ソプラノ 坂口裕子の響きは本物だ!

坂口裕子(さかぐち ゆうこ)は愛知県立芸術大学、京都市立芸術大学大学院を卒業した後、G.ヴェルディ国立音楽院を出ている経歴の持ち主。

経歴の詳細はコチラを参照。

 

 

日本は学歴差別社会とよく言われますが、芸術の分野でも、
芸大を頂点に、国音、東音、東邦、武蔵野、洗足・・・というランクのようなものがあり、教育大学の音楽専攻なんかは特に軽んじられる傾向があるように思います。

実際、コンクールでは選考で落とされるのが嫌で、大学名は書きたくない。
という方もいるという話を聞いたことがあります。

更に、地方で歌ってる歌手は東京で活躍する実力がない。
という見方をされることもあるようで、

これは某有名作曲家が言ってることですが、
「東京で主役歌えない人も、地方では主役歌ってる。」
などと私がまだ受験生の時に吹聴されたものでした。

しかし、それはもう何十年も前の話なのではないか?
と思うようになりました。

と言うより、今までの記事に何度か書いたことがあるのですが、そもそも日本の音大の声楽科は行ってもあまり意味がない。
というのが私の今の意見だからです。

 

前置きが長くなってしまいましたが、
坂口氏は経歴を見てもわかる通り、東京に殆ど縁のない方で、
活動の中心は愛知~関西のようですが、実力は間違えなく現在の国内で活躍しているソプラノ歌手ではトップクラスです。

 

 

オッフェンバック ホフマン物語 Les oiseaux dans la charmille

こちらが坂口氏の演奏
では、国内で知名度の高い他のソプラノ歌手と比較してみましょう。

 

 

森 麻季氏

 

 

幸田浩子氏

全員かなり古い演奏なので今とは違いますが、
それでも、歌い方や声質が根本的に全然変わってしまっていることはないので、この3人を比較対象にしました。

さて、この曲は音程がハマればそれなりに上手く聴こえてしまう曲なので、比較にはあまり向かない曲ではあると思うのですが、
あえて取り出す一節は「 la chanson gentille」という歌詞の部分。
何度も同じフレーズが出てきますが、「gentille」の”i”母音で動きがあり、”i”が正しいポジションで歌えているかを確認できます。
坂口氏(1:55~2:04)
森氏(1:15~1:23)
幸田氏(1:14~1:24)

まず幸田氏は一番高い音へ入る前に完全に喉が上がったような、明らかに音質が変わる瞬間があります。
これは繰り返しの部分(2:23)でも同じで、ここではテノールで言うケロった状態になってしまっています。
これを聴くだけでも、幸田浩子氏を日本代表するソプラノだと言うには無理があり過ぎることが明白で、他のソプラノ歌手がそんな下手なんか!?
という話になってしまいますね。

一方の森氏ですが、実際は坂口氏がレガートで歌えているのに対して、森氏はレガートでは歌えていないのですが、中々違いが分かり難いので、
高音~低音、低音~高音への技巧的なパッセージを聴かせる部分で改めて比較してみましょう。
坂口氏(3:13~3:24)
森氏(2:27~2:39)

坂口氏はほぼ同じポジションのまま高音~低音、低音~高音を響かせることができているのに対して、森氏は一定の音程より低い音は響きが落ちています。

これを演技のせいだ!
と言う人がいたら、声を犠牲にする演技をするのが問題なのか、演技に耐えられない技巧しか持ち合わせていないかのどちらかになるので、演技のせいでフォームが崩れる。という言い訳は絶対してはいけません。
まぁ、歌を理解してない演出家だとそういうこともあるのかもしれませんが、少なくともこの映像は演奏会でのものなので演出家は関係ありませんね。

 

 

 

ヴェルディ 椿姫 Brindisi, E strano・・・
テノール 秋川雅史

この企画を考えた人は、
聴衆に本物と偽物の聴き比べでもさせたかったのでしょうか?
秋川氏のG辺りでズリ上げてやっと出てる感が凄くて、
これでテノールを名乗れる度胸というのがある意味凄いと思うのですが、
それはさておき、
坂口氏ですよ。

最後の日本歌曲、「からたちのはな」だけは個人的に違和感が凄くあるのですが、少なくとも椿姫はランカトーレやシエッラと比較しても全然上手いです。

日本歌曲の違和感は、母音が全体的に深過ぎることと、同じ音が続くと真っすぐ喋れずに、一つ一つアクセントがついたようになってしまうこと。
やっぱり、この時代の日本歌曲はシューベルトの歌曲からの影響が大きいのもあり、もっと口を開けずに狭い所を細く通す歌い方。
(と言って伝わるでしょうか?)で歌って欲しいですね。

 

 

Nadine Sierra

坂口氏の伸びやかな声に比べて、シエッラの明らかに不健康でドスの効いた響きは一瞬で勝敗が決まるくらいレベルが違います。
坂口氏の素晴らしいところは低音を丁寧に磨いたことがわかる響きをしていること。

高音が出るソプラノは日本に数多といますが、
これだけ自然な声で発音も明確、更に響きも上手い具合に胸声と混ぜた低音が出せて、高音までその緊張感を繋げることができる歌手は皆無といって良いほど少ないです。

口のフォームを見れば完全に縦で、表情は頬筋が吊り上がったり、
眉間にシワが寄ったりなんてしていません。
こういう人こそ日本を代表するソプラノとして新国とかに出て欲しいところですが、N〇Kニューイヤーコンサートにすら呼ばれないのですから、これも学歴差別なのではないか?と思わずにはいられません。

そういう私も学歴差別をしている訳ではありませんが、
関西の歌手事情はあまり詳しくないので、デカイ口は叩けないのですが、
いずれは、国内の東京以外で活躍する歌手を発掘しに色々遠征したいな~
という想いが、坂口氏のような方を見ると強くなるのでした。

関東以外にお住まいの方で、素晴らしい日本人歌手が地元にいる!
という方は情報提供頂けると助かります。

 

 

2件のコメント

  • 須磨の 音楽愛好家 より:

    久々に すごいソプラノ歌手を 聴きました しかも地元の兵庫県 龍野市とは もっと 全国レベルで 聴きたいです。
     

    • Yuya より:

      須磨の 音楽愛好家さん

      コメントありがとうございます。
      坂口さんは今国内に留まらず、世界的にみても大きな劇場で歌って遜色ない実力があると思います。
      本当にもっと全国的にこの方の認知度が上がって欲しいですね。

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