャのメゾソプラノ

ゾイの生年月日はわかりませんでしたが、2024年現在36か37歳くらいだと思います。
2019年に「Edward M. Murray International Competition of Voice!」というコンクールで3位に入賞したことがきっかけとなって、現在米国を中心に注目を集める歌手となっているようで、キャリアを見るとクラシックの声楽を勉強しはじめたのはかなり遅いことがわかりました。

5歳位からピアノを習いながら、児童合唱に参加。
12歳位の時に教師に勧められて子供のための国際コンクールに出場して優勝したことがきっかけでプロの歌手を目指すようになったようです。

15歳の時に、ギリシャの作曲家ミキス・テオドラキス( Mikis Theodorakis)に気に入られて、録音や演奏会に出演していたそうですが、この頃はクラシックではなく、ポピュラー音楽の歌手だったようで、その後改めて22歳でクラシックの勉強を始めたとインタビューで語っていました。

ギリシャ国内で暫く活動した後、
2013年に、ミュンヘン音楽大学の博士課程マイスタークラッセ・ゲサングで学び、
2019年、上記のコンクールの入賞と、本人が一番印象に残っていると語った、ペーザロでのカレーラスによるマスタークラスの受講が転機となり、現在大きな注目を集める歌手となっています。

そんなゾイのレパートリーは、
ペーザロで歌っていることでもわかる通り彼女が得意とするのはロッシーニですが、その歌唱はドラマティックな声を待ちながら、非常に精度の高い技術でアジリタをこなすことができ、あらゆるレパートリーに適応できる能力をもっています。

インタビュー原文はこちらを参照ください。

それでは実際の演奏を聴いていきましょう。

 

ロッシーニ タンクレーディ Di tanti palpiti

こちらの演奏は2018年のもの。
この時点で声、技術共に非常に高いレベルで安定した演奏をされています。
特に低い音域でのアジリタは、雑にならず、レガートでで深みがありながら、胸に落ちることなく澄んだ響きで歌えているのが素晴らしいですね。

あえて言うなら、丁寧に歌い過ぎていて、メトロノームで拍を刻んだような棒歌い感があることが気になるのと、高音には改善の余地が見られますが、それでも年齢を考えれば十分完成度の高い声だと思います。

 

 

アッサム ティー《濃い赤褐色、リッチなアロマまろやかな甘みを合わせ持つ》 500g

 

 

カレーラスのマスタークラスでの演奏
ロッシーニ チェネレントラ Non piu mesta

残念ながら演奏だけで、実際の指導風景はありませんが、
あまりに完成度の高い演奏で聞き入ってしまいました。

高音はしっかり抜けるし、低音は無理に鳴らすことがない。
とても難しいことを、とても簡単にやってのけているように聞こえるところがゾイの凄いところ。

ロッシーニ演奏と言えば、バルトリが歴代最高と言う方もいらっしゃるかもしれませんが、ゾイの発声と比較すると、バルトリの声は癖が強く、本来ソプラノを歌える声でメゾをやってうように聴こえなくもない。
まぁ、バルトリやマリリン・ホーンといった歌手は他人が真似できない発声なので、あれはあれで完成されていると言えるのかもしれませんが、言い方を変えればクセが強く自然な発声とはちょっと違う。

 

バルトリ

この人、私としてはメゾソプラノと言うよりは、低音も出せるソプラノの楽器で、発声も特殊過ぎて、こんな歌手を育てた彼女の母親に興味があったりするのですけど、このスタイルで長年歌い続けられていることから、これが彼女に合った発声なんですよね。

 

 

ビゼー カルメン  Sequidilla

この演奏が2023年11月のもの。
これがYOUTUBE上で現状聴ける最新の音源なのですが、
中音域から高音へかけての技術が安定していて、低音も決して声を押し出すことがない。
カルメンという役から見れば、もっと低音に強さが欲しいとかはあるかもしれませんが、発声面だけを見れば、喉に負荷のかかる表現を切除して、純粋な声で勝負してる感じが好感を持てます。

と、ここまで聞いた限り、ゾイの演奏には穴がないように聞こえるのですが、
ドラマを表現するような曲になると課題も見えてきます。

 

 

サンサーンス サムソンとデリラ Mon coeur s’ouvre à ta voix

この演奏も、前に紹介した時と同様2023年11月の演奏なのですが、
この演奏を聴いて感じる印象は、良い声だけど味気ない。

原因はロングトーンでのディナーミクのなさです。
伸ばしてる音に変化がないので、フレージングが感じられず、どこか棒歌いのように聴こえてしまう。

そして、致命的にディミヌエンドが下手!
余韻を残して音量を落とすことが出来ないので、伸ばした音の終わりがぶつ切りになり、
この曲のもつ甘美な旋律と空気感が全て台無しになってしまう。

ゾイは拍節感のある音楽では、冴えわたる技巧を備えたキレの良い演奏をするのですが、
逆に拍の見えてはいけない音楽では、大きなフレージングを構築できずに拙い歌になってしまう。
この辺りが克服できれば、一流歌手として活躍できる能力があると思います。

経歴からも、声楽を本格的に学び始めてからそこまで年月が経っていませんから、
今後レパートリーをドラマティックな物へ広げていくのであれば、演奏スタイルしっかり適応させていくのではないかと期待しています。

 

このアリア
ボロディナの全盛期の演奏を始めて聴いた時は感動したものでした。

 

 

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